「勝てる!!」
待ちわびているあのアンデスメロンはボクのモノだ!!
決して裕福ではない家庭だったのでメロンなんぞ、給食か従兄弟んちに行った時くらいしか口にする機会はない。小4の身体は紛れもなくメロンを欲しているのだ!!
難関の素っ気ないパサパサのパンも胃袋に押し込んだ、あとは自分の分のメロンに手をつける、半分の半分の半分、三日月状に切り分けられたそれは食べ盛りの、年に数回しかお目にかかることのない表皮の薄い“メロン”は少年の欲望を満足させるにはバーミヤンのキャニ程、遠い量だ。
三角パックの赤い牛乳、たまにコーヒー牛乳がでたりもする、献立表を見てイベント的なメニューだったりすると朝からみんなのテンションが上がったモノだ。
ボクは梅干し以外は好き嫌いがなかったからよかったけれど、頻繁に登場する人参やピーマンが嫌いな人にとっては給食という教科は憂鬱だったに違いない。これもクラスのルールで自己申告した苦手な食べ物はキレイに平らげないと食器を片付けることが許されない、よって給食後の掃除の時間まで給食と向き合うことになる、嗚咽を堪え、泣きながらピーマンを食べる谷○さんの悲痛な顔は今も忘れることは出来ない、グリーンピースが登場するとボクは戦略を立てる、クチウルサイ女子のKさん、これが大嫌い!テンションが下がる為に“狡(ずる)”が見つかる可能性が低くなる、彼女が掃除の時間まで残っているとよく「掃除のジャマだから早く食べろよー」なんてヒヤカシた。
シムケンがスイカを食べるかの如く、足りないメロンを胃に収め、口の中でモグモグしながら牛乳パックを解体し、折り紙のようにたたみこむ、同時に立ち上がる準備、椅子を引きケツを突き出したような体勢になる。
食べる速さも重要だが牛乳パックをタタむ速さが勝負のカギとなる!
ボクは廊下側の最後列、H田くんは窓側の二番目、先に立ち上がったのはボクだ!クラスメートから「おー」というどよめきが起こる。
数秒遅れてH田くんが立ち上がる、タイミング的に完全に“勝った”その刹那、H田くんは諦めの表情だ、ダッシュもしていない、メロン以外のおかわりをするつもりだろうか、ボクがその容器を覗きこみ手を差し出した時、
「センセー!033くん牛乳パックたたんでませーん」
Kさんの勝ち誇ったような声が狂室に、いや教室に響いた。
エ゛ーー!!! 振り返るとたたんだはずの赤い牛乳パックが紙の形状記憶からの反動でコの字にだらしなく広がっていた……。
ハァー、手ぶらで自分の席に帰る無様さといったら、自尊心を打ち砕かれた少年は益々頑なになる、クラスメートの視線が冷たい、メロンにかじりつくH田くんを羨ましく見ながら牛乳パックをタタミ直すのであった…。
【完】