「あぁ、暖かい!」
「いらっしゃいませ、寒かったでしょう。こちらへどうぞ、今お茶を煎れますから…」
そう勧められたので、窓辺の席へコートを脱ぎ座った。
夕べから降り始めていた雪はほんの少し道の脇に積もっただけなのに、駅についてみると列車が運休していた。
仕方が無く会社に休みの連絡をいれ、歩いて自宅へ引き返す途中見つけた「あり茶房 お茶でもいかがですか」の看板に引き寄せられるようにこのお店へ入ってしまった。
店内は壁一面に銀色の茶缶が並んでいる。
暖かさに包まれながら茶缶を眺めていると、先ほどの女性がティカップを持ってテーブルへやってきた。
「てん紅という紅茶です。そのままでも美味しいですが、ミルクもとても合いますよ」
そう言って置かれたガラスのティカップからは、ふんわりと湯気が上がっている。
ガラスのカップのせいなのか、紅茶の色がとても綺麗で、お茶のふちには綺麗な輪のような光がさしている。
まだ寒さが残る掌を温めようと両手でカップを持ち上げると、紅茶の表面がくるりと揺れて、同時に柔らかな香りが漂ってきた。
やけどしないようにと注意しながらほんの少しだけお茶を飲んでみる。
柔らかな、だけど少しだけ柑橘のイメージが感じられるお茶だった。
ゆっくりと二口目を飲みながら、やはり柑橘の香りがするなと思った。
お茶が減った分だけ、カップにミルクを足してみた。
ミルクと合わさったお茶は、先ほどの柑橘の香りは薄れたが、その分お茶の甘みが感じられた。
「ホントだ…、ミルクと合いますね…」
「中国の紅茶だとキーモンやラプサンスーチョンなどが有名ですけど、こんなに柔らかくて水色の綺麗な紅茶もあるんですよ。あの隅の方の缶に入ってるんですが、さんずいにまことと書いててんと読むんです。昔の、中国の雲南省のあたりのことを指す地名からついた名前ですね」
そんな話を聞きながら、何度もお茶のおかわりをした。
窓の外では時々ふんわりと雪が舞っているのが見える。
でも、このお店の中だけは静かで暖かだ。
お湯の沸く音と、ゆっくりとした会話だけで時間が流れていく。
先ほど駅で出勤できずにイライラしながら電話をしていた時間と比べると、なんて贅沢な時間なのだろう。
これも久しぶりに降った雪と、雪に弱いこの町が与えてくれたボーナスかも知れない…なんて都合のいいことまで考えてしまっていた。
現実問題として、あと20分は雪道を歩いて家まで帰らなければならないのだが…。
そんな時間を楽しみながら、お店にある紅茶を全部見せてもらい、気に入った2種類を買ってお店を後にした。
勿論、てん紅はもう私のお気に入りのひとつだ。
明日の朝食はこの紅茶を飲みながらゆっくりととることにしよう。
シロップを沢山かけたワッフルと、スクランブルエッグにフルーツ…。
そう考えながら歩く雪道は、なんだか楽しくなっていた。

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