2009/11/24

てのひらのメモ  読書

てのひらのメモ 「てのひらのメモ」 夏樹静子著(文藝春秋刊)。

 推理小説作家の夏樹静子が裁判員裁判の法廷を描いた作品。元々夏樹静子は,法廷ものでも力を発揮していたので,この流れに違和感はないですね。ちなみに,アマゾンのレビューで裁判員裁判の是非みたいなレビューが横行しているのにびっくりしました。制度がスタートする状況でこれをモチーフにするのは当然のことだろうと思います。

 また,著者には,「量刑」という作品もあって,こちらは職業裁判官の合議について描写されていますので,合議のあり方が一般の人を関与させることによってどのような変化を遂げるのか(遂げうるのか)についての著者自身の新たなアプローチと見ることもできますね。

 事案としては,夫を亡くし一人で子育てをするキャリアウーマンの女性が,小児ぜんそくを患う6歳の子を置いたまま仕事に出たところ,ぜんそくの発作で亡くなってしまったため,保護責任者遺棄致死罪を問われたという事案。
 
 まず,保護責任者遺棄致死罪は,裁判員裁判の対象事件なのか?と思ったけれど,遺棄に故意がある以上「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」として対象事件になるんですね。これは傷害致死なんかもそうで,このあたりは,ちょっと注意が必要ですね(ちなみに,傷害致死は,傷害は故意犯ですが,致死の部分は過失犯の性格を有するとされていますので余計な知識があるとややこしい)。

 これで起訴されるのか?というのが第一印象でした。ただ,そんな疑問を持ちながらも公判の審理を読んでいくと,判断にはかなり迷います。こういう判断の悩みを追体験できるというのが本書の特徴でしょうか。
 公判では意外な事実も明らかになりますが,概ね想定の範囲内でそれほど捻りがある訳でもないので,裁判員裁判のイメージをつかむためにもいいかもしれない。日本的な特徴としての「全体としてのバランス感覚」みたいなものが随所に出ていて,まあよいか悪いかは置くとしても,こんな感じで進むんだろうなーと思いました。

 本書を読んでみて裁判員裁判について思うのは,一定の事実について共通認識を持つことや判断にあたって基本とすべき原理を共有することの重要性。これは判断の前から持っていることが必要なのではなく,相互のコミュニケーションによって共有していく能力(伝える能力と受け取る能力)こそが問われる。
 自律的な判断を前提とした民主化という意味では,実はこの能力の涵養こそが必要なんだということを制度を通して見透かされているような気がした。
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2009/11/19

遊女の対話  読書

遊女の対話 他三篇 (岩波文庫 赤 111-2)
 「遊女の対話 他三篇」ルーキアーノス著,高津春繁訳(岩波文庫)。

 ルキアノス(紀元後120年頃−180年以後)は,自らシリア人と名乗っており,ギリシャ語で執筆した風刺作家。時代としては,ローマ帝国の頃の人ですね。

 収録作品は,表題作のほかに,「嘘好き,または懐疑者」,「偽予言者アレクサンドロス」,「ペレグリーノスの昇天」が収録され,訳者の解説が40頁ほど付いている。

 「遊女の対話」は,タイトル通り遊女たちの短い会話をいくつも納めたもので華やかな雰囲気が漂う。軍人に対しては冷ややかな所なんか,よく表現されていると思います。

 本書は,表題作と他三篇が全く性格が違います。他三篇は,非科学的な神秘主義に対する批判の書といった感じになります。

 「嘘好き,または懐疑者」は,テュキアデースがエウクラテースのところに行って,客人らと病気の治療法について論じ,遂には呪文や亡霊や不思議な体験について,合理主義的な発想から論駁を加えて一騒動を起こすという話。現代だと絶対ありえないと分かっているので,逆にその想像力に驚いて聞き入ってしまいそうになりますが,この当時はかなりの批判精神がないと,その手の話には立ち向かえなかったでしょうね。

 他の「偽予言者アレクサンドロス」は,予言によって荒稼ぎするやり方に対し痛烈に批判を加えていく書だし,「ペレグリーノスの昇天」は,大祭の日に自らを焼いて死ぬと宣言し実行した者に対する批判の書で,同じく表題作とは随分趣が違う感じ。

 「偽予言者アレクサンドロス」は,現代の感覚からすると,悪徳商法としてはほどほどで,むしろ努力しているなーと感じますね。騙されている方も,それほど害がなさそうなのが救いですかね。

 解説は,当時の哲学の状況について分析を加えた重厚なもので,やっぱり表題作だけが別物になっている印象が拭えません。
 とはいえ,そこは古代ギリシャ・ローマ文学,それぞれ楽しく読むことができます。
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2009/11/18

イーグル・アイ  TV,映画

イーグル・アイ スペシャル・エディション【2枚組】 [DVD]
 「イーグル・アイ」 D・J・カルーソ監督,スティーブン・スピルバーグ製作総指揮,シャイア・ラブーフ,ミシェル・モナハン,ビリー・ボブ・ソーントン出演(2008,米)。映画。

 米軍に勤務している双子の兄が亡くなると,突然コピー店の店員だった双子の弟に,見知らぬ金に大量の武器が送られてくる,突然かかってきた電話で逃げるように伝えられ,対テロ対策班にいきなり逮捕される。同じころ,離婚して自ら育てる一人息子をコンサートに送り出した女性の携帯電話に,あなたを起動したという電話がかかってくる。
 ノンストップアクション映画ですね。

 ありえないだろーと思いながら,「イーグル・アイ」と呼ばれる国防省開発の監視システムが原因で,いわゆる人工知能の暴走事例だと分かると,なるほどなーと思わされます。まあ,冷静に考えると,双子の弟の方は分かるとして,他の手段はあれだけの力があればもっと簡単なんじゃないかとか,作戦に伴う民間人の殺害についてはロックがかかっていないのかとかいろいろありますが,映画としては許せる範囲でしょうか。

 無人攻撃機のMQ−9も出てきます。実戦にも使われている訳で,恐ろしい限りですね。

 それなりに評価は高いですが,人間描写にもう少し深みが欲しかったかなと思います。
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2009/11/4

地獄・地底の足音−魍魎貸本・短編名作選  マンガ

地獄・地底の足音―水木しげる魍魎貸本・短編名作選 (HMB M 6-5)
 「地獄・地底の足音−魍魎貸本・短編名作選」 水木しげる著(集英社)。マンガ。

 なかなかブログ更新をする時間も取れず,レビューしなきゃいけないものも積み上がっているけれど,まずはこれ。水木しげるの貸本・短編名作選シリーズは,いずれもレベルが高いので読んでおいて損はない(ちなみに,「不死鳥を飼う男,猫又」のレビューはこちら。)。

「地獄」
 宇宙から日本上空に現れた不思議な浮遊物体。なぜか怪音を発して人々を悩ませる。その正体とは?水木しげるのSF長編。
 不思議な枕の発想が斬新。

「地底の足音」
 鳥取砂丘から少し離れたところにある小村。妖術が伝わる不思議な村から聞こえる怪音。「ヨーグルトー」のかけ声に圧倒(苦笑)させられますね。秘伝の書物をめぐる学術的な雰囲気など、いい味出しています。

「約束」
 旧友の訪問は昔の約束を果たすためだった。

「大人物」
 死者を甦らせる秘法を開発した主人公は、貧乏暮らしからの脱却のために西郷隆盛を復活させるが・・・。昔の人物を持ち上げるのは,ビジネス誌なんかでもよく見るけれど,こういう形になると皮肉が効いてくる。

「おおミステイク」
 アメコミ風のミステリー小編。短い中にもしっかりまとまっているのが,この頃のマンガの特徴ですね。

「壁」
 こちらも画風はアメコミ風。上の作品と共に東眞一郎名義で発表されたもの。

「危機一髪屋」
 開店したてのデパートの屋上から飛び降り自殺をしようとする女性が現れて・・。ねずみ男が登場する。

「大逆転」
 サラリーマンもの。定年退職した男は、用務員として再雇用されるが・・。

「魔石」
 三つの願いを叶える石の話。原作のある話(W・W・ジャコブズの「猿の手」)だけれど、水木作品には何度か出てくる話。

「がんばり入道」
 あるマンガ家が伝授してもらった「屁式分身法」の話。

「アマゾン大明神」
 河童の願掛けで、大明神が皆の顔をすげ替えてくれたが・・・。

「水虎」
 短い妖怪物。

「妖怪枕返し」
 妖怪物とサラリーマン物との合体は新機軸かも。

「親切な男」
 ショートショート

 以上,全14作品。
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2009/10/24

とろける鉄工所  マンガ

とろける鉄工所 1 (イブニングKC)
 「とろける鉄工所」 野村宗弘著(講談社)。マンガ。

 もうすぐ3巻が出る予定。鉄工所を舞台にしたマンガ。広島が舞台なので広島弁も織り込まれている。

 各話4頁ほどの読み切りなので,溶接の現場を巡るちょっとした話といった感じ。でも,こういう形の職業マンガって少ないので貴重です。著者の鉄工所勤務経験を生かしたリアルな話の展開で,ネタの仕入れ具合もなかなかのものです。

 コミカルに描いているので,いわゆる「労働者」を強調した頭でっかちな感じのマンガとは一線を画しています。富豪令嬢という設定の担当編集の欄外コメントも,まあ,ありかなという微妙な感じがなかなか。意外に楽しめます。

 ネタはどこまで続くのか,ガンバレ。
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