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「ハードボイルドドラえもん」2【完結】  小説

<平成24年11月9日追加>


<平成24年11月6日追加>


<平成24年11月4日追加その2>


<平成24年11月4日追加その1>


<平成24年10月29日この記事にて初投稿>


 以前掲載していた http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/354.html の方が手狭になってきたのでこちらにて続きを掲載。


更にこの記事も長くなってきたので、続きを http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/360.html に掲載しております。



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 長くなってきたので、本文は「続きを読む」に格納。
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********************





 翌日。
 学校は荒れた。
「うおおおおおおおおおお!」
 いきりたつジャイアンが教室で叫び声をあげている。誰もがその周囲二メートルに近づけないでいた。
「のおおおおお びいいいいい 太あああああ!」
 理由を叫ぶジャイアンは、自分の席で拳で机を叩いている。やり場のない怒りをそこにぶつけるしかないのだろう。
 原因の方は、他の同級生と違い、ジャイアンの隣の隣の席に座って平然と教科書を眺めている。
 対立する両者がこれだけ近くにいるというのは異常な事であろう。だが、二人は小学生であり義務教育に縛れれている。そんな二人が学校に通うことを否定する事ができるわけもない。
 どれほどの力をもっていても。
 ジャイアンとてそれは同じである。どれほどの権力を握ろうとも制度がそうであるならば現状では従わなくてはならない。もちろんサボる事もできるが、それはこれからの進路を狭める事にもなる。
 そういった煩わしさから解放されるために組織を拡大せねばならない。だが、それが上手くいかない。ジャイアンの苛立ちはそんな所からきている。ましてその原因がすぐそばにいる。これほどの不条理は考えられなかった。
 その考えがそもそも自己中心的なものでしかないのだが、ジャイアニズムの提唱者である彼がそんな殊勝な事を考えるわけもない。思い通りに物事が運ばない事に怒りを抱く、ごく普通の暴れん坊にすぎない。
 そんなジャイアンをたしなめる者などいるわけもない。他の者達にできるのは、早い所先生がやってくるよう願うだけだった。学校における日常はこのようなものであり、平穏とは無縁な世界になりつつあった。
 授業中、休み時間、給食。全ての場合において緊張感の漂う空間になっている。ジャイアンの前では言うに及ばず、ジャイアンのいない所ででも誰もが重苦しい空気を感じていた。例え本人が前にいなくても、ジャイアンに通じてる者はいる。
 事実上の監視体制の中にある学校において、自由はほとんどなかった。強いて言うならばジャイアンに関わらなければさほど問題ないという程度である。ジャイアン配下の横暴は目に余ったが。
 教師の介入もほとんど意味がない。一応教師のお説教もあるにはあったが、それらもほとんどが表面的なものになっていた。金になびく教師もいるし、そうでなくても家族が人質にとられてる者もいる。教育委員会ですらジャイアンの息がかかった者が出て来ているという。
 まともにジャイアンとその関係者に意見するものはほとんどない。試験の成績だけは通知表に反映せざるえないが、通知書の評価欄の記入と内申書への記載は現実とほど遠い改善がなされていた。
 全学生からのお小遣い徴収はさすがに無かったが、そのかわりが剛田商店での商品購入である。この支配された空間においてジャイアンの自由にならないものはなかった。


ただ一つの例外を除いて。


 学校という場所が好きな分けではなかった。むしろ嫌いな方だった。それでもこんな状況の中にいると以前が恋しくなってくる。感傷に耽りながら屋上で空を眺めている。昼休みという時間をのび太はここで過ごす事が多くなっていた。
 どこにいても気の休まる事はないが、こうして空を見上げてる時はゆっくりできた。鬱陶しい現実を少しは忘れる事ができた。現実逃避と言われればそれまでかもしれないが。
 不安や悩みは常につきまとっていた。いつもの活動がどれだけ効果をあげてるのか分からない。やっつけてもやっつけても切りがない。賭博場は一つ一つ潰しているし、町はびこってる悪ガキ共も片付けている。
 それでもジャイアンの組織は潰れる気配を見せない。学校では表だってジャイアンやその配下が威張りちらす事はなくなったが、見えにくい場所で何をしてるか分からない。その全てを見つけ出す事はさすがに無理だった。
 中心になってる人間を捜し出してケジメをつけさせる。それでどうにかしていくしかなかった。そうすればたいていの場合は大人しくなる。もっとも、そうやって誰かが脱落すれば別の誰かが空いた場所に入り込んでしまうが。
 悪い話ばかりではない。のび太に情報提供してくれる者や、のび太と共にジャイアンの組織に立ち向かってくれる者も出て来ている。それらはまだ小さな集団だが、かけがえのない仲間であった。
 だが、その活動はどうしても小さなものにならざるえない。結局一番大きな負担をしてるのはのび太であった。その事に疲れていた。
 屋上のドアが開いたのはそんな時である。


「ああ、ここにいたの」
 保健室の先生だった。今日も無駄に色気を振りまいている。風が癖のある髪を少しだけゆらしていた。
「隣、いいかしら?」
 尋ねながらのび太の隣に腰をおろす。
 承諾も断りもしてないのび太であるが、だからといって邪険にするわけでもない。ちらっとそちらに目をやるも、すぐに空に目を移す。
「たいへんね、本当に」
「…………」
「また今日も相談が来たわ」
 保健の先生は独り言のように言葉を続けていく。
「五丁目あたりでのさばっる連中がいるんだって。そいつらがお小遣いをせびってるって。まだ一年生や二年生よ。そんな子達から百円二百円を巻き上げてるんだって」
「…………」
「五年生が中心人物。あと、四年生と三年生が数人。名前も聞いてあるわ」
「あとでそいつらの事を教えてくれ」
「そう…………はい、これ」
 のび太の返事を聞いて保健の先生は一枚の紙を渡した。名前と住所と学年学級が買いてある。
「そこに書いてあるのがさっき言った連中」
「助かるよ」
 そう言うとのび太は立ち上がった。もうここにいる必要は無い。校内に戻っていこうとする。その背中に保健の先生は声をかける。
「いいの?」
 何が?
 疑問を抱いたのび太は振り返る。
「あの女の子。何も言わなくていいの?」
 その言葉にのび太は自分を振り返る。不思議と何も感じなかった。胸の痛みも何も。それが良いのか悪いのか分からなかったが。
「別に……」
 それだけ言うと校内に戻っていく。
 その姿を見送った保健の先生は、悲しげな表情を浮かべた。男が背負ったものとこれまでの事、そして捨てねばならなかったものを思うと涙が溢れそうになる。
 それでも立ち上がっていくのび太に、保健の先生は逞しさよりも憐れみをおぼえずにはいられなかった。


 数時間後。
 放課後を迎えた五年生の悪ガキは、手下をともなって自分の縄張りへと向かっていく。ジャイアンの組織に組み込まれた彼にはその区域が与えられた。他の縄張りに入らないかわりに、そこでなら何をしてもいいというお墨付きを得ている。
 その中で彼らは、お菓子を巻き上げ、オモチャを巻き上げ、お小遣いを巻き上げ、スカートを巻き上げていた。注意をする大人もいない快適な空間がそこにあった。漫画もお菓子もゲームも好きだけやる事ができる。
 敵対してた連中は組織と共に潰していく事ができた。おかげで今この界隈で彼に逆らう者はいない。ジャイアンの組織に入って本当によかったと思っていた。だが、この日はいつもと少しばかり様子が違った。
 縄張りに入っていつもの駄菓子屋に。そのつもりで歩いていた彼の前に一人の男があらわれた。眼鏡にランドセル。どこにでもいるようなありふれた顔立ち。だが、漂わせている迫力は凄まじものがった。
「な……」
 思わず後ずさりしてしまう。見覚えがあった。彼らの天敵である。
「……のび太」
 彼らにとって最も忌むべき敵である。それがなぜ自分の前にいるのか? 理由など考えるまでもなかったが、それでも彼は目の前の現状に疑問をいだかざるえなかった。
「どうして」
 答えは向けられたショックガンの銃口だった。それから逃げようとしたところで、男は意識を失った。他の者達もその後に続いた。


 倒れたゴロツキ達を見てのび太は後ろにふりむく。
 物陰から仲間達と、低学年の者達が出て来た。仲間達はゴロツキ達を縛り上げていく。低学年の者達はそれを嬉しそうに眺めている。
「良かったな」
 のび太はそう声をかける。
「うん!」
 返事が返ってくる。そんな低学年の者達にのび太は言葉をかけていった。
「いいか。ああいう人間になるんじゃない。もしそんな人間がいたら立ち向かう事を恐れてはいけない」
 言葉は続く。
「……もし友達がそうなったら、何がなんでも止めるんだ。たとえそれで友達と永遠に別れる事になっても」
「はい!」
 子供達の返事は力強かった。それを聞いてのび太は少しだけ笑みを浮かべる事ができた。
 低学年の者達に伝えた言葉。それはのび太が自らに言った言葉でもあった。どんな事があっても道を踏み外してはいけない。踏み外した人間に立ち向かって行かなくてはならない。例えそれがかつての友人であっても。
 最低最悪の状況だった。さっさとここから逃げ出したくなるほどに。だがもう逃げ出す場所はない。頼れるのは自分だけなのだ。かつては縋っていた立場ののび太であるが、今は縋られる立場である。
(ドラえもん……)
 そんな事を思い浮かべるとやはり彼を思い出してしまう。いつも縋っていた相手を。もういないその存在のありがたさを噛みしめつつ、のび太はゴロツキを連れてその場を後にした。
 そんなのび太の気持ちは伝わってなかっただろう。だが、全てを背負っていこうとするその背中を、低学年の子供達は憧れの眼差しで見つめていた。


 五年生の悪ガキが目を覚ましたのは、薄暗い場所だった。何かの倉庫だったのだろうか。妙にかび臭い場所だった。起き上がろうとしてそれができない事に気付く。手足は縛られていた。
 なんだ、と思って周りを見る。
 同じように床に転がってる仲間がいた。こちらは気付いてるのと気付いて無いのが半々だった。全員少し離れた場所にいる。声をかけようとしたが、それもできない。口にはガムテープがはってあった。
「気付いたか?」
 声がかかる。恐怖をおぼえながらそちらを見る。のび太だった。
「じゃあ始めようか」
 そういうとのび太は手にしたショックガンを向けてきた。撃たれた瞬間の痛みを思い出して顔が青ざめる。
 のび太は躊躇うことなく引き金を引いた。痛みが体に走って意識を失う。その意識が回復するとまた撃たれた。それが何度も繰り返された。
「ぐう!」
「ひっ!」
 塞がれた口の中で悲鳴が繰り返される。
 それをのび太は機械的に繰り返していった。口で言っても分からない連中である。「言えばいいだろ」なんて通じない。痛みを体にたたき込むしかなかった。許しを請う声も無視する。そもそもそんなのは塞がれた口では伝えようもないが。
「お前らが何をしてきたかおぼえてるな?」
 のたうつ連中に声をかけていく。
「やってきた事をやり返してやる。許しは聞かない。お前らは誰も許しはしなかったんだからな」
 そういってのび太は制裁を加えていった。
 これまでの経験から、こうしないと悪さはなくならない。そう悟っていた。だから手加減はしなかった。
 実際にこの者達が悪さをする事は二度となくなった。
 そして、のび太を見て恐怖に顔を引き攣らせるようになった。


 その一方で低学年の教室での出来事を聞くようになった。「それはダメ!」そう言って悪い事を叱る者が出たという。
 それがあの時の子供達であると知って、のび太は少しだけ微笑んだ。



********************

<平成24年11月4日分 その1>



 授業が終わりあとは帰宅するだけとなる。
 足早に学校から出て行く同級生達と同様に、しずかも教室を後にする。物騒なご時世である。寄り道もしないで早めに帰る事は誰もが心がけてる事だった。
 ただ、その原因が同じ学級にある事がしずかをはじめとしたこの教室にいる者達のつらいところだった。
 彼女達も他の多くの者達同様に巻き込まれてるだけなのだが、周囲はそうは見てくれない。同じ場所にいる、という一点で同じ種類の人間にくくってくる。
 そういった扱いをされたくないから誰もが授業以外ではこの教室に近づかないようにしていた。ただ、しずかはそんな中で少しだけ例外的に教室の中の事に関わっている。
 のび太とジャイアンとスネ夫。今は争ってるこの三人はしずかの友人でもある。
 その事実をしずかは失いたくなかった。共に大変な冒険をくぐり抜け、ドラえもんという共通の思い出を持つ仲間達である。できれば昔のように仲良く(とは言い難いところもあったのは確かだが)なれないものかと願っていた。
 今は無理でもいずれは、と。それがどれだけ儚い願いなのかも分かってはいたが、そうなるよう祈らずにはいられなかった。
 そのため、しずかは他の者達が敬遠するこの三人に可能な限り声をかけるようにしていた。
 伝える事はいつも同じだった。
「もう馬鹿な事はやめて。前みたいに仲良くやりましょうよ」
 だが返ってくる答えはいつもその願いをはねつけた。


「それができれば、ね」
 のび太は寂しそうにそう笑う。現状が良いとも思ってないし、ジャイアントの戦いにも乗り気ではないように見えたが、それでも争いをやめるつもりはないようだった。


「それは無理だよ」
 スネ夫もはっきりと断った。
「今僕らは大きな事をしてるんだから」
 それがどれほど他の多くの者達を踏みにじってるのかを知ってるのだろうか。それでもこのような事を言ってるのだろうか、としずかは悲しくなった。


「できないね」
 ジャイアンもきっぱりと言い切った。
「男の意地ってもんがあらあ!」
 それがどんなものなのかは理解出来なかったが、人を恐怖に陥れる事が意地になってはいけないと思った。しかしその声もやはり届かなかった。


 三人三様の理由が返ってきたが、彼らが今やってる事を止めるつもりがないのは変わらなかった。
 ジャイアンとスネ夫は己の野心のために。
 のび太は皆の平和のために。
 誰もがそれぞれの思いを胸に行動していた。


 三人にとって自分はそんなに軽い存在だったのだろうか?
 そんな疑問を抱いてしまうほど彼らは堂々としていた。
 ジャイアンやスネ夫のやってる事は何一つ認めるわけにはいかなかったが、それでも自分の理想や野心のために全てを費やしてる事だけは認めねばならなかった。
 また、のび太がその優しさ故にジャイアン達と対立してるのも分かる。もしのび太が行動を起こさなかったら、この町内はもっと酷い状況になっていただろう。もしかしたら学校にすら通えない状態になっていたかもしれない。
 この争いをやめさせるには、ジャイアンの組織を壊滅させねばならない。それはハッキリしている。だがジャイアンがそんな事を承諾するわけもない。必然的にのび太も戦いをやめるわけがない。これが終わるとすればどちらかが倒れる時だろう。
 どっちに軍配があがるかわからないが、そんな瞬間が訪れないでもらいたかった。その時には必ず誰かが倒れている事になる。どうにかならないかと思う。だが、どうにもできない。情けないほど無力な自分にしずかは嘆くしかなかった。


 廊下、昇降口、校門。道路を歩いて家に。
 いつも通りの帰り道をいつものように歩いていく。一人で。以前は友達と一緒だったが、今はそれもない。ジャイアンやスネ夫、のび太と友人と言うことで距離を置かれることが多くなった。
 三人に自分から積極的に接していってるのだからそれも当然かもしれない。結局しずかも三人と同様に自分一人になる事が多くなっていた。
 その足でいつものように空き地へと向かっていく。帰り道からは離れた場所にあるが、それでもここを通らないと一日が終わらない。かつて皆が集まっていた場所。今は誰もよりつかなくなったこの場所に。
 静かなものだった。
 野球をしてガラスを割ってカミナリさんに怒られて。そんないつもの風景が今はない。土管に腰をかけて雑談している者は今はいない。日が落ちるまで遊んでる者は今はいない。
 あの頃当たり前だったものはもうどこにもない。認めたくない事だがこれが現実だった。それでもしずかはこの場所に来る。また以前のような姿が見れるかもしれないと思って。むなしい願いである。叶うとは思えない。それでも願わずにはいられない。
 その場から立ち去って家へと向かう。また明日もここに来るだろう。その時こそは。そう思いながら。


 夜。
 土管に腰をかけるのび太は、以前ここで遊んでいた頃の事を思い出す。あの頃はジャイアンがいてスネ夫がいて、時々しずかも混じり、そしてドラえもんがいた。楽しかった。実際にはジャイアンにいじめられていた事の方が多かったはずなのに。
 振り返るとなんで過去というのはこんなに楽しいものなのだろうと思ってしまう。あんなに必死になっていたはずなのに。それとも今が酷いから過去が素晴らしく思えるのだろうか。
(どうなんだろうなあ)
 のび太にはまだそれは分からなかった。
 だが、こうやって一人でいるのが今は落ち着く。空き地でこうやって静かにしているのが。あの頃を思い出すのが。それが娯楽になっている。随分と寂しい楽しみ方だとは思うが。それでもここ最近では一番の楽しみになっていた。
 こうして夜、誰もいない時に空き地にやってくる。こんな事がそれなりの気晴らしになってしまっている。
 おそらくこれはマズイ事なのだろう、とは思う。少なくとも良い兆候には思えない。だが、それでものび太は毎日のようにここにやってきていた。
 いつかまた日があるうちにこれるようになりたい、そう思いながら。


 土管の上に立って空を見上げている。ここに来るのは久しぶりだが、ジャイアンはたまに来てこうしているのが好きだった。かつてこの空き地の頂点に立っていた。今、ご町内の裏側を支配しようとしている。
 更には近隣にも手を伸ばし、この区を手に入れる事も視野に入りはじめた。のび太がそれ邪魔しているがジャイアンは自分の野望が叶うことを信じて疑わなかった。
「スネ夫」
「うん」
「俺達、絶対に成り上がるぞ」
「もちろんだよ」
 そしてあの頃のように頂点に立つ。もっと大きな、もっと高い場所の。
 そのためにジャイアンは走り続ける。それをためらうつもりはなかった。男に生まれ、今野望と野心を叶えるために動いている。これほどやりがいのある事は他にないだろう。
 手始めに剛田商店の規模拡大。
 そのための買収予定地の地上げ、その場所の前に幹線道路を引く事。
 それらをジャイアンは画策していた。そのための手はずもととのえている。区議会の議員を親に持つ子供達を締め上げ、今は言いなりにさせている。
 そこから議員に働きかけ、自分の理想を形にしていく。必要な資金も信用金庫に努める親を持つ子供を締め上げて働きかけていた。このまま行けば駅前の一等地にも、他の区にも進出できるだろう。その足がかりを今作ってる最中である。
 邪魔は誰にもさせない。己の野心の為ならば全てを粉砕して突き進む。それこそがジャイアニズムとジャイアンは信じていた。


 同じ空き地で遊んでいた四人は、こうして違う時間に訪れ、それぞれの思いを確認していった。気付かないのは四人だけであった。



********************

<平成24年11月4日分その2>





 家の中はどこか寒々としていた。朝に登校し、夜に帰ってくるという事が日常化した頃からだろうか。
 明確な境目ははっきりとしてないが、いつしか野比家はどこかよそよそしい空気が流れるようになった。
 決して家族関係が悪くなったわけではない。だが、のび太が町の裏で活動している事を知る父と母は心配を顔に浮かべるようになった。その行いが決して悪いものでないから引き留めるような事はしなかったが。
 だが危険なことをしてる息子を心配はしてるし、それを止めたいと思うのもまた親として当然の情であろう。人としての責務との間で父と母は悩み苦しんでいた。その葛藤は口にせずとものび太にも伝わっていた。
 食事時の重苦しい沈黙。
 家を出ていくときの力ない「いってらっしゃい」の一言。
 夜、全員が寝静まった家の冷え冷えとした感触。
 親もつらいだろうがのび太もつらかった。望んでそうしてるわけでないのだからなおさらである。
 それでも三人は決して親子・家族のつながりを捨てるような事はしなかった。たとえ言葉どれほど少なくなったとしても。


 その日も、夜になって帰ってきたのび太はいつものようにつぶやく。
「ただいま」
 もう寝静まってるであろう父と母をおもって小さく。以前のように夕方、学校から帰ってきていた時と大きく違う。
 暗い玄関をあがって二階へ。廊下と呼ぶには短い通路をとおっていく。その目に台所からの明かりが目に付いた。
(あれ?)
 いったいどうしたのだろう、そう思ってそちらに向かっていく。
 いたのは父だった。
「父さん」
 昔のようにパパではなく、のび太はそう言った。いつの頃からか呼び方の変わったその声に父も振り向く。
「やあ、おかえり」
 それはこの時間にはあまりふさわしい言葉と思えなかった。
 だが、他にかける言葉もない。一人日本酒をやっていた父は、少しばかり酔いの入った目で息子を見つめた。
「どうしたの?」
 問いかけるのび太は何となくイヤな気分になった。
 マジメな父である。酒をやる事は珍しくないが、こんな時間まで起きてる事は珍しい。おまけに会社から帰ってそのままなのだろうか、いまだにYシャツ姿である。いつもなら浴衣に着替えてるものだが。
 息子のその視線に気づいたのだろう。父は苦笑して説明する。
「会社が急がしくなってな。今日は終電で帰宅だ」
 そう言ってコップを持ち上げる。
「母さんには先に寝るように言っておいたからな。おかげで一人で晩酌だ」
「そう」
 なんとなくホッとして、でも寂しく思える。
 父がこうやって深夜まで仕事をしてる時がいままでどれほどあったのか。同じ家で暮らしてるのにのび太はそんな事も知らなかった。今まで考えたこともなかった事を思い浮かべる。
「のび太は、今日もあれか?」
「うん」
「そうか。大変だな」
 せめるでもなく、労る声をかける。不思議とホッとする声だった。
「うん」
 うなづいたのび太は、父が今やってる事を認めてくれてると思った。真意はどうかわからないが。
 そんなのび太を父は呼ぶ。
「ま、座れ」
 そういって自分の前の席をすすめた。断る理由もないのでのび太は従った。手酌をしながら父はそんなのび太を待ち、一口二口と酒をあおっていく。
 向かい合って座った二人はしばらく間言葉を発せなかった。なにを言えばいいのか、なにを聞けばいいのか。それがわからずにいた。
 その沈黙を破って口を開いたのは父であった。
「どうだ。がんばってるか」
「うん」
「そうか」
 そう言うとコップをおいて腕を組む。何事か考えてるようだ。
 しばらくして、
「前に一度言った事があるよなあ」
「ん?」
「男はやらねばならない時があるって」
「ああ」
 いつの頃だったか忘れたが、確かに父がそういって説教をした事があった。母とはちょっと感触が違ったがのび太へのお叱りだった。ただ、父の場合、男とはどういうものなのかを熱く語ったのが違っていた。
「たしか山中鹿之介の話だったよね」
「ああ、おぼえていたか」
 うれしそうに父はうなづく。
「お前は今、その通りに生きてるんだな」
「うん。たぶんそうだと思う」
「そうか」
 しみじみとうなづきながら父はのび太をみすえた。
「父さんな、おまえが危険な事をしてるのをどうしようかと思ってる」
「うん」
「だけどな、おまえを止めたいとは思っていない。おまえが間違った事をしてるならともかくだけどな」
「うん」
「だが、お前が誰かのために、みんなのために危険を買って出てるならそれを応援したい。おかしくなってるご町内のためにお前が動いてるならな」
「父さん……」
「七難八苦をしょってお前が進んでるなら、父さんはなにも言うことはない。それがのび太にしかできない事なら、父さんはお前を応援する」
「ありがとう」
 うれしい言葉だった。
「ま、ママは心配するだろうけどな。こればかりはしょうがない。女というのはそういうもんなんだろう」
「そうだね」
「でも、母さんを悲しませるような事にはなるなよ」
「気をつけるよ」
 するなよ、ではなく、なるなよ、な所がありがたかった。
「そうか」
 父はのび太の返事にうなづいて、再びコップを手に取った。
「父さんからはそれだけだ。引き留めて悪かったな」
「ううん、そんな事ないよ」
そういってのび太は立ち上がる。
「じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 言いながら台所を出ていくのび太の背中を父は見送った。
(大きくなったなあ)
 たんに体が成長したというだけではない。もちろん成長期ののび太はこのごろ身長がさらにのびてきている。
 そういった事とは別に今ののび太は以前より大きくなってるように思えた。
 ドラえもんが来てからもそうだったが、ドラえもんが帰ってからも。
 未来から来たあのロボットは確実にのび太に何かを与えたのだろうと思った。
 だからこそ、危険に立ち向かっていけるのだろう。その役目が息子に与えられてる事に多少の憤りを感じるが、苦難に負けずに立ち向かってる姿は父としてうれしく、男として誇らしかった。
 一家の主として小さいながらも家を預かる父は、そんな強さを身につけた息子に安堵していた。今ののび太ならばどんなつらい事をも乗り越えていけるだろうと。
 だが、一抹の寂しさもある。
「親はなくとも子は育つ、か」
 子供の成長が嬉しい反面、自分から離れていくような寂しさもあった。子離れしないといけない時期にさしかかったのか、と思うもそれを受け入れるのはちょっとつらい。
 更にもう一杯酒をあおる。このあたりでやめようと思ったが、まだ飲み足りない。さすがに明日もあるので適当なところで控えるしかないが。
「やれやれ」
 自分が意外と感傷的になってる事に気付き、父は苦笑した。


 翌朝。
 布団から起きたのび太はいつも通り押入に畳んだ布団を入れる。かつてそこで寝起きしていたドラえもんを思い出す事も少なくなってきた。それでも思い出が消え去るわけでもない。
 机の上の写真立てにはドラえもんと一緒に写した写真が飾ってある。未来への帰還を告げたドラえもんとの思い出として撮影したものだった。
「ドラえもん、いってくるよ」
 日課となってる言葉を告げて部屋を出る。台所で母が用意してくれた朝食をとって玄関へ。
「いってらっしゃい」
 寂しげな笑顔を浮かべる母の言葉に送り出される。
 晴れ渡った空と心地よい風が迎えてくる。夏が終わり秋に入ったこの時期、暑さも少しはおさまりつつある。そんなちょうどよい気候を感じつつ学校へと向かった。
 今日もおそらくそれなりの騒動があるだろう。だが、たとえ何があってもひるむことはない。自分には応援してくれるものと守らねばならないものがある。それがのび太の支えになっている。
 支えてくれる、そして守らなければならない家族がのび太の背中をおしてくれていた。
 そして、いまだ諦められない大事な女(ひと)の姿が胸に浮かぶ。もう決して交わることのないはずのその女のためにのび太は進んでいく。
 求めることはできないみかえりを振り切って、のび太は歩いていった。





********************

<平成24年11月6日追加分>



 治安の悪化に伴い様々な悪が発生していく。ジャイアンによるご町内支配も例外ではなく、その横暴によって乱された秩序は、様々な悪を暗躍させる温床になっていった。
 それらはのび太の関与する必要はないのだが、まともな秩序が期待できない以上誰もがすがるのは立ち上がった者である。のび太とてそんな悪党を見逃していくつもりもない。
 夜に繰り出すするのび太は、そんな悪党の一人のところへと向かおうとしていた。
 いつも通り保健室を出て廊下を歩いていく。いつもと違うのは、ここから外にでるのではなく、この中を進んでいくところであろうか。
 今回の敵はこの学校の中にいた。その情報は、いつものように学校内の協力者からによるものであった。
「最近あいつの様子がおかしいんだ」
 そうやって始まった報告はのび太の直観にひっかかった。
 ジャイアンとの対決を繰り返す中で、のび太は特殊な感覚を養うに至った。闘争・生存競争の中で眠っていた本能が起きてきたのか。危機や潜伏する問題に直面すると意識がそちらに向かっていく。
 迫ってくる敵、安全な場所の発見、信じるに足る人物かどうかの判断。
 相手の嘘。
 そういった様々な問題を前にすると勘が働く。安全か危険かを分別するために。今回の報告にもそういった直観が働いた。
「同じクラスの娘なんだけどさ」
 そういう少年の顔には不安や心配が浮かんでいた。もともと目立たない、地味な子であったという。友人と一緒にいるより本を読んでる事が多いような。そんな娘であったという。
 だから表情の変化などはさほどでもなく、他の者からでは変化に気づきにくいものがあった。少年がそれに気づいたのは、その娘とご近所で幼なじみであったからであるという。
 変化がいつ頃からあったのかは定かではない。だがここ一ヶ月ほど様子がおかしいとは思っていたらしい。何かあったのか、と尋ねても「別に」と返ってくるが表情や態度は明らかにおかしかった。
 自己主張が激しいタイプではないが、その時の娘は明らかにいつもと違っていた。何かを隠そうとするような、そんな素振りを感じ取った。だから少年は幼なじみの娘について周囲に尋ねてまわった。
 それでわかったのは、娘が二ヶ月ほど前から担任の教師に呼び出されているという事だった。何のためなのかわからないが、その回数が増えていってるという。放課後の事なので気づいてる者はほとんどいなかったが。
 何をしてるのか調べようと少年と仲間は教師の周囲を張り込んだ。娘に直接聞かなかったのは、尋ねても返事がもらえると思えなかったからである。
 そして放課後の学校に潜伏していた彼らがみたのは驚くべきものであった。教師は女生徒を集めていかがわしい事をしていた。それも一人だけではない。他の学年・学級から集めた複数の生徒をもてあそんでいたという。
 おぞましいのは、教師の他にも何人もの大人がいたという事だ。漏れてくる彼らの会話から、教師が斡旋してるというのがわかった。少年達は戦慄した。自分達の通ってる学校でこんな事が行われてる事に。
 だが、少年達だけではどうすればいいかわからず、のび太に駆け込んできたという。悔しそうに顔をゆがめる少年達をみて、のび太は方策を考えた。


 そして。
 もたらされた情報を元にのび太は教室へと向かっていく。
 話が正しければそこで問題の出来事が起こってるはずだ。念のためにつれてきた仲間達とともに。
 聞かされた事実がないよう願いながら教室へと向かう。もし事実ならば被害者があわれで仕方ない。
 残念なことに中から人の気配がした。それでも中の様子をうかがうまでは願っていた。ただの補修や居残り勉強であってくれと。
 期待は無惨に砕かれた。
 中にいるのはいやらしい顔をした教師と、泣きじゃくる女生徒だった。
「さ、ポーズをとって」
 カメラを構えながら女生徒に指示を出していく。女生徒はふるえながらそれに従っていく。スカートをめくりあげてるのがのび太の方向からも伺えた。
(なんて事を)
 怒りがこみあげてきた。事前に入手した鍵を使って中に入り、ショックガンをかまえる。驚いてる教師に照準を合わせて引き金を引く。二発。教師とカメラに向かっていった。
 カメラが壊れ、教師が崩れ落ちていく。何が起こったのかわからない女生徒達がそんな教師とのび太を交互にみて状況を把握しようとしている。そちらを無視して一度教室の外に振り返る。
「女子のみんな。女の子達をお願い」
 のび太に協力する女子が中に入ってくる。すぐに手にした上着などで教室内にいた女の子達をくるんでいく。それで安心したのか、教師に呼び出されてた女生徒達は安堵の涙を流していく。
 その一方でのび太は、今度は男子を呼び出す。手に縄をもった男子達は、のび太の指示を待つまでもなく縄で教師をしめあげていく。とりあえずこの場はこれでおさまった。問題の解決はこれからだが。
 女子の問題は女の子達にまかせ、のび太は男子とともに教師を運んでいく。
 まず、この教師から今まで何をしてきたのかを聞き出さねばならない。それと、カメラで撮影したフィルムのありかを。撮影した写真をどうしたのかも。
 実行犯はこの教師だけかもしれないが、この教師が生み出した者を得ている者達は他にもいる。それらを見つけださねばならない。とりあえずのび太はこの教師を倉庫代わりに使われてる教室へと連れ込んでいった。
 その途中で担任の先生と遭遇してしまう。宿直だったのだろうか?
「野比君?」
 いったい何をやってるのかと疑問を抱いた先生は、のび太と仲間達が同僚を抱えてる事に気づいて血相を変える。
「な、いったいどうしたんだ?!」
 先生とて昨今のご町内の事情をしらないわけではない。むしろ最前線のこの小学校で教師をしてるのだ。他の大人よりよっぽど事情に詳しい。そんな彼であるからすぐに何か大きな問題が発生したことを察することができた。
「先生」
 のび太は先生に告げる。
「この男に話があるんです。もしよかったらつき合ってくれませんか?」
 その声に先生は逆らうわけにはいかなかった。頼んでるような口振りだが、実際には強制に等しい。
 力を持ってるのび太である。逆らえばそれなりの報復をする。そもそものび太がこうやって何か話を持ち込んでくるのは世ほどのことである。それを断れば道義的な問題が発生するであろう。
 職務・職分・職権には関係がなくとも、それは先生の評判に関わる事になる。下手をうてば教育委員会やPTAが黙ってない。そうでなくとも情報をかぎまわるマスコミがだまってない。
 また、ご町内奥様ネットワーク(井戸端会議)に子供新聞(教室内のメモ帳回覧)は下手な新聞やテレビ・ラジオ以上の影響力を持つ。そんなところにまずい噂が流れたら身の破滅になりかねない。
「わかった」
 頷いた先生はのび太に続く。大人という証人を加えた一行は、連れだって倉庫へと向かっていく。


「お待たせ」
 呼びに行っていた保健の先生がやってきたことで第二段階がはじまった。保健の先生は手にした録音器具を用意していく。その間のび太は、破廉恥行為に及んでいた教師が目覚めるたびにショックガンを使っていた。
 準備がととのったところで本題に入っていく。
「じゃあ質問だ」
 のび太はそう言って開始を宣言した。破廉恥教師に反抗心は残ってない。ただ、ショックガンによる堪えがたい衝撃とそれをためらうことなく使うのび太に恐怖していた。
 破廉恥教師の自白は恐ろしく簡単に進んだ。その言葉に従って調査したこの教師の家には、過去に撮影された様々な写真が出てきた。学校教師という立場を利用した悪辣な所行に、のび太は怒りをこらえることができなかった。
 さらにこれらの写真を売買した者達や、学校に忍び込んで卑猥な行為に及んでいた者達の所在を聞き出していく。それらはすべて録音され、保健の先生に手渡された。先生はすぐにそれをコピーしてのび太達に渡した。
 一人がもってるだけではいつ奪われるかわかったものではない。また、それは担任の先生にもわたされた。
「なぜ私に?」
 尋ねる先生に保健の先生は
「教師だから、それに大人だからです」
と答えた。
 その言葉に担任の先生はうつむいた。彼がどう受け止めて何を考えたのかはわからないが、それが良心にはたらきかけるきっかけになるようのび太は願った。


 その夜。
 のび太はタケコプターで空をとぶ。聞き出した情報を元に、女生徒達に不埒な行為をしていた者達を探らねばならない。このまま放置しておけば女生徒達にとって悲惨な情報が蔓延し続けることになる。
 それをくい止めるべくのび太は飛び立つ。見つけだし、写真などを破棄し、犯した愚考に見合った痛みを味あわせねばならない。
 法律は無意味だった。訴え出ても適切な処分がくだされるとは言い切れない。仮に裁判の結果有罪になったとしても数年で出所してくるだろう。そしてまた被害は拡大していくのだ。
 それはあの破廉恥教師も一緒だ。公務員でありながら組合に入りその力で守られているという。そうでなるならばPTAや教育委員会の糾弾すらしのぐかもしれない。いずれ事を公にすることは考えているが、その前に制裁が必要であった。
 こんな事が二度と起こらないように、起こそうと犯人に思わせないように、加害者に相応の罰をあたえねばならない。再び何かをしでかせばのび太も再び動く、とわからせねばならない。
 あてにならない大人を頼るわけにはいかなかった。たとえ子供であろうともやるべき事をやらねばならない。この半年で学んだ事である。実践してる事である。


 かつて仲間と飛んだ空を一人行きながら、のび太は最初の目標地点に向かっていった。
 まだまだ夜は続く。
 その先に必ずやってくる朝があるとしても、それは遠い先の事のように思えた。



********************

<平成24年11月9日分>


「ちくしょう……」
 うなり声のような呟きだった。周囲の者達が身をすくめていく。
 アジトにある自分の部屋の中で、ジャイアンはここ最近の不始末に苛立っていた。拡張の最中であるはずの組織であるが、その勢いがにぶっている。
 完全に滞ってるかというとそうではないのだが、予定の半分程度の速度に落ちてるのは明かだった。
 それがのび太による行動のせいであるのも理解している。だからこそ苛立っていた。原因ははっきりしてる。なのにその排除ができないのだから。
 おまけにのび太に味方する者まで出てくる始末である。
 敵や競争相手がいない時と違ってその対処に労力を割かねばならない。それも痛い出費であった。スネ夫あたりは「放っておけばいい」と言ってるが、はたしてそれでいいのかどうか。
 組織の拡大が続いてるのはジャイアンとて理解してる。悪党の直観とも言うべき判断力は、表面に出てない何かに強い違和感や危機感を感じていた。普通の人間なら気のせいで終わらせてしまうかもしれないが、ジャイアンは違う。
 暴力と本能に動かされるこの男は、自分の野性を信じていた。それはこれまでジャイアンを正しく導いてくれた。それが叫んでいる。このままではまずい、と。
 頭の回るスネ夫は見て取れる部分でしか考えようとしない。それはそれで悪くはない。
 だが、先の見えない未来を進んでいくには、見えてる部分だけで判断していてはどうしようもないのだ。時には何の根拠もない直観に従わなくてはならない場合もある。これまでの経験から、それは今だとジャイアンは判断した。


 その日の夜、主な幹部を集めたのはそのためだった。自室から会議室へ。集まった者達の顔を見渡して一番奥の席につく。
 全員、そこそこ名前をならしたワルばかりである。それを腕力で、あるいは組織力で組み込んできた。
 どいつもこいつもフテブテしい顔をしている。あくどい事をやるために生まれて来たような連中であった。そいつらに宣言する。
「これから全面戦争にはいる」
 一同の視線が集まる。
「相手はのび太だ」
 集まった視線に動揺がにじんだ。
 だがジャイアンは確固たる決意を示した。
「このまま放っておくわけにはいかない。あいつは今ここで叩きつぶす」
 そこにかつて冒険を共にした者への容赦は一切なかった。動揺していた者達も、その声を聞いて腹をくくった。
 そのジャイアンの言葉に、居並ぶ者達の中で唯一ジャイアンとのび太の関係を知るスネ夫は、どれだけ本気なのかを理解した。組織の事を考えれば放っておいても良い問題だと思っていたが、こうなってしまったら話は別だ。


(本気でやるんだね)
 強面の顔を更に厳しくしているジャイアンを見て、スネ夫は己の考えを棚上げした。どれほど組織を切り盛りする才覚を有していても、己一人ではまとめあげる事はできない。
 その自覚があるからこそスネ夫はジャイアンと行動を共にしてきた。ジャイアンがそうすると決めたのならば、後はその意志を成功に至らせるために手を尽くすだけである。コバンザメであるスネ夫の、それが矜恃であった。


 かくて組織は動き出していった。のび太一人に向かって。数人の幹部、百人以上の構成員は、その一人を潰すべく作戦をたて、行動を開始していった。


 その動きは否応なく周囲に漏れていく。
 いつもと違った動き、いつも以上に増えてる行動。
 それらは裏で何かが起こってる事を感じさせるには十分であった。それは様々な経路を辿ってのび太にも伝わっていく。
 何が始まろうとしてるのかはのび太に分かりはしない。ただ、何となく大きな何かが近づいているような気はした。
(いよいよなのかな)
 最後の瞬間が訪れるという予感はした。ただ、それが誰にとってどんな最後になるのかまでは分からなかった。
 ただ、最後がどうなるにしても、ジャイアンの暴走と組織だけは潰さなければならない。それをのび太は使命と思っていた。その為にこの日も手がかりをたどっていた。裏に潜む組織を辿るのは容易ではない。
 かろうじていくつかの拠点を潰しはしたが、解体や壊滅に至らしめるほどの打撃を与えたわけではない。賭博場も、アジトも、場所を変えてまた復活する。きりのないいたちごっこだった。
 それでものび太にはこれしか手段がなかった。
 この日も、借金で首が回らなくなっていた高校生に襲われた。それを返り討ちにして尋問をする。
 ショックガンで撃って気絶させ、起きる前に手足を縛っておいた。
 あとはお決まりの質問時間である。
 人目につかない場所まで引きずっていって、お話を聞く。前準備としてショックガンの痛みをおぼえて貰うために、何回か衝撃をくらってもらう事に。たいていの場合これでお話がしやすくなる。
 この高校生もそんないつも通りの人間であった。何回か撃ってるうちに許しを請い、自分から協力を口にしだした。ありがたい事である。相手の善意に感謝しつつ質問をはじめていく。
「ジャイアンの組織のありかは?」
 相手はさすがに口をつぐもうとしたが、のび太が再び銃口を向けたところで協力する事を思い出したようだ。
「分かった、言う、言うから!」
 そう言って知る限りの事を口にしていく。借金取りや取り次ぎの人間。組織の人間と、次の接触予定の時間と場所。
 更に、ここ最近やたらと襲撃が増えた事について質問した。
「知らない」
 答えは簡潔明瞭だった。
「俺は、お前を襲えって言われただけだよ。本当だ。信じてくれ!」
 その必死さから嘘でないのは確かに思えた。
 それらを聞いたのび太は、再び銃口を向ける。
「もう一度気絶させる。意識を失ってる間に手足は解いておく。ここで僕に喋ったという事は忘れておけ」
 そう言ってのび太は引き金を引こうとした。あとはこいつが喋った組織の人間との接触時間と場所に自分が行くだけでいい。そして組織についての情報を吐かせる。
 それだけだった。
「なんでだよ……」
 高校生の声がそれを止めた。
「なんでこうなるんだよ。俺が何したってんだよ」
 それは後悔でもなんでもない、八つ当たりの言葉だった。自分は悪く無い、という自己弁護の。
「何が悪いってんだよ」
 のび太の答えは簡単で簡潔だった。
「全部だ」
 ショックガンから衝撃が飛ぶ。高校生の体が弾ける。再び意識を失う高校生から拘束を外していき、タケコプターで空へと逃げる。置き去りにした高校生はあと数分で意識を取り戻すだろう。
 だが、彼がまともな人生を歩むとは思えなかった。何が理由か知らないが、借金に陥るような弱さがある限りは決して立ち直れないだろう。そしてその弱さは、原因を他に求める所から発生する。
 いや、心の弱さが原因を他に求めるという行動になるのだろうか? どちらにせよそこがなおらない限り今後も延々と地獄を彷徨い続けるだろう。それは能力の有無は関係無い。やるかやらないか、選ぶ心があるかどうかだ。
 借金で身を持ち崩した高校生にはそれが無かった。ただそれだけである。同情も何もできない。
 それどころか、そんな弱さがのび太には許せない。誰だって心に弱さを抱えてる。それでもこの世界で生きていかねばならない。
 甘えは一切許されない。疲れたら休む事はできるが、癒えたらまた立ち上がって立ち向かっていかねばならない。この世で生きるというのは、そういう義務の繰り返しである。それが出来ない者は、遠からず潰えていく。
 残酷かもしれない。だが、この世は夢物語の中ではないのだ。食い扶持を得るて浪費をしないという義務を果たした者だけが生き残れるのだ。
 それが出来ない人間に、のび太は何ら憐憫をおぼえる事は無かった。
 ジャイアンという暴力や、冒険という危機をかいくぐってきたのび太には、権利の要求よりも義務の遂行の方が先にたった。助けはどこからもやってこない状況で、自分達の力を最大限に発揮する事。それが生き残るための唯一の手段だった。
 それに比べれば。
(この程度で)
 そう思うしかなかった。生死の境目が目前に迫ってるわけでもない。投獄されて判決を待ってるわけでもない。馬鹿げた事をさっさとやめて、借金の穴埋めに血眼になればいいだけだ。
 それを選べなかったあの高校生には軽蔑すらおぼえた。そもそもなんで博打なんぞしたのか。それが分からなかった。勝てない喧嘩であるのは分かってるはずだ。それがやらねばならない勝負でない事も。
(ふざけてるよ、本当に)
 命の、人生の重みを知らない人間の無様さを垣間見た夜だった。






********************



 今後もこんな感じで続けていきたいと思います。
 いつか終わるその日まで。


 途中で息切れして終わるかも知れませんが、それはそれでご勘弁を。


 なお、この続きは http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/360.html に掲載してりますのでよろしく。




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