「わぁ。いい香がしますね」
「よろしければ、ご一緒にどうですか?」
偶然入った中国茶の店で、そう声をかけてきたのは女性の店員だった。
「え?でも…」
躊躇したのは、テーブルでお茶を飲んでいる二人は、どう見てもその店の客だったからだ。
「和香ちゃん、お客様もご一緒でいいかしら?」
「ええ、構いませんよ。ね?秀さん」
テーブルの二人は、にっこりと笑って椅子の上にあったバッグを動かし、秀さんと呼ばれた男性の方は、私を手招きしている。
その様子が、もうすでに私は友達、というような感じだったので、なんとなくこんなことがあってもいいかも知れないなと、誘われるまま席についてしまった。
「このお茶はね、この方が台湾で買って来たばかりの春茶なんですよ。梨山というところで作ってる高山茶なの」
そういって差し出された茶杯には、こんな小さな茶杯からこんなにも香りがたつものなのか、と思うほどに甘い香りがたっていた。
「すみません…。ご馳走になります」
火傷に注意しながら、そっと一口お茶を含むと、その香がすぅっと自分の中に吸い込まれていくような、優しい気持ちになった。
「おいしい…っていうか、なんだか気持ちのいいお茶ですね」
和香ちゃんと呼ばれていた女性が、手際よく次のお茶を煎れている。
流れるようなそのしぐさがとても綺麗だった。
「お二人ともありがとう。お茶うけをサービスしますね」
そういってさっきの店員が、いろんなものがのったお皿をテーブルに持ってきた。
「お店にもちゃんとお土産がありますよ」
そういって、その男性は大きな紙袋をお店の人に渡していた。
「今年はね、雨が多かったせいでまだ出揃ってなかったけど、出来はまずまずでしたよ」
「そうですか、じゃあサンプルが届くのはまだまだ先ですね…」
お茶は農作物だから、やはり天候に左右されるのだな、と当たり前のことを思いながら二杯目を飲んでいた。
「次は、大陸の方のお茶も煎れてみようね」とどんどんいろんなお茶がテーブルに並んだ。
一体この人は何者なのだろう?とちょっとぼんやりしてきた頭で考えていた。
「ちょっと待って…、秀さん。調子に乗ると彼女がお茶酔いしちゃうわ」
そういってお茶を煎れていた彼女が、新しいお茶を出そうとする彼をとめてくれた。
「お茶酔いって、お茶も酔ったりするんですか?」
そう尋ねると、彼女はじっと私を見て
「うん。どうやら貴方は酔い始めているみたいよ?」
実際、とても楽しくて気分が高揚していた。それは分かっていたが、お茶のせいだとは思わなかった。
初めての場所で初めて会う人と、いつの間にやら楽しくお茶を飲んでいる自分が気持ち良いのだとばかり思っていた。
結局、また来週あの店であの二人に会う約束をした。
お土産にと私まで沢山のお茶を貰ってしまったので、来週は何かお菓子でも作って持って行こう。
お茶の香を邪魔しないような、シフォンケーキにしようかな…と思いながらの帰り道は、やはりちょっと何かに酔った気分だった。

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