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「ハードボイルドドラえもん」3【完結】  小説

<平成24年11月11日分追加その2>


<初投稿平成24年11月11日>


 以前掲載していた http://green.ap.teacup.com/genzaikouantyu/356.html の方が手狭になってきたのでこちらにて続きを掲載。




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********************



(さて、どう出てくるかな)
 相手を待つ事になったのび太は、目的の場所に目を向けながらそう思った。高校生から情報を聞き出した後の事である。
 飛び立った先で組織の人間がやってくるのを待っていた。
 気絶から回復した高校生が連絡をしていればこうしているのも無駄であろうが、そうはならない可能性はあった。高校生が組織への連絡手段をもってないならば通報される恐れはない。
 そして高校生の事を監視でもしてなければ組織もこちらの動向は分からないはず。そう上手くいくとも思っていなかったが、のび太はそれに賭けてみた。
 これ以外に手がかりもないし、何も起こらなくても失うものはない。
 幸い目的の相手は時間通りにあらわれてくれた。少し離れたところで様子を伺っていたのび太は、その背後を取るようにタケコプターで移動していく。相手は三人。連絡役と護衛の組み合わせだろう。
 相手がショックガンで倒して手足を縛る。あとはいつも通りの尋問である。
 もし組織の拠点が聞き出せればそちらに赴いてそれなりの事をしなければならない。時間をあければ相手は逃亡するな。そうなったらまた一からやりなおしだ。
 相手を生かしておくゆえに発生する問題とも言える。情報を持ち帰られる可能性が高く、そのために急いで行動する必要があった。そのため、情報が手に入る日は夜が遅くなる。この日も徹夜になる事を覚悟していた。
(明日も学校だよな)
 どうしても眠気に勝てない日もあるにはあるが、それでも登校を欠かす事のないように気をつけている。授業がまともに受けられない事もあるが、それは先生に放課後直接聞きに行く事で補っている。
 そのためもあってか、試験の点数だけはなんとか70点以上を確保している。かつてののび太にはありえない事であった。その為の努力も相当なものであるが。おそらく、今日もそういったパターンになるだろう。
 倒した組織の人間から組織の情報を聞き出したのび太は、再び空に。一つの情報から次をたどっていく。その繰り返しの果てに何かがあると信じて。


 その日の放課後。
 教室から出ていく同級生達をよそに、しずかは一人自分の席で外を眺めていた。学校で騒がれてる事は当然しずかの耳にも入ってくる。接する人間は少なくなったが、同じ教室にいれば様々な話が飛び込んでくる。
 誰かが呟く噂話は、火元になった何かがある事を伝えてくれるし、組織に関わってる人間の態度は何よりもはっきりと物事を伝えてくれる。
 唯一相談出来る人物である出来杉も「確実に何かが起こってるよ」と述べている。
 それは飛び交う話からの推論であるが信頼に当たりする情報だと思えた。何も確証がなければ出来杉はここまで言わない。何かしらの確信がなければここまで言わない男だ。
 その出来杉からは忠告ももらっていた。
「もう関わらない方がいいと思う」と。
 その通りなのだろう。これ以上のび太やジャイアン達に関わっていたら自分も危ない。それは分かるのだ。だが、危険だからといって退く事はできない。冒険を共にした仲間として。
 ドラえもんという共通の思い出を持つ者として。だが、自分に出来る事がないのも分かっている。ここまで話が大きくなるまでに誰も止められなかった。そんな自分に何かが出来ると思う程しずかは自惚れてはいなかった。
 だからこそ感じてしまう無力感にとらわれ、こうして教室で座っている。窓から差し込む陽光を感じる事が数少ない慰めであった。だが、日が落ちるのが早くなったせいか、それも最近はめっきり弱くなってきている。
 沈むのも早くなったそれは、もう夕方のような弱さを示してもいる。この先に待つであろう何かを暗示してるようにも見えた。教室のドアが開いたのはそんな時である。
「どうしたの?」
 声をかけてきたのは保健の先生だった。
 ちょっと顔が強ばるのを感じた。しずかはこの女が苦手だった。悪い人間ではない。生徒からの相談にのる良い先生であるとも聞いてる。触れ合う機会は少ないが、そのたびに人柄の良さを感じていた。なのにしずかはこの女との間に距離を作ろうとしていた。
 理由は自分でも分からない。だが、どうしてもこの女は素直に認める気にはなれなかった。保健の先生の方はそんなしずかに対しても笑顔を浮かべる。
「下校時刻じゃないけど、学校に残ってる必要はないわよ」
「……はい」
 その返事を聞いて保健の先生は『あら?』という顔をした。様子の優れないのを見抜いたのだろう。
「ねえ、あなた」
「はい?」
「ちょっと保健室までこない?」
 思ってもいなかった言葉だった。
「お茶やお菓子はでないけどね」
 冗談めかして言うその言葉に、しずかは頷いた。そんな自分にびっくりする。今までだったら「いいです」と言って断っていただろうに。が、頷いてしまったのだから今更覆すわけにもいかない。
 ランドセルを持って教室を出る。先生について階段をおり、保健室へ。
(何やってるのかしら)
 そう思いつつも今は白衣の背中についていくしかなかった。


 保健室は意外とさっぱりしていた。
 間取りは普通の教室と同じだが、壁の片側にベッドが並んでる意外は広いスペースをとってある。
「じゃ、そこにでも座って」
 示されたのは先生用の椅子の前にある座席だった。
 こういった場所ではよくみる背もたれのない椅子ではない。キャスター付きの背もたれのある椅子だった。腰を下ろしてみると、軽く沈む。座り心地が良い。
(あれ?)
 意外な感触にびっくりした。
「驚いた?」
 先生もそれは分かったらしい。室内にある冷蔵庫から何かを持ち出しながら声をかけてくる。
「相談を受けるときにはそれを使ってるの。座り心地が良いからみんなびっくりするみたいね」
 言いながらテーブルを出してくる。
 キャスター付きのテーブルの上に冷蔵庫から持ち出したものを並べていく。お菓子とジュースだった。
「あの、これって」
「あると色々便利なのよね。他の先生達には内緒よ」
 悪戯っ子のような微笑みにつられて笑いそうになった。
「ケガとか病気以外でもここに来る子って多いから。そういう子達にはこっちの方がいい薬になるのよね」
「はあ……」
「まあ、悩みを抱いてるとそうなるものよね」
 ドキッとした。
「先生?」
「のび太君達のことでしょ」
 いきなり本題に入られた。
「え?」
「色々有名だからね、あの子達は」
 苦笑しながら座る先生は、しずかの困惑をよそに話を続けていく。
「そんな子達と友達だったんでしょ。そりゃ表情も暗くなるわよね」
「あの……」
「違ったかしら?」
「……いえ、その通りです」
「やっぱり」
 保健の先生は微笑みながら話を続ける。
「でもね、男の子って自分の思った事をやりとげるために頑張っちゃうから。終わるまで周りは見えないわよ」
「そうですか?」
「先生の知ってる限りではね」
 その言葉に大人の女性である事を感じた。経験の差を感じさせる。
「でもね、そういう人に憧れちゃうんだけどね……女って」
「…………」
「苦労するって分かってるのにどうしてなのかしらね」
「あの……」
「のび太君……」
 唐突にその名前が出て来てドキッとした。
「……今日も頑張ってたみたいね」
「…………」
「先生達もやっぱり色々あってね。教師もPTAも教育委員会も。どこも今回の出来事に関心を持ってるの」
 先生はそう言って話を続けていく。しずかの事を放っておくかのように。
「中には剛田君に肩入れする人もいるし。そういう人達は組織を使って利益を上げようとしてるみたい。実際そういう人は多いし」
 そこで先生は言葉を句切ってコップに注いでおいた水を喉に流す。
「でもそれを良いと思ってる人ばかりでもないのは確かよ。だからのび太君に期待してる人は多い。あちこちでそれを支持して行動をおこしてる人もいる」
「そうは見えませんけど」
 それはしずかの実感だった。だったらなぜのび太を一人で行動させてるのか、と思う。
「そう簡単じゃないのよ」
 諭すような言葉が返ってきた。
「いつも一緒に行動するだけが協力じゃないわ。別の場所で、自分のやれる事をやる。そうやって仲間に振り分けられるはずだった力を自分の方に呼び込む。
 そうやって仲間の負担を減らす。そういう協力もあるの」
 それは予想もしてなかった事だった。仲間というのはいつもそばにいて一緒に行動するものだと思っていた。
「大人ってのはそういう事ができる事なのよ。それにね」
 先生は言葉を続ける。
「待っててくれる人も、男には必要みたいなのよね」
 そういって先生は微笑む。
「そういう協力の仕方もあるの。これが出来るのは女だけなんだどね」
「えっと……」
「それが分かってればねえ」
 何故か先生は残念そうな顔をした。そして静かな時間がやってくる。言葉を句切って再びコップをあおる。
 しずかも出されたジュースを口にし、お菓子を食べる。空腹ではなかったはずだが、なぜか美味しく感じられた。
「どう、美味しい?」
「ええ、美味しいです」
「良かった。私が作ったものなんだけど。口にあったみたいね」
「凄いですね」
「馴れると簡単に作れるものよ。間に合わなかったけどね」
「え?」
「私ね、これを好きな人にあげるつもりで作り始めたの」
「そうなんですか?」
 いきなりの打ち明けられた理由にびっくりした。
「バレンタインデーだったかな。手作りで贈ろうと思ってがんばってみたんだけど、結局間に合わなくてね。次の年こそは、と思ってたら別の人と付き合ってたの」
 それは辛いだろう、と思った。
「その時思ったの。一年も待ってるんじゃなくて、早く気持ちを伝えておけばよかったって。その人と付き合えたかどうかはわからないけど、後悔だけはしないで済んだだろうなあ、って」
「後悔……ですか?」
「そうよ。『あの時あれをやってれば良かった』っていう後悔。しても何も変わらなかったかもしれないけど、自分が何もしなかった事を悔やむ事はないわ」
 それはしずか達以上に人生を重ねてきた者の実感なのだろう。
「しずかちゃんは凄いわね。のび太君や剛田君に声をかける事ができるんだもの。先生にはそんな事出来なかったわ」
「そんな……そんな事ないです。全然聞いてくれないし」
「でも、何もしてないわけじゃない。それは確かよ」
「そうかもしれないけど…………それだけじゃダメなんです」
「そう?」
「……止められないんじゃ意味がないんです」
「なるほど」
 それは先生にも理解出来る事だった。
「確かに、効果がないんじゃ意味がないかもね」
「私、結局この程度なのかな、って」
「あら、そう思うの?」
「だって、二人を全然止められなかったんですよ」
「でも、二人にとってどうでもいい人間ってわけではないわ」
「え?」
「本当にどうでもいい相手なら、話しすらできないわよ」
 どういう事なのか分からなかった。
「本当にどうでもいい人間なら、話しどころか会うこともできないわよ。忙しいはずのあの二人がしずかちゃんの話は聞く。それだけでも凄い事じゃない」
 先生の言う通りであった。
 しずかに自覚はないが、のび太もジャイアンも今はとんでもなく忙しい。
 のび太は捜索と調査と戦いで。
 ジャイアンは組織の運営と野心の為の行動に。
 理由はともかく、どちらも余計な事に割ける時間はこれっぽっちもないのは同じである。。
 そうでなくても今ののび太やジャイアンに気軽に声をかける者などいない。それができるだけでもしずかは大したものであった。
 少なくとも先生はしずかをそう評価していた。そして、しずかの低い自己評価を修正したかった。
 そして。もう一つ言いたい事もあった。
「のび太君も気にしてるわよ」
「何をですか?」
「しずかちゃんがどうしてるかって」
「…………」
 突然の事にびっくりした。次いで赤くなる。
「何を言ってるんですか!」
「あら、大事な事じゃない」先生はそんなしずかの反応を面白がってるようでもあった。「好きな娘のためにがんばる。男の子って感じがしてとってもいいと思うけど」
「でも」
「それともしずかちゃんは迷惑?」
 意地の悪い質問だった。
「そんな事は……」
「嫌いってわけじゃないのね」
「当たり前です」
「うーん、でもちょっと微妙よね」
 しずかはその言葉に嫌な予感をおぼえた。
「しずかちゃんは好きな人っていないの?」
 予想通りになった。
「いきなり何ですか!」
「だって気になるんだもの」
 だからといっていきなり聞くような事ではないと思った。
「さっきも言ったけど、先生も好きな子に何も言えなくて終わっちゃったから。ちょうどしずかちゃんくらいの時だったし」
 少し寂しそうな顔をして先生は言う。
「だからしずかちゃん達も今そうなのかなって思って。もう好きな男の子がいてもおかしくない頃だしね」
「そりゃあ、まあ……」
 学校どころかご町内がこんな状態であるが、そういう話がないわけではない。
 裏で行われてる様々な出来事やチンピラ達が幅を利かせてないところでは、今まで通りの話題が上がっている。
 アイドルにファッションに流行に。
 恋話も当然出てくる。誰と誰があやしいだの、お似合いだの、と。
 そういった事もちゃんと話題にはなっている。
「やっぱり人気があるのは出来杉君?」
「ええまあ。格好いいし、頭もいいし、性格もいいし。運動もできるし」
「スーパーマンね」
 それは先生も認めるところだった。
「しずかちゃんはどうなのかしら?」
「だから、なんで私なんですか」
「あら、今先生が興味あるのはしずかちゃんだもの」
 困った事であった。
「……先生はどうだったんですか?」
「わたし?」
 話を逸らすために話題を強制的に変えてみた。
 相手がのってくれるかどうか分からなかったが、この話をこれ以上続けたくなかった。意外な事に先生はすぐにのってきてくれた。
「そうねえ。今はいないけど、昔好きだった人はのび太君みたいな感じだったかな」
 予想外の話になって驚いた。
「もちろんもっと格好いい人もいたんだけどね。でもどういうわけか気になってたのは別の男の子だったのよねえ」
 その言葉は苦笑混じりであった。
「最初はなんであんなのが、って思ってたけど。でも好きな事は止められなくてね。それで好きだって言おうと思ったの。クッキーを作ったのもその為。でも、最後はさっき話した通りよ」
 なんとなく無視できない話だった。
「しずかちゃんも気になる相手がいるのかな?」
「…………」
「真っ赤になってるところを見ると、いるみたいね」
「…………はい」
「その子には気持ちを伝えてあるのかな?」
「…………」
「まだなのね」
「だって、言えるわけないじゃないですか」
「あら、どうして?」
「私の事、どう思ってるかわからないし」
「ああ、私もそう思ってたわ」
「先生もですか?」
「そうよ。相手がどう思ってるか分からないから言い出せなかったんだから」
「先生でも……」
「だってその頃は今のあなた達と同じくらいの年齢だったのよ。あなた達に比べてももっと子供だったかも。だから余計にね。今なら、って思う事が幾つもあるわ」
 それがいったいどういう事なのかはしずかには分からない。
 だが、大人の貴重な意見である。聞き流すわけにはいかないと思った。
「だからね、もし気になる相手がいるなら勇気を出してもらいたいと思うの。それが無かったから私は何もできなかったし」
「先生は、今でもその人の事を好きなんですか?」
「うーん、どうだろう」
 しずかの言葉に先生は少し考えこむ。
「中学校までは一緒の学校だったけど。それからは進路も違ったしね。今会ったらどうなるのかな」
 懐かしむような声だった。
「もしかしたら今でも好きかもね。嫌いではないし」
「そう……なんですか」
「うん。でも、しずかちゃん達にはそういう風になってほしくはないな」
 それは大人の気遣いであり助言なのだろう。
 そういう大人の言葉に少なからず感動を、そして尊敬をおぼえる。自分も今の先生と同じ年齢になる頃にはこういう風な事ができる人間になってるのだろうかと。もっとも、それは続く先生の言葉と態度でいささか変更を余儀なくされる。
「ま、それはそれとして。先生は気になるのよね、最近の小学生の恋愛事情が」
「え?」
「だから、ちょっと聞き出したいのよ、しずかちゃんの気持ちとか」
「もー!」
 今さっき少し感動してただけにその言葉にはがっかりすると同時に呆れた。
「そもそも、しずかちゃんの好みのタイプってどういうのなのかな。やっぱり格好いいのが好きなの?」
「知りません!」
「スポーツが出来る子は?」
「知りません!」
「話が面白い子とかがいいのかな?」
「知ーりーまーせん!」
 最後には大きな声を出した。それでもあの手この手で聞き出す先生に、しずかは結局本音を漏らす事になってしまう。


 それを聞いた先生は、優しく微笑みながら「そっか」と言うに留めた。「上手くいくといいね」と励ましを添えて。
 ただ、しずかもそこで終わるわけにはいかなかった。
 先程、のび太への思いを聞いてしまった故に。
 それは、自分がこの先生に距離を置く理由とも重なっていた。
 今ならはっきりと分かる。自分がどうしてこの先生に距離を置いて壁を作ろうしてしまうのかも。
「先生は……」
「うん?」
「先生はどう思ってるんですか?」
 予想外の質問だった。その意味を把握するのに時間がかかってしまう。
「私が?」
「はい」
 しずかは、はっきりと先生を見据えて言った。
「先生は、その……のび太さんとどういう関係なんですか?」
 先程聞き出された自分の想い人との関係を問いただす。放課後に保健室に入り浸ってるのは学校中のほとんどが知る事実であった。
 好きな人を述べたしずかには避けて通れない事である。真っ正面から見据えるしずかのその目を、先生も正面から受け止めた。
「何もないわよ」
 はっきりと事実を述べる。
「のび太君は、ここに休みに来てるだけ。私は協力してるだけ」
「それだけ、ですか?」
「そうよ。他に何もないわ。残念だけど」
「えっと……」
「のび太君がもっと大人で、私がもっと若かったらね。でも、さすがに倍以上も年齢が違うとどうしようもないわよ」
 そう言って先生は少し寂しそうに笑う。
「でも、昔好きだった人を思い出させてくれたわ。それは少し感謝してるかな」
「そうなんですか……」
「あと、みんなの為に頑張ってるから。だから出来る事はしてあげたいわね」
 それはそうなのだろう。だからこそのび太も自然と信用・信頼してるのだろうから。だが、やはり警戒というか文句を言いたくなる。先生が美人であり、のび太がそんな先生と仲が良いという事を認めたく無い。
 嫉妬と言って良い。自分の気持ちがそう呼ばれるものだとは自覚してなかったが。
「まあ、のび太君については大丈夫よ」
「どうしてですか」
「だって、のび太君が好きなのはしずかちゃんだもの」
 その言葉にしずかは赤くなるしかなかった。
「ま、色々な事が終わったら言ってあげるといいわよ」
「何をですか」
「好きだって」
「…………!」
 しずかは本日で一番真っ赤になった。


「失礼しました」
 そういってしずかが退室していくのを手を振って送る。それからベッドへと向かい、そのうちの一つのカーテンを開けて中に入る。
「しずかちゃんは帰ったわよ」
「そりゃどうも」
 中で寝ていたのび太はそういって起き上がる。少しブスッとしてるのは寝起きのせいだけではない。
「聞いてた?」
「何を?」
「しずかちゃんの気持ち」
「…………」
 これにはさすがに無言になるしかなかった。
「あんまり待たせちゃいけないわよ」
「はいはい」
「それと、必ず生き残らないと」
「……はいはい」
 そういってのび太も保健室を後にする。その背中を見送りながら先生は溜息を吐く。
(上手くいくといいけど)
 この町の事も、あの二人の事も。全てが良い結果に終わり、そしてあの二人の関係が上手くいくよう願わずにはいられない。かつて自分がしたような失敗をしてほしくはなかった。そのために先生も自分の出来る事をしていく。


 それからしばらくして。
「失礼します」
 のび太の学級の担任がやってきた。以前とは違って表情に覇気がある。
「お待ちしてました」
 迎えた先生は席をすすめる。
「ようやく他の先生と話がつきましたよ」
「じゃあ」
「ええ。全体の3分の1はおさえました。のこりの3分の1はやはり剛田君の組織に握られてますが、残りの3分の1は日和見です。教頭は状況を見て組織よりになってるようですが、校長は内心では現状をよく思ってないみたいです」
「そうですか」
 あの日から行動を開始した担任の言葉を、先生は頼もしく聞いている。不当教師の解任がなかなかされない、処分の決定の遅い現状に苛立ち、自ら行動をはじめた担任は、今や組織に対抗する人間の一人になっていた。
「できれば、残り3分の1の先生達もこっちについて欲しいところですけど」
「それなら大丈夫でしょう。こちらが優勢になればこっちにつくでしょうから。問題なのはどうやってそちらにもっていくかですけどね」
「確かに」
「ま、こればかりは野比君にがんばってもらわないといけませんが。ただ、こちらはこちらで組織の方に圧力をかけていって、野比君の支援をするつもりです」
「できるんですか?」
「いまPTAや教育委員会。それと議会などに働きかけてます。元教え子や伝手を辿って。どこまで出来るか分かりませんが、やれる事は全部やってみますよ」
「まあ……」
 頼もしい言葉であった。
 かつての担任からは想像出来ないものであった。
「しかし、子供に振り回されてるとは。大人失格ですな」
 自嘲気味にそんな事を言うも、卑下や落胆は感じられない。
「でも、今の先生はとてもがんばってらっしゃいますよ」
「そうですか? そう言って貰えるとありがたいですが」
「ええ、とっても」
 そう言って保健の先生は微笑む。つられるように担任も笑顔を浮かべた。


「準備はどうなってる」
「声は全部かけた。非常招集もした。今、全員がこっちに向かってる」
 質問への回答にジャイアンは頷いた。報告したスネ夫も腹を決めてこれにあたっている。
 ジャイアンの組織は、今や戦闘態勢に入っていた。
 あちこちの支部から人員を集め、バットや木刀などで武装している。目標はのび太。今ここで片付けておかねば反発と抵抗を更に強めるだけ。そう判断したジャイアンの考えによる。
 裏で誰の目にもつかないように片付ける、という事は放棄した。もうそんな事は言ってられない。
 それよりも衆目の中で徹底的に粉砕し、二度と逆らう気が起こらないようにさせる事にした。普通に考えればまずありえない手段であろう。
 こんな事をすれば警察の介入も行われる。だが、ジャイアンはそれ以上の暴力を示す事で、周囲を威圧する事を選んだ。暴力に慣れ親しんだ者の発想である。そしてそれはさほど間違ってもいなかった。
 組織と接点のある議員などは、ジャイアンからの通達(というか脅迫)に一も二もなく従っている。警察幹部も同様だ。彼らも自分自身、そして家族の安否が大事であった。それらが危険にさらされるとあれば対応が鈍るのは当然である。
 ジャイアンは今正念場を迎えようとしてることを感じていた。ここで倒れるか、乗り越えて先に進むか。どちらになるかは分からない。
 だが、自分の繁栄と発展を手に入れるためにありとあらゆる事をするつもりだった。
 躊躇いはない。後悔もない。失敗もない。成功だけがジャイアンの頭にあった。それに向かって突進するだけである。
 無謀と言えばそれまでであった。だが、迷いがない、という成功に必要な一点がそこに確かにあった。
 成功だけを見てひたはしる。ある意味ジャイアンのとってるやり方は理に適ってはいた。彼の目的と手段の良否はともかくとして。


 聞き出したアジトの一つを殲滅してからの帰宅。
 遅い風呂を終えて布団に入ったのび太は、保健室で聞いた言葉を思い出していた。
『のび太さんが……好きです』
 しずかのその声がどうしても忘れられない。
 他に考えるべき事はあるのだが、頭の中で繰り返されるのはその言葉だけ。他に何も考えられなくなっている。
(まずいよな)
 そう思うも止める事ができない。まさかの一言にのび太はやられてしまっていた。
 そして。
 その言葉に力を得たのも確かだ。
(しずかちゃん……)
 思い描けるほど脳裏に刻まれたその姿。思い出すたびに力がわいてくる。絶対に死ねないと。決してかなわないと思っていた願いがかなってる事への喜びも。
 かつてドラえもんがやってきた時に尋ねた言葉。将来の結婚相手は誰、という質問。その時得た悲惨な未来は変更されている。少なくともその方向に動いている。ならば。
(必ず掴んでみせる)
 決意を新たに目を閉じる。
 日付が変わった今日もやはり学校がある。その先にはまた組織との対決があるだろう。夢見た未来を手に入れるためにのび太は立ち向かっていく。その前に組織が立ちふさがるなら必ず粉砕してみせる、と。
 目を閉じて夢を見つめていく。そのままのび太は眠りにおちていった。
 ここ半年で、いや、ドラえもんが未来に帰ると聞いた時から一番ゆっくりと落ち着いた眠りを得た夜になった。



********************

<平成24年11月11日分その2>


(ん?)
 いつものように屋上で昼休みを過ごしてるのび太は、ドアが開く音を聞き、身を起こし、やってきた人間に目を向けた。周囲への警戒から身についた癖である。
 今やここにやってくる者はほとんどいない。元々出入り禁止されてる場所であるし、更にはのび太がいるという事が理由となってしまっている。決して悪意から疎遠にされてるわけではない。ただ、ジャイアンに目を付けられるのを恐れての事だった。
 一緒に居るだけで、ちょっと話をしただけでジャイアンに与する者達が密告をする。そんな監視社会となってしまった学校において、のび太は『接触すら避けねばならない存在』にされてしまっていた。
 例外はしずかのように勇気のある人間だけとなっている。
 それか、ジャイアンに対抗してる者達か。
 だからこそ屋上は誰も近寄らない場所になってしまっていた。そんな所に誰かがやってくるとは。
(誰だ?)
 警戒のためにショックガンに手を伸ばす。のび太への協力者の可能性もあるが、寝首をかこうとする襲撃者の場合もある。実際、屋上でのんびりしてる時に狙われた事もある。警戒は怠れない状況だった。
 それは聞こえて来る音によっても明らかだった。来訪者は単に屋上に出て来ただけでない。のび太が寝転んでる給水塔に上がってきてる。出入り口の上に設置されてるここまで上ってくるハシゴを踏む音がする。
(誰だ?)
 警戒心が跳ね上がる。だが、その警戒は今回は無用のものであった。ハシゴの方に向けた銃口。その先にあらわれたのは見知った顔だった。
 ジャイアンに最も近い人間であるが、おそらく組織とは無縁な人間。
「…………ジャイ子」
 意外な人間であった。ジャイアンの妹、剛田家の人間。だが敵ではない人間である。銃口を下ろしたのび太は、彼女に目を向けたまま尋ねる。
「どうしたんだい?」
 決してぶっきらぼうでもない口調。だが、乾いた声だった。
 この半年で無味乾燥な声が当たり前になってしまった。殺伐とした日常を送ってるせいであろう。聞く者によってはキツく聞こえる事もあるという。それはのび太が意図した事では無いが。
 ジャイ子もそれは分かってるようで、他の者達がそうするように怯んだりはしない。ただ、浮かない顔をしてはいる。それはのび太が声をかける前からであるが。
「のび太さん」
「ああ」
 一拍の間合い。どちらもその次がなかなか出て来ない。
 仕方のない事だった。本人同士はそうでなくても互いの立場が間を隔てている。ご町内を牛耳る組織の頂点に立つ男の妹と、その組織に対抗してる男。ジャイ子とのび太の間には敵対的な関係はなかったが周囲がそれを許しはしなかった。
 だからこそのび太はここにやってきたジャイ子を邪険にできなかった。のび太に比べても更に子供のジャイ子である。そのジャイ子とて今の状況を知らないわけではない。それでもここにやってきたのだ。
 何かしら事情があるのかもしれない。それがのび太の気持ちを動かした。黙って見つめ合う二人。いや、ジャイ子が俯いてる時点で見つめ合ってはいないだろう。だが、向かい合ったまま二人は次の言葉を待っていた。
 口を開いたのはジャイ子だった。
「お兄ちゃんがね」
「うん」
「今度、のび太さんと決着つけるって」
「そうか」
 短いが用件は十分に伝わった。何が起こるか分からないが、相手が何を考えてるのかが分かるのはありがたい。
 そして。
 兄弟を裏切るようなマネをしてまで伝えてくれたジャイ子に感謝の念を抱く。
「ありがとう。助かるよ」
 そう言って話を切り上げた。これ以上ここにいたらジャイ子に余計な迷惑がかかると思って。
 ジャイアンの妹という事で周囲からの接し方が変わってるジャイ子である。それをどう思ってるのかは分からないが、こうやってのび太に情報をもってきてくれたのだから、これがおかしいとは感じてるのだろう。
 そうくみ取るからこそのび太はジャイ子が自分と接するのを良いとは思わなかった。今なら何をしても「ジャイアンの妹だから」で済ませられる。自分が望んでないのに周囲が勝手にそうなった、と。
 だがここでのび太と接点があれば、身内を裏切った薄情者というレッテルが貼られかねない。そうなればどちらの陣営からも、そして傍観してる日和見の連中からも様々な事が言われるだろう。そうなればどこにも居所がなくなる。
 だがジャイ子はそんなのび太の配慮を無視して言葉を続ける。
「のび太さん、お兄ちゃんとはやっぱり上手くやってけないのかな」
 その言葉にのび太はすぐに返事をした。
「無理だよ。どうあっても。ジャイアンが今やってる事をやめれば分からないけど」
 それはどうしても避ける事の出来ない事だった。今ここでジャイアンと和解する事はできない。すれば今まで踏みにじられたきた人達を見捨てる事になる。ジャイアンが今やってる事をやめれば、というのは究極の妥協点である。
 それはジャイ子とて分かってるだろう。幼いながらも漫画家を目指しそのための努力を重ねている娘である。作品を仕上げるための勉強を通じて様々な事を学んでいる。同じ年齢の他の者達よりはるかに大人である。
 だからこそこんな事が言えるのだろう。
「やっぱり無理ですか」
「うん」
「じゃあ、せめてお兄ちゃんを止めてください」
「ジャイ子?」
 これは少しばかり予想外の言葉だった。
「このままじゃお兄ちゃんがダメになる。他のみんなも。お父ちゃんもお母ちゃんも店が急がしてくれどころじゃないし。だからのび太さん。お兄ちゃんを止めて」
「…………」
 その言葉にのび太はどう応えればいいのか迷った。
 ジャイ子とすればジャイアンはやはり兄である。その兄ではなくのび太に全てを頼んでいる。それだけ思う事があるのだろう。身内なだけにのび太の知らない何かを見てきてるのかもしれない。考えてみれば哀れなものである。
「分かったよ」
 ようやくそれだけ口にする事ができた。
「ジャイアンは僕が止める。止めてみせる」
 そう言うのがせいぜいだった。それでもジャイ子はほっとしたようだ。
「ごめんなさい、こんな事頼んで」
「気にする必要ないよ」
 むしろ謝罪を口にされる事の方がおかしなものだった。
「それじゃあ」
 そう言ってジャイ子は去っていく。再び一人になったのび太は、ふと昔の事を思い出した。
 かつてドラえもんがやってきた日の事を。


 あの日ドラえもんから教えられた事。
「将来結婚するのはジャイ子」
という事実。
 それが嫌でドラえもんと共にがんばってきたが。だが、あらためて今さっきのジャイ子を見ると、それも悪く無いのかも、と思えた。
 ああやって色々考えて。そして身内よりも道義や正義を大事にする娘ならば、一緒になってもいいのかも、と。今更であるが。結局相手を外見でしか見てなかったのだろう。だが、もうそれはありえない選択だった。
 のび太が選んだのは別の未来だしその方向に物事は動き出している。この先がどうなるかはやはり未知数であるが、少なくとも今はジャイ子と一緒の未来は考えられない。ドラえもんと共に過ごした時間を共有してる者がいるのだから。
 あるいはジャイ子の未来も変わったのかもしれない。直接ドラえもんとの接点が無かったにしても。
 のび太が変わり、のび太と関わる人間が変わり、それがどんどん伝播していって。様々な所に影響を与えているならば。
 ジャイ子もそうやって影響を受けた誰かなのかもしれない。それが良い方向に向かっているならば、と思う。
(そういえば)
 ふと思い出す。伝え聞いたところによれば、ジャイ子はとある漫画賞にて入選を果たしたとか。
 入選と言っても上位ではない。本来の受賞対象とは別に設けられた審査員特別選考という扱いだったとか。だが、小学生でそこに食い込むという事だけでも凄い。採用された作品は修正した後に雑誌掲載されるのだとか。
 もしかしたらこのまま漫画家としての道を歩んでいくのかもしれない。それはそれで良い方向なのだろう。
 かつての、ダメな大人に成長したのび太との結婚よりは。のび太が別の道を歩んでいくように、彼女も別の道を歩んでいくのるのかもしれない。
「さよなら……なのかな」
 一度は一緒になる運命にあったはずの娘にそう告げる。それが正しいかどうかは分からないが。
 だが、これで何かの区切りがついた、つけざるえなくなったとは思った。
 もう決定的に何かが変わったのだ。
 それを受け入れないといけない。それこそがドラえもんがやってきた理由であるし、求めた結果なのだから。


 あるいは。


 これが決定的になったからこそタイムパトロールはドラえもんの帰還を決定したのかもしれない。


 未来は変更された。


 それはのび太の変化を表す。だとしたら、今のこの状況を受け止めねばなるまい。もう予定されていた未来はないのだという事を。それは自分自身の手で未来を切り開かねばならない事でもあろう。
 それでものび太は振り返るつもりはない。最悪の状況を抜けだしたと信じて。これから先は自分の手で切り開くと決意して。
 目の前にある障害も、そうやって変更した未来がもたらしたものなならば自分で乗り越えてみせると。
 かつてのように冒険を乗り切る道具を出してくれる者は居ない。
 だが、その者と培った今の自分ならばできると信じて。
 そんな自分こそが、他の何にも勝る秘密道具と信じて。







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3



2012/11/11  19:05

投稿者:golf-makiy

流れがあるし 未来はどうなる…楽しみな作品♪

2012/11/11  14:18

投稿者:東亞重工製合成人間rock69型

少なくとも先生はしずかをそう評価していた。そして、しずかの低い自己評価を修正したかった。

この文章の意識の高さに、この作品の全てが集約されていると思いました。
続きが…、読めたら嬉しいです。


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