「あの…、シャンピンというお茶を探しているんですが、こちらにありますか?」
「どういう風な字を書くかご存知ですか?」
「いいえ…。もしかすると、シャンピンという名前でも無いかも知れないんです…」
「よろしければ、詳しくお話を聞かせていただけますか?」
意を決して尋ねた小さな中国茶の店でそんな会話を交わした後、勧められるまま席についた。
お盆に乗せたお茶を運んできた店員は、お茶を勧めて、そのまま私の正面に座った。
頑張らなくちゃ…と、茶杯の中のジャスミン茶を飲んで、息をついた。
「シャンピンというのは、祖父がよく飲んでいた紅茶なんです。久しぶりに話をしたら、またそのお茶を飲みたいねって話になって…。祖父は小さい頃台湾で過ごしたので、台湾に親しい友達がいたんです。その方がずっと自分で作ったお茶を送ってくださってたんですが、10年ほど前に亡くなられて…。それで、そのお茶が手に入らないかと思って探してみているんです」
そこまで一気に話すと、その店員は少し考えこむようにしてこう言った。
「今お出ししたお茶は、シャンピンと言うんですが、「香」るに「片」とこんな風に書きます」
そういって、すっとテーブルに指で文字をなぞった。
「でも、こちらは紅茶のという感じではないので…。今のお話からすると、シャンピン烏龍茶かもしれませんね」
「え?烏龍茶?」
「はい、台湾ではほとんど紅茶は作っていないんです」
昔飲んだお茶を思い浮かべながら、いくらなんでも紅茶と烏龍茶を間違えたりはしない、と反論しかけそうになったのを見透かされたのか、彼女はにっこり笑って、少し待つように言って席を立った。
「克己君、ごめんなさい。試飲の準備をするので、東方美人を棚から下ろしてもらえないかしら?一番上の棚なの…」
店の奥でお茶を飲んでいた、大学生風の男性にそう声をかけて彼女が奥に消えると、彼は手馴れた風に脚立を運んで棚から茶缶を下ろした。
その作業を眺めていたら、ちょうど目が合ってしまって少し気まずかった。
でも、彼が
「この茶荘は客使いが荒いよねぇ」
と言って笑ってくれたので少しホッとした。
「聞こえてたわよ、克己君。紳士はそういうことを言うものではないわよ」
そういって笑いながら彼女が運んできた道具がテープルに並び、さっきの茶缶からいくつかお茶の葉も出してきた。
「この東方美人と言うお茶は、沢山呼び名があってそのひとつが「香檳烏龍」なんです。ちょっと特殊な作り方のお茶で、醗酵度が高いので味は紅茶に近いです」
そういっていれ始めたお茶から、ふんわりとたちはじめた香は、確かに思い出にあるあのお茶だった。
「これ…。この蜜のような味。多分これです…。そうか、だから美女のお茶なんですね…。電話で祖父の友達と話したことがあるんです。お茶ありがとうって言ったら、美女のお茶だからねって、その時はよく意味が分からなかったんですが…」
良かった。見つかったと思ってホッとした。
「でも…、おじいさんの友達が作っていたお茶なら、おじいさんにとってこのお茶は、全然違うものかも知れないよ。畑や作り手が違うだけで、お茶はガラリと姿を変えるから。美女の基準は見る人の愛情によっても違うからね」
彼のその発言が、なんだかとってもきざっぽいなと思っていたら、案の上、店員の彼女から
「克己君がそれを言うのは、ちょっと早いと思うわよ」
と言われていた。
最初の緊張はとれ、お茶はとても楽しく飲めた。
お店にあった3種類の東方美人を購入して家路についた。
近いうちに祖父の所へ、このお茶を持って尋ねてみよう。
祖父はこの美人さんたちを気に入ってくれるだろうか。

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