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「ハードボイルドドラえもん」【完結】  小説

<平成24年10月27日追加あり>


<平成24年10月25日追加あり>


 ふと思いついて書いてみた。
 自分でも何をやってるのかと思った。
 まあ、ネタとして眺めていただければ幸いです。


 文章量が多くなってきたので、続きは
http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/356.html
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********************






「ジャイアン、僕は教室に入りたいだけなんだ」
 その声は静かに響いた。一日のはじめを告げる朝の会。その直前の出来事である。いつも通りの遣り取り。だが、周囲に居る者達の緊張感を高めるには十分であった。


 どこにでもある小学校だ。ごく平凡で、ありきたりで、造作もない。特別な所は何も無く、歴史や伝統とも無縁。最新の設備があるわけでもない。特別な授業が取り入れられてるわけでもない。
 ただ、他と違うところがあるならば、そこに彼がいたという事か。
 その男……いや、少年は自分の教室の前で、立ちふさがる巨漢の同級生と対峙していた。「ジャイアン」もう一度少年が声をかける。
「僕は、黙って教室に入りたいんだ。もうすぐ朝の会も始まる。先生もくる。その前に着席しておきたいんだ。遅刻にならないために」
 少年の声は冷静で丁寧だった。物腰も低く柔らかい。
 好感を得やすい、少なくとも悪意は抱きにくい態度であった。発言の内容も特別なところはない。
 多くの学生が抱く遅刻への恐怖と、それを避けようという意味しか込められてない。少年からおかしなところを見つける方が難しかろう。
 だが、事情と状況次第ではそれもかわる。その態度は慇懃無礼と受け取られかねない。そして口から出す言葉も、相手の述べてる事と食い違いがあれば疑惑をもたれかねない。それが意図的ならば特に。
 少年の言葉は明らかにそれだった。ジャイアンというこの教室の、いやこの学校の。更にはこの地域の小学生の中で最も恐れられる男の発言を、少年は意図的に無視し、自分の意志だけをつげていた。
「……のび太」
 ジャイアンが口を開く。その声は辛うじて平静の範囲にとどまっていたが、それがジャイアンの精神的な努力によってなされてるのは明かだ。何かのきっかけで爆発するのは目に見えている。
 そのジャイアンは続けざまにこう述べた。
「俺の代わりに宿題やってこいって言ったよな?」
 横暴な話である。だが、暴力で周囲を従える絶対者にとっては当然のことである。少なくともジャイアンからすれば。
 だが、そんな相手の言葉を全く気にする風もなく、それどころか呆れながらの溜息を吐きながら少年……のび太は口を開いた。
「ジャイアン、僕は教室に入りたいんだ。先生が来る前に」
 ジャイアンの怒気を誘うには十分だった。


「のおおおおおおおおおお びいいいいいいいいいいい 太ああああああああああああ!」


 いきなり伸びたジャイアンの腕が、のび太の胸に伸びる。その手がシャツの胸をつかみ、引きずり上げようとした。
「ジャイアン!」
 止めたのはジャイアンの腰巾着だった。「待て、落ち着け!」常にジャイアンの陰に隠れてその威を借りるスネ夫と呼ばれるこの少年は、主であるジャイアンを止めて冷静になるよう促した。
「まずい、まずいよ!」
「離せ、スネ夫!」
 しかしスネ夫はそれでもジャイアンに伝える。
「危ないって。のび太の手を見てよ!」
 その言葉にジャイアンは、ハッ、として目を向ける。すぐにギョッとなった。
 いつの間に抜いたか。のび太の手にはショックガンが握られ、銃口はジャイアンを捉えていた。
 昼寝・あやとりにならぶのび太の特技、抜き撃ちである。ベルトやポケットから取り出す早さと、狙いの正確さはおそらく世界レベルであろう。オリンピック候補になってもおかしくない。出場すればそうれなりの記録を出すであろう事は確実な腕前である。
 そんなのび太を見てはさすがにこれ以上の横暴はできない。もし続ければショックガンが容赦なく放たれ、ジャイアンは激しい痛みと共に最低数分は意識を失う事になろう。命を失うことはないが、その痛みは堪えがたいものがある。
 スネ夫に引きずられるように後退するジャイアン。それに続くように教室に入ってくのび太。静まりかえった教室の中に足音だけが響く。そんな二人(正確には三人)のやりとりを眺めていた同級生達も緊張している。
 その多くは恐怖と圧力を二人から感じていた。のび太とジャイアン。どちらも恐ろしい力を持つ者達だ。そんな二人と一緒の教室である事に絶望している。そんな表情だった。

 だがその中に一人。
 他の同級生達とは違った目を向ける者がいた。


「のび太さん」
 座席についたのび太に声がかかる。隣の席に座る少女だった。
「おはよう、しずかちゃん」
 いつも通りの挨拶を口にする。だが、それはどこか事務的で空虚な感じがした。日常儀礼だからやった、という程度の意味しか感じ取れない。
 それでもしずかは「おはよう」と返す。そうしないとこの少年との接点が失われてしまいそうで。
「今日もまたタケシさんと……」
 その声はどこか心配そうであった。しずかにとってのび太もジャイアンも、そしてスネ夫もいつも一緒にいる友達だった。
 その三人が何かに付け反目しあうのはしずかからすれば辛い事だった。「もうちょっと仲良くできないの?」
 だがのび太の答えは冷めたものだった。
「ごめん、予習がしたいんだ」
 以前ののび太からでは考えられない言葉であった。
 だが、六年生に進級してからののび太は変わった。授業が終われば分からない所を先生に聞きに行き、予習と復習を忘れない。成績は少しずつであるが確実に伸び、少なくとも居残りや零点はなくなっていた。自主的な質問などがそれらに代わっていた。
 そんなのび太を見て悲しくなる。
 進級する前ののび太はこんな人間ではなかった。お調子者でおばかで、でも愛すべき人間だった。今のような冷静だけど冷酷で、学生の本分を全うするが事務的に人間ではなかった。
 それもこれもあの出来事が原因なのだろう。そう思うといたたまれなくなる。「ねえ、のび太さん。そんな思い詰めるのはやめて」
 だが、その声も気持ちも相手にはとどかない。教科書とノートに目を向けたのび太は静かに予習をはじめた。
 もう言葉は届かない。そう悟ったしずかは溜息を吐いた。
「……変わったわね、あなた」
 その声には留めようもない哀愁が、切ない思いが込められていた。だが、のび太に伝わる事はなかった。


 遡ること半年前。
 突然の別れが訪れた。ドラえもん…………未来の世界からやってきた猫型ロボットはそれを寂しそうに告げた。
「お別れだよ」
 最初その意味がまったく分からなかった。
 理解したとたんにのび太は酷くうろたえた。
「ど、ど、ど、どうしたんだよ、ドラえもん」
 小学校最高学年という責任有る立場への進級を控えた者とは思えない上擦った声だった。
 ドラえもんはそんなのび太に静かに理由を語っていく。
「もうダメなんだ」
 その言葉をはじめに伝える事情は、なるほど、致し方ないと理解するには十分なものであった。


 未来からやってきたドラえもんは、本来ならば時間法違反である。未来の者が過去に関われば、未来を変更してしまう可能性がある。だからこそ、過去の存在への接触は厳に戒められている。発覚すれば相当な処罰が待っている。
 だが、それにも関わらずドラえもんはのび太のもとに長期滞在していた。のび太からすればそれは当たり前の事になっていた。しかし実際にはそれはかなりの温情措置であった。


 時間逆行者を取り締まるタイムパトロールは、のび太とその子孫のあまりの悲惨さを知り、その状況に大いに同情した。時間逆行に厳しいタイムパトロールだが、ごく例外的にそれを認める場合もある。
 それが「あまりにも劣等的な存在を、自立が可能になるように成長を促す場合」である。放っておいたら社会に、ひいては未来に悪影響を与える場合に対処するための措置である。
 ここにおける劣等の定義・基準は相当低いものであったが。
 その低い基準、人間としていかがなものか、という水準に認定されていたのび太だからこそ、生活を共にできたのだ。ドラえもんが過去に身を置く事を認められていたのはそのためである。
 だからこそ数々の冒険や長期間にわたる生活が可能であったのだ。


だが、それも終わる。


 のび太の成長・発育が一定水準以上になったと判定されたのだ。そうなってしまえばドラえもんに帰還命令が出される。拒否する事など出来るわけがない。指示に従い未来に帰還するしかなくなる。拒否すればドラえもんを送りこんだセワシなどに罰が及ぶ。
「だから帰らないといけないんだ」
 そういうドラえもんの顔は実に悲しげだった。聞いてるのび太も滂沱の涙を流している。「そんな、ひどいよ!」
 そう叫ばざるえなかった。
 自分がダメ人間だったから一緒に居られたのに、まともになったらそれもできないなんてあんまりだった。
 何よりも、ドラえもんとの思い出はあまりにも大きくなっていた。
 最初は便利な道具程度の気持ちだった。困った時の駆け込み寺とも。だが、一緒の時間を過ごすうちにかけがえのない存在になっていった。いつも一緒にいてくれる友達。それがドラえもんであった。
 その友人を失う。考えた事もなかったし、考えたくもない事であった。しかもそれが避けられない事態として目の前に表れている。
「いつ?」
「うん?」
「いつなの。帰るのは」
 そう尋ねるのがやっとだった。
「あと一ヶ月くらい……三月までだね」
「そんな、早すぎるよ!」
 思わず叫んでしまった。
「ねえ、もうちょっと何とかならない? せめてさ、みんなで一緒に花見にいくくらいまでは」
「これでも伸ばしてもらったほうなんだ」
 本来なら、とっくに帰還命令は出ていたらしい。それを何とか引き延ばしを頼み、ここまで伸ばしてきた。もうこれ以上は無理だという。
「そんな」
 足下が崩れていくような気がした。
「なかなか言い出せなくて。とうとうこんな時期になっちゃったよ」
 ごめん、とドラえもんが頭を下げた。
「あやまらないでよ!」
 叫んだ。あやまって欲しくはなかった。ドラえもんが悪いわけでもなんでもないのだから。
「じゃあ、もうどうしても帰る事になるんだ」
「うん。だから、突然にならないようにこうして事情を説明しようと思ったんだ」
「そっか」
 それもドラえもんにとってはつらい事だったのだろう。
「もう二度と会えないのかな」
「そうだね。こちらからはのび太君の事を眺める事はできるけど。のび太君と連絡をとる事は出来ないだろうね」
「そっか……」
 淡い期待をかけたが、それも散華した。
「…………」
「…………」
 お互い無言になる。
ともに、何を口にしていいのか分からないのだ。言いたい事は山ほどあるのに、そんな思いを形にする言葉が無い。時間にしてみれば短い期間である。だが、それは二人の間に予想以上の絆を作り出していた。
 沈黙のあと、二人は抱き合い、共に涙を流した。そして、残った時間を有意義に過ごすべく様々な事をした。
 一ヶ月は呆気ないほど早く過ぎ去り、別れの時は予想以上に早く訪れてしまったような気がした。


 別れの時。
 ドラえもんは二つの道具をのび太に渡した。
「いいかい、これから僕がいなくなったらのび太君は一人で問題にあたっていかなくちゃならない。そんな時に少しでも役に立てば、と思うんだ」
 渡してくれたのは、タケコプターとショックガンだった。それも使い捨ての廉価品ではなく、再使用が可能なきちんとした物である。
 どちらにも専用の充電アダプターがついていた。
「ドラえもん……」
「たぶん僕がいなくなったらジャイアンが調子にのると思うんだ」
 それは予想できた事だった。頷くのび太にドラえもんは言葉を続ける。
「だから、もしジャイアンが暴走したら、これを使って君の身を守って欲しいんだ」
 それは永遠の別れを迎える友人からの、最後のプレゼントであった。
「こんなものがなくても今ののび太君ならちゃんとやっていけると思うけど。余計な手間を増やす必要もないからね」
「ドラえもん……本当にありがとう」
 最後の最後まで自分を心配してくれた掛けがえのない友。
 そんな友にのび太はただ「ありがとう」を繰り返すしかなかった。他にどんな言葉で気持ちをあらわせば良いのか分からなかった。自分の勉強不足をこんなに憎んだことはなかった。
「じゃあ行くね」
「うん、またね」
机の引き出しに消えていくドラえもんに、のび太は再会を約束した言葉をかけた。


 またね。
 それが絶対に叶わないと知りながらも。


 一人残された部屋で、のび太は静かに泣いた。もう泣かないと誓ったのに。


 そして。


 懸念された事態が発生していった。ドラえもんの帰還と同時に歯止めを失ったジャイアンが暴走を始めた。最初は教室を。次ぎに学年を。そして学校を。腕力でもって牛耳ったその後は、近隣の小学校にまで手を伸ばした。
 圧倒的で容赦がなかった。この付近の空き地や公園、運動場は全てジャイアンのものとなった。逆らう小学生は容赦なく叩きのめされた。誰もが暴力に怯え、誰もが服従を余儀なくされた。
 野球をする時には一番良い場所を常に確保した。お菓子・おやつは常に巻き上げられた。スネ夫によって組織化された悪ガキ共は、この状況を利用して悪さをつくした。町は一気に無法地帯となった。
 毎週のように開かれるジャイアンリサイタルとこれへの強制参加は、多くの者達に精神的な苦痛を与えた。登校拒否や学級崩壊も増えた。学校へのお菓子の持ち込みは当たり前。宿題の代わりも当然の義務。
 逆らおうにも抵抗できる者がいなかった。小学校の段階でこれである。行動範囲が広くなる中学校に進学したらどうなるのか、と誰もが恐れていた。


 のび太がショックガンを手に取るのには十分な理由だった。


 果たして使うべきかどうか。悩みに悩んだ。だが、腕力で抵抗できないのび太にはこれしかなかった。自分に与えられたささやかな才能、抜き撃ち。それしかこの圧政に立ち向かう手段はなかった。
 もしかしたらもっと別の道があったかもしれない。しかし、少年に思いつくのはそれだけしかなかった。
(ドラえもん……)
 かつていた友に語りかける。
(僕は、間違ってるかもしれない)
 躊躇いはあった。
(でも、どんなに間違っていても、僕はやるよ。これで誰かが救えるなら)
 覚悟は悲壮なものだった。
 それでものび太は動き出した。


 最初は小さな集団からだった。低学年の子からあめ玉を奪ってる連中だった。警告を最初に告げた。せせら笑いが返ってきた。それでももう一度忠告を放った。今度は逆ギレをされた。
 一発だけパンチをもらったところでショックガンが閃いた。つるんでいた三人が仲良く道路に倒れた。


 アスファルトと電柱のコンクリートジャングルに、時代後れの侍が現れた瞬間だった。


 タケコプターで迅速に駆けつけ、ショックガンで悪党共を退治する。絶望にうちひしがれていた誰もがそこに救いを見た。予想外の救世主の出現に、誰もがわきたった。
 悪党共はこの英雄の存在に驚きながらも、しかし決して退こうとはしなかった。最初の頃は、見つけて叩きのめすためにあちこちを徘徊していた。やがてその姿は少しずつ消えていった。
 路地裏のガンマンはどんなに多くの敵があらわれても立ち向かっていった。その銃口は常に敵をとらえ、その意志は決してくじける事は無かった。
 町はようやく平穏を取り戻した。
 しかし全てが元通りというわけにはいかなかった。
 正面から当たるのが不利とさとったジャイアン達は、その活動を地下におさめた。見えにくくなった悪さは、表立っていた頃より質が悪くなった。それを探しだすだけでも一苦労だった。
 そして誰もがのび太と距離を置き始めた。英雄であるからこそ、のび太を対等に扱わなくなった。
 一段高いところにたてまつって崇めた。信奉者は増えたが、対等の立場で付き合ってくれる者はいなくなった。
 何よりも、大切な人を失った。ジャイアンにとってものび太にとっても仲の良かった女性であるしずかが双方と距離を置いた。崇拝や恐怖のためではない。遠くに行きすぎてしまった二人についていけなくなったゆえに。
 それを出来杉が慰めている事を知ったのは暫くしてからだった。のび太は胸にかすかな痛みをおぼえた。
 やらねばならないと思ったから、力があったから。立ち上がって世の中をよくしていった。その果てにあったのは孤独だった。


 今日も同じ学校の同じ教室に三人はいる。
 のび太、ジャイアン、そしてしずか。だが、その三人の間には越えがたい距離と溝があった。
「おはよう」
 教室に教師が入って来る。今年ものび太達を受け持つ事になったこの男は、教室内の空気をあえて無視して平常運転を開始した。
「起立」
 日直が声をかける。
 その声に従って始まる今日は、とてつもなく灰色だった。







********************

<平成24年10月25日追加>




「失礼しました」
 もはや日課となってしまっている放課後の質問を終える。
 職員室で先生に分からないところとこれからの部分を質問し、明日に備える。勉強が後れがちだったのび太にとって必要な事だった。
 おかげさまなのか、最近はようやく六年生の授業に追いつくようになった。分かってくれば理解も早く、最近は授業の内容も簡単に頭に入ってくる。そうなった事を両親も教師も素直に喜んでいる。
 それもこれもドラえもんを心配させないためであった。タイムテレビで過去を眺める事ができるドラえもんが、自分が居なくなった後ものび太がダメなままでは毎日がつらかろう。そう思うが故の努力であった。
 そして。
 学校の成績を上げること、少なくとも標準程度の成績の為の努力は、新たに増えてしまった活動のためでもある。まともに勉強時間をとるのが難しくなってしまったのび太にとって、放課後の質問時間は貴重であった。
 町の裏側に潜んでる連中との衝突。その為にはどうしてもそれなりの時間を費やさねばならない。ドラえもんがいれば秘密道具でどうにかなったかもしれないが、それは今はない。足を使って探すしかなかった。
 となれば必然的に独自に動く必要が出てくる。
 そのため、やれる事を先にやっておく必要があった。独習や塾に使う時間はない。できればそちらに時間を割きたかったが。義務と現実の兼ね合いの中で見つけた妥協点であった。
 足は昇降口……ではなく保健室へ。
 誰も居なくなった廊下に足音が響く。昼間は他の誰かのざわめきのあった校内も、今は静かなものだ。幾分寂しさも感じる。
 その中を進み保健室のドアを開けたのび太に声がかかった。
「あら、おかえりなさい」
 養護教諭であった。ややハスキーな、しかし男の何かに訴えかける響きだった。
 スーツとタイトスカートの上に白衣を着た、典型的な保健室の先生の姿である。
 だが、それを身につけてる存在は、そんな殻におさまるようなものではなかった。
 第三ボタンまで外されたYシャツの胸からは深い谷間があらわれている。
 白衣に包まれた肢体は驚くほど細い。
 タイトスカートに包まれた腰は、目を引くほど豊かである。
 それでいて裾から覗く手足はしなやかで細い。
 やや癖のある腰まで届く長い髪と、華奢な首の上に備えられた面はどこか蠱惑的であった。
 まだ二十代の半ばになるかどうかという頃合いのはずだが、漂わせている色香は成熟した女のそれだった。
 居場所を間違えてるとしか思えない女の「今日も寝ていくの?」という問いかけに「ああ」と応えてベッドへと向かう。
 日課と言えるほど当たり前になった事だった。これから夜が来るまではここで過ごす。
「そう」
 わきまえてる女はそれだけ言うとあとは何も追求しなかった。のび太のしてる事も意義も分かってるだけに。だからこそ彼女はこの部屋を提供している。男が休める唯一の場所として。
「今日は宿直だから何時まででも大丈夫よ」
「ありがとう」
 必要な事だけ伝え合う短い会話。だが二人にはそれで十分だった。仕切りの中にあるベッドに入ったのび太は、そのまま目を閉じる。
 たいして眠る事はできないだろうが、それでも体を休めておかねばならなかった。男の夜はハードである。体力は少しでもあった方がいい。
 女もそれを察して何も言わない。ただ静かに男が寝息を立てるのを待った。ほどなく規則正しい呼吸が仕切りの向こうから聞こえてきた。


 今、町の夜はジャイアンに支配されている。その始まりはドッキリメンバーチョコからであった。
 独自の漫画キャラの描かれたカードの入ったこのチョコは、そのカードに書かれている設定や、敵対勢力の説明などが小学生を中心とした子供達の興味をひき、瞬く間に流行した。
 これを販売していたジャイアンの実家、剛田商店は連日売り上げ記録を更新した。もちろんジャイアンがドッキリメンバーチョコの購入を強制したためである。
 だが、それだけならばたんにジャイアンの家の懐が潤うだけであった。ここにスネ夫がその悪智慧を働かせた事が事態を大きく変えた。
 スネ夫は、購入させた者達が手に入れたカードを奪い取り、その中で稀少価値の高いものを強引に奪い取った。反対する者はいるはずもなかった。誰もがその後ろにいるジャイアンを恐れていた。
 そうやって集められた稀少カードは、そのまま好事家達へと売却された。金に糸目をつけないマニアは、小学生相手とは思えない高値でそれらを買い取った。その相場は最低でも数千円。
 ものによっては数万円もざらだった。
 原価30円程度のお菓子を原材料にした商売としては利益率が高すぎた。もちろんスネ夫も奪ってばかりではない。一応はそれらのカードは買い取ったという形をとっている。好事家への売却価格からすれば低い値段で。
 稀少カードの強制買い取り価格は数百円から数千円。裏で取引される金額に対していいとこ一割といったところだった。だが、それが不満を大きく減退させる要因にもなった。
 そして予想外の行動が飛び出した。
 金をもらった者達は、すぐにジャイアンの家に向かってドッキリメンバーチョコを大量購入する。再び稀少カードを手に入れるために。当たりの確立を考えれば割の悪い投資であったが、それに気付く者はいなかった。
 かくしてスネ夫の智慧によってジャイアンには巨額の金が転がり込むようになり、その預金残高は小学生とは思えないほどになっていた。平均的なサラリーマンの年収程度、と言えば巨額さが分かるだろうか。
 そしてこれだけの事を考えついたスネ夫である。
 その金をただ眠らせておくわけがなかった。於その金を資金にして賭博場を開いた。ドッキリメンバーチョコのカードを使って。
 元々カードを使って遊べるようになっていたので勝敗をつけるのは簡単だった。そしてカードで遊ぶのは小学生から高校生まで幅広く存在する。それらを対象にした博打は驚くほど早くひろまった。
 勝てば数十万円もの金が手に入る事もある、ときてはまる者は続出した。当然ながら一握りの勝者の陰には数え切れない敗者がいる。そんな敗者の中でも、入れ込んでる者は莫大な借金をこしらえた。
 そうした者達は容易くジャイアンの手先となっていった。借金の額を下げるために、ジャイアンの代わりに悪事を働いた。
 もちろん「子供のやってる事」と借金を踏み倒そうとする者もいたが、そんな者達には手下となった小学生が忍び寄っていった。様々な秘すべき事を暴かれ、弱みを握られていった者達は、これもまたジャイアンの犬になっていく。
 当然ながら地元を縄張りにしているヤクザ達が黙っていなかったが、それらも介入してきた警察によって沈黙せざるえなかった。警察にもジャイアンに弱みを握られた者や、買収される者が存在した。
 警察内部の恥部もジャイアンに握られるようになり、この地域でジャイアンに手を出せる者は誰もいなくなった。
 それが更なるジャイアンの権力を確実なものとしていった。
 その力をもってジャイアンは、地域における購買の全てを己の実家に集中する事を命じた。剛田商店が更なる売り上げを記録したのは言うまでもない。
 かくしてジャイアンの家はご町内経済の中心地となり、圧倒的な売り上げは店舗拡大とスーパーマケット化へと発展。町内の物流すら手中にしていく事となった。
 ご町内は事実上ジャイアンのものと言ってもよかった。逆らえる者は誰もいなかった。一人を除いて。


 その一人は、学校を出て夜の町にくりだす。
「行くのね」
 ただ一人見送る保健の先生。のび太は何も言わずに保健室を出る。一人残った女は、溜息をもらして出て行った男の行く先を案じた。
 校門から閑静な住宅街へ。外で遊ぶ子供達も家へと帰ってる時間である。のび太はそれらとは逆にその中へと繰り出していく。事前に聞き込んだ事で様々な情報を得ている。それを辿って今日も歩く。
 電柱がならび生活臭の漂う町の中を歩む一匹の狼は、今日も町にのさばる悪と闘うために一人彷徨っていった。
 月明かりが照らされる時代後れのサムライは、無法の町の最後の良心として今日もひとりぼっちの戦争を開始していった。
(ドラえもん)
かつての友に語りかける。
(もう誰にもすがれないよ)
昔だったら「ドラえもーん!」と泣いて家に駆け込めばよかった。それはもう出来ない。
 ヒーローのいなくなった町で、少年はすがる者を失った。そして少年はすがられる者へと変わっていった。
 誰も助ける者もなく、誰に助力を求める事も出来ず。それでものび太は前へと進んでいく。ポケットにショックガン、背中にランドセル、心に正義を入れて。
 それが今はいない友に示せる矜恃であり、道を踏み外している同級生への義務と信じて。
 向かうは町の外れにある廃屋。
 ダミー会社名義で購入されたそれは、今や賭博場として周囲から人を集めてるという。それが本当ならば放置するわけにはいかない。
 巨額の金を動かし、権力すら操るのも、全ては賭博から始まったのだ。まずはそれを潰す。できるかどうかは分からないが、やるしかなかった。
 向かう途中しずかの家の前を過ぎていく。
 通り道だったのは偶然だが、それも何かの導きだったのかもしれない。見上げる窓からはカーテン越しに光がこぼれている。
 足が止まった。
(今頃勉強中かな)
諦めたはずなのにまだ心のよりどころにしてる少女の事を想う。未練にも似たその思いを胸の片隅にしまいこみ、のび太は止まっていた足を動かした。
 今必要なのは過去ではない、これからであった。
 ここで自分が何もしなかったらこの先どうなるのか。今ですら酷いこの町が更に酷くなったらどうなるのか。今見上げてる窓の向こうで、あの女(ひと)はどんな日々を過ごしてしまうのだろうか。
 考えがそこに至った時、男は自分の中に戦う理由がもう一つあったのを思い出した。諦めたはずの存在への思いと共に、今もそれは胸の中にある。
(いってくるよ、しずかちゃん)
 もしそれを直接伝えたらあの女はどんな返事をしてくれるのだろう? そんならちもない事を考える。思い描く自分にとって素敵な予想図も、ただむなしいだけだった。
 本当に告げたわけでもない、実際に起こったわけでもない事などどれほど素晴らしくても所詮は絵空事である。夢の中では全てが自分の思い通りだ。
 だが、現実はそうではない。
 目が覚めればそこにあるのは辛く苦しい事実だけがある。その事実の中への踏み出していかねば先には行けない。
 それを悟る程度には少年は大人に近づいていた。


 一歩、一歩と夢から離れていく。振り返ればそこにいてくれる夢を守るためにも、のび太には前に進むしかなかった。
 それが夢との距離をどれだけ作るとしても。






********************

<平成24年10月27日追加>



「のび太あ……」
 ジャイアンは苛立ちもそのままに憎むべき敵の名前を呼んだ。
 その声を聞いただけで、側に控えていた者達が恐怖にひくつく。ジャイアンの組織を支える智慧と、ジャイアンを警護する剛の者達が。
 いずれ劣らぬツワモノである。内面・外面問わず少々のことではびくともしない。剛胆を絵に描いたような者達であった。そんなツワモノ達が例外なく怯えている。それだけジャイアンという存在は大きかった。
 元々剛強だった体躯はこの半年で更に厚みを増し、既に実年齢の平均的な体格を越えていた。醸し出す雰囲気も飢えた獣より荒々しく、傍に近づく事を誰もが恐れた。
 半年という期間でくぐり抜けた修羅場は、表情に凶相を浮かび上がらせ、そこらのヤクザ以上の凄みをたたえている。これでいまだ小学生という事実を知れば誰もが驚くだろう。
 そんなジャイアンでも手におえない存在がいる。
 その事がジャイアンを苛立たせた。
(のび太あ……)
 ひ弱で腕力も弱く智恵も無い。根性なんかからっきし。そんな少年だったのび太が脳裏にちらつく。
 しかし。
 どんな事があってもジャイアンの思い通りにならない存在。
 それがのび太だった。それは今にはじまった事ではない。ドラえもんがいる間は何かにつけ抵抗してきた。いや、それ以前からジャイアンの腕力に従わない存在だった。
 ジャイアンが恐れられてるのは今に始まった事では無い。更に子供の頃からその腕力で同年代を従わせてきた。場合によっては年上の者であっても叩きのめしてきた。そうやってジャイアンは確固たる地位を築いていった。
 だが、その中にあってのび太は唯一ジャイアンに逆らっていた。それはたんに一言多いという程度ではあったが、ジャイアンからすればそれが面白くない。他の誰もがジャイアンにひれ伏す中で、のび太だけは例外だった。
 だからこそドラえもんがいなくなった今がチャンスだと思った。
 すぐに行動に出た。スネ夫もあとに続いた。瞬く間にジャイアンは頭角を表し、ご町内の裏を取り仕切るようになった。全ては思い通りになったと思った。


 その思惑を外したのが、やはりのび太だった。


 のび太は、のび太だけは立ち向かってきた。
 ドラえもんが残した最後の道具を手に。
 町の夜と裏側に乗り込んできた。ジャイアンの手下を倒し、勢力を削ぎ落とし、少しずつ確実にジャイアンに近づいてきた。
 学校では表だって争うような事は無い。やれば両者共にただではすまないのが分かっている。だから勝負は誰も見てない所で決する必要があった。有利なのはジャイアンの方。そのはずだった。
 しかしジャイアンも忘れていた。のび太が凄まじいガンマンであった事を。軟弱・貧弱な坊やになんでそんなものがあるのかさっぱり分からないが、動かしようのない事実としてそれは存在している。
 その腕とショックガンが組み合わさった時、のび太は最強の敵になった。おまけにタケコプターでの空中移動が可能だ。神出鬼没であり、どんな囲みも抜け出す最悪の存在。それが今ののび太だった。
 このままでは全てを失う。ジャイアンはその可能性に恐怖した。以前とは比べものにならないほどの売り上げを上げるようになった剛田商店と、更には自分の思い通りになる手下。それらがもたらす利益。
 失うには余りにも大きかった。
 誰憚る事無くおもちゃを巻き上げ、お菓子を奪い取り、宿題も誰かにさせる事ができる。その特権を失いたくなかった。だからこそのび太を始末しなければならない。にも関わらずそれができない。
 悪い事は重なるもので、組織内の不穏分子やかつて陥れた者達がのび太に協力する始末である。それらは見つけしだい粛正しているが、後から後から出現していく。ご町内の裏側を支配する巨大組織も、内実は虫食いだらけになりつつあった。
 そこに悪い報せが更に届く。
「大変です!」
 手下の一人がジャイアンの部屋に入ってきた。
「なんだ?」
「賭博場が襲撃されました!」
「なんだと!」
 文字通り座ってる椅子から飛び上がった。
「のび太があらわれて、賭博場を荒らしていきました。客は逃げて、警備の連中も全員気絶させられてしまいました」
「ふざけるな!」
 そう叫ぶしかなかった。ここのところ収益が急速に落ちてきてる最中である。それでも最大の収益源が賭博場である。もしこれが壊滅させられたら、組織の崩壊すらあり得る。このままでは駅前に展開予定の剛田商店(スーパーマケット化)の工作資金すら危うくなる。
「それで被害は?」
 なんとか苛立ちを抑え要点を聞く。回答は悲惨なものだった。
「それが、捉えられた警備の連中や、上客がその場に残されまして。駆けつけた警察がそれらをしょっ引いていきました」
 ジャイアンは血の気が引くのを感じた。
 いくら警察にも伝手があるとはいえ、こうも大っぴらにされては手の回しようがない。最低限守らなければならない部分をどうにか抑えるにしても、全てを助ける事はできないだろう。場合によっては警察が手のひらを返すかもしれない。
 弱みを握られてる警察といえども、自分に飛び火するようならジャイアンをかくまいはしないだろう。逮捕された者達も司法取引でジャイアンを差し出すかもしれない。そうなってはおしまいだった。
「すぐに何とかしろ。俺に何かあったらただじゃおかねえからな!」
「は、はい!」
 その場に居た全員が頷いた。激怒したジャイアンが何をするのかは本当に分からない。家までおしかけて家族をぶちのめす何てことくらいは平気でやる。
 そしてジャイアンの執念深さは半端なものではない。どこに逃げても確実にやってきて怒りをぶちまけていくだろう。それを知る側近達は、急いで警察や役所などに連絡をつけた。
 ジャイアンの息がかかった政治家にも話を通す。金や暴力で籠絡されてる議員達は、一も二もなく首を縦に振る。その方面から問題が拡大する可能性は少ない。だが、それも一時しのぎにしかならないのはジャイアンとて理解している。
 襲撃された以上、賭博場に足を運ぶ客は激減するだろう。そうなれば議会や警察、その他有力者に回す金が足りなくなる。そうなればいずれ自分の権力基盤が失われるだろう。それだけは何としても避けねばならなかった。
 新しい賭博場の用意と、客の呼び込み。それと警備体制の強化。やらねばならない事が増えていく。何よりも最優先でやらねばならない事が。
「のび太あ……」
 憎悪を込めた声が腹から沸いてくる。
 見えないところでどうにか始末をつけなければならない。でなければジャイアンの今後が絶望的になる。あらためてのび太の始末を決意したジャイアンは、周囲にいる者達に叫んだ。
「誰かのび太を倒してこい!」
 居並ぶ者達はすぐに飛び出していった。


 ジャイアンが指示を出すまでもなく手下の者達は動いていた。
 自分達の利益をおかすのび太を探しに。
 町の裏にあらわれたたった一人の男に煮え湯を飲まされた者は多い。何人もの仲間がのび太にやられていた。
 むろんショックガンで死ぬような事はない。どんなに酷くても気絶してる時間が長引く程度だ。だが、その瞬間の痛みと、のび太によって潰された利益は消える事は無い。ジャイアンの組織の者達が憤るのも当然であった。
 何より自分達の利益が大事な者達である。他人の痛みなど頓着しない。そんなものがあるとすら思ってない。『自分が痛い目にあった』事だけを理由にして相手を叩きのめす。それに疑問を抱かない者達ばかりであった。
 のび太の行いにも、当然のように怒りを剥き出しにしてあたってる。彼らには『自分らが不当な事をしてる』という意識はない。それどころか『せっかくの儲けをダメにされた』という一方的な被害者意識を抱いてるくらいである。
 どこまで自分本位で自己中心的。そんな心がもたらす被害者意識。そこから始まる憤り。
 彼らにとっては全て正しい(しかし世の理からすれば明らかにおかしい)その考えに基づき、組織の者達はのび太を追っていた。
 毎度毎度何度も痛めつけられてるにも関わらず、彼らは決してのび太から逃げようとしない。どれほど痛くても決して死なない、という事実が彼らを大胆にさせていた。痛みを避けようとする学習能力が欠如してるのかもしれない。
 そんな彼らが賭博場を中心とした周囲に展開しのび太を追っていく。空を飛べるのび太を捕まえるのは容易ではないが、血の気にはやる彼らにそんな考えは無い。ただひたすらにのび太を求めていった。


 そしてのび太も逃げるつもりはさらさらない。
「いたぞ!」
 あっさりと相手の前に姿をあらわしていく。見つけた組織の者達は勢いよく襲いかかっていく。だが彼らは全く気付いてなかった。
 のび太が姿をあらわす時、十分な距離をおいてること。
 自分達とのび太の間に身を隠す場所がないこと。
 のび太が凄まじい銃の腕を持ってる事。
 それらが何を導き出すのかを。


 ショックガンが火を噴く。


 追い詰めたようでいて実は逃げ場のない状況におかれた組織の者達は、のび太によってすぐに鎮圧されていく。
 倒れた者達は痛みに体と顔を引き攣らせながら路地に転がっていく。
 のび太はそれらを踏みつけていった。遠慮する事無く。
 追跡者への恨み、というわけではない。それも多少はあるが、それよりももっと単純な理由で追っての来た方向へと向かっていった。
『大きく拡がった包囲網は一カ所当たりが薄くなる』
 ただそれだけの事だった。
 それゆえに、一カ所でも穴があけば、そちらの方はほとんど人がいなくなる。一番安全な方向とは、敵が向かってきた方向である。のび太とてバカではない。学校の勉強はともかく、危険察知やとっさの機転という能力は並外れている。
 そしてドラえもんや仲間と共にくぐり抜けた数々の冒険が、そういった能力に磨きをかけていった。危機対処能力は、下手な専門家より上だ。これまで巨大な敵を相手に生き残ってきたのは、銃の腕だけが理由ではない。
 夜の闇の中を疾走する影となりながらのび太は進む。まだ倒さねばならない敵は多い。明日を迎えるためには今日のこの瞬間を生き延びねばならない。終わりの見えない闇の中を彷徨ってるような気分にとらわれる。
 それでものび太は信じていた。この先に必ず幸せな未来があると。たとえそれが幻想でもそれを信じ、それを現実にするべく奔走する。
 いつかご町内に平和が戻る時まで。



「まだか」
 問いかけに返ってくる答えはいつもと変わらない。
「申し訳ありません」
 怒鳴りたくなる衝動をおさえ、スネ夫は座席に背をあずけた。こんな事で一々苛立っていたら体も心ももたない。
「とにかく何としても見つけろ。どんな事をしてもだ」
「はっ」
 返事をして退出する部下を見ながら、しかし彼らではのび太をどうする事もできないだろうと考える。そんな甘い相手ではない。
「のび太あ……」
 行動を共にした事があるだけにのび太の凄さは分かる。
 ジャイアンと違い腕力はないスネ夫だが、その分だけ狡猾で抜け目ない性格をしていた。その視点からすれば、のび太はかなりの素質をもった人間にうつっていた。


 ドラえもんの道具に頼ってはいたが、それらを使いこなしてよりよい結果を見つけ出していく能力。学校の勉強には向いてないかもしれないが、物事の本質を見抜く能力。ジャイアンにも負けない強い意志。
 数々の冒険をくぐり抜けてきた生存能力の下地となるそれらを、スネ夫は見抜いていた。おそらく他の誰よりも正確に。こすっからい小悪党であり、強い者の威を借りる狡い人間であるが、それだけに見抜く目は確かである。
 そんなスネ夫には手下達がのび太をどうにかできるとはこれっぽっちも思えなかった。部下を動かしてるのは、他に手段がないからだ。
「まったく。勝手な事してくれて」
 見当違いな怒りをのび太にぶつける。
 悪いのはジャイアンやスネ夫の方であり、正しいのはのび太の方である。他の多くの者達と違い、スネ夫はそれ事態はしっかり理解していた。ただ、理解した上でそれでも悪事に手を染めていた。
 力のないスネ夫にとって、成り上がるチャンスは限られていく。自力で道を切り開く能力がないのは彼自身が一番よく理解していた。だからこそジャイアンという圧倒的な力を借りた。そこで自分の能力を発揮した。
 それが結果としてご町内と周辺地域のワルをまとめる事となった。スネ夫からすればそれだけの事であった。使える資源を適切に使おうと思ったらそうするしかなかっただけであり、それをスネ夫は悪いとは思っていない。
 これがもっとよりよい物を使えたならば結果も違った物になっただろう、とは思う。だがそういう便利なものがなかった。もし現状が悪いというならば、それはよりよい物を用意できなかった周囲の責任である、とも。
 身勝手極まりない考えであるが、スネ夫は一貫してそういう考えでいた。また、自分は確かにこれだけのものを手に入れた、という自負もあった。確かにスネ夫の手腕は相当なものだった。
 わずか半年で町一つを支配するほどの勢力を作り上げたのだから。その才能は確かなものである。だが、その才能を精神の方に問題があった。ジャイアンや手下達と同じで、他人への思いやりに欠けていた。
 その一点が、町内を最悪の状態に陥れる事となった。なまじ才能があるのがあだになった。本人がそのように考えないし、発想すらしない事が問題を大きくしている。おそらく今後も気付く事はないのだろう。
 そんな思い浮かびもしない事よりも、のび太の方がスネ夫にとって重大な問題だった。作り上げた組織や影響力、莫大な資金。これらを守るためにどうすればいいのか。部下に指示を出した後、スネ夫はその事を考えていた。


 のび太をどうにかしない事にはどうしようもないのだが、それは現状でどうにかなるほど簡単な事では無い。
 むしろ、それにとらわれて肝心な事が疎かになるのが怖かった。今大事なのは、組織の今後である。
 なんとしても組織は維持しなければならない。そして現状を鑑みれば成長させていかねばならない。どれほどいきがってみても、自分達がまだまだ弱小勢力である、という認識をスネ夫はもっていた。
 的確な判断、というべきだろう。周辺の弱小勢力を圧倒する勢いはあるが、組織として見れば脆弱さが目立つ。だからこそ更なる拡大と増強が必要であった。守りに入る事の必要性も分かっているがそれはまだ先の事。
 となればのび太一人に関わってる場合ではない。どれほど被害が大きかろうと、実際にのび太が与えてる被害は全体からすれば小さい。失ったものもあるいにはあるが、それは成長してる部分で十分補っていける。
 賭博場も新しい場所を用意すればいいし、実際に稼働を始める直前までいってるのが数カ所ある。ダミー会社も複数設立し、それらを使った資金洗浄や資金稼ぎも始まっている。それらが実を結ぶのはもう少し先ではあるが。
 だが、成果を手に入れるまで待ったとしても、のび太による被害は十分賄える。むしろのび太に関わるべきではないのだ。そちらに割く事になる労力や資金の方がよっぽど大きな穴になってしまう。
 組織の経営に携わってるだけにその事が痛感できた。むろん、そんな数字であらわせない要素があるのも承知している。放っておけば組織の信頼に関わるという事も。だが、それを考慮に入れてものび太に関わる理由は無い。
 そう考えるのが、ジャイアンや他の者達とスネ夫の違いなのだろう。
(学校で顔を合わす程度にしておけばいいんだ)
 それがスネ夫の実感だった。どれほどのび太ががんばろうとも、組織はそれ以上の早さで拡大していく。いずれのび太では対処できなくなる。
 その時に一気に片付ければいい。ん
 そこまで、早ければ四年五年。おそくとも十年もすれば手がうてる。そこまで待つだけの時間は十分ある。何せジャイアンも自分も若い。待つ事に使えるだけの余裕はある。
 だが、そこまで見通せるほど将来性のある人間は組織にいなかった。ジャイアンも手下達も基本的に肉体労働専門である。頭を使う奴もいるが、それらも『効率よく相手を叩きのめす』という方向にしか考えない。
 全体の事と、これからの事。現状で出ている損害と獲得してる利益。それらを考慮する者がスネ夫以外にいない事が組織の問題であった。もっとも、基本的に小学生しかいないのだからそれも仕方ないのだろうが。
 だが、いくら規模が大きくなったとはいえ、一度に使える人間が数十人。すぐに使える資金が数千万円程度ではどうしようもない。せめてこれが十倍程度にならないと、組織としての安定感を確保できない。
 そこまで組織をもっていく自信はあるし、ある程度の目処は付けていた。そのためには目先の問題に目をつぶる必要があった。それが出来ないのは面子と意地が邪魔をしてるせいだった。
 どちらもスネ夫に縁のないものであるが、ジャイアンと手下には備わってるものだった。それが話をややこしくしてしまっていた。スネ夫がダメだと言っても誰も聞きはしない。
 もし強く抗議すれば組織が空中分解を起こす可能性もある。そうなってしまっては意味がない。避けるための手段は、損害にならない程度にのび太を追求し、必要上の出費を抑える事。それしかなかった。
 良くも悪くもジャイアンの腕力と凶暴性、それによる恐怖によって成り立ってる組織である。スネ夫とてそれを利用してここまできたのだ。ジャイアンがやると言ったら従うしかない。


 自分がかなりまずい立場に陥ってると思った。のび太と徹底してやりあう事も、無視して放置する事もできない。舵取りが一番難しい事態である。
(まったくもう)
 愚痴が幾つも胸の中でわき起こる。
 それらを全て抑えこみながら状況を見守るしかない。どれ程頭が切れてもカリスマ性のないスネ夫には、参謀・軍師として大将を補佐するしかないのだから。
 だが、その一方でスネ夫は冷静にここから抜け出す事も模索していた。何も最後まで一緒にいる必要もない。一蓮托生なんてのは忠誠心溢れる連中にまかせておけばよい。
 状況を冷静に見きり、適切な場所で抜け出す。火の粉を全部かぶる必要は無いし、傷は小さい方がよい。できれば無傷で、責任は全て別の者に押しつけられるのが最高だが、そこまで高望みはしない。
 再起が可能な程度の痛みで抑えるためにはどうしたら良いか。今のスネ夫にはそれもまた重要な問題だった。そう考えてるうちに電話が鳴る。
 「もしもし?」
 受話器を取ったスネ夫は、つとめて平静な声を出した。相手からの話を黙って頷きながら聞いていく。最後に「そうか」と言って溜息を吐いた。
「ごくろう。撤収してくれ」
 そういって電話を置く。
 予想通りであったが、やはりのび太には逃げられてしまった。
 当然だ。くぐり抜けた修羅場の数が違う。太古の地球でハンターと競り合い、宇宙の果ての惑星で殺し屋と抜き撃ち勝負を行い、アフリカで独裁者と戦った。
 魔界の魔王と渡り合い、海底で最終兵器と対決した。クーデターを起こした反乱者と戦争をしたこともある。
 他にも様々な冒険をくぐり抜けたのび太である。数だけがたのみの小学生のかなう相手ではない。
 わかりきった結果だったので、それ事態には落胆も絶望もしない。だが、これからそれをジャイアンに報告するとなると話は別になる。
「やれやれ」
 思わず口から嘆きが漏れた。
 それでもスネ夫は自分の役目を果たすべくジャイアンのもとへと向かう。
(今夜も荒れるだろうな)
 今までの事を思い出せば容易く想像出来る。それでもスネ夫はジャイアンのもとへとむかう。
 しなくてはならない事をスネ夫はきちんと理解していた。実行せねばならない事も。決してそれを喜んではいないが。組織の台所事情を預かる身としては避けるわけにはいかない事だった。





********************






 楽しんでいただけましたでしょうか?



 ネットで「サイバーパンク ドラえもん」なるものを見つけて、「これおもしろいなあ」と思ったのがきっかけ。んで、本日なぜか「ハードボイルドなドラえもんってどうだろ?」と思いついてしまいまして。
 んでこんな事になった。
 我ながらアホだなと思う。



 でも、笑えたならランキングくりっくおねがい。



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 続きは http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/356.html にて掲載してるのでよろしくです。



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 んでは〜
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2012/10/25  21:29

投稿者:みそかつ

とっても面白かったです!
サイバーパンクどらえもんは私も読みましたw
子供心の思い出がシビアでハードすぎる現実に会うと奇妙な気持ちになりますね−


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