平成19年(行ウ)第648号 開発許可処分差止等請求事件
平成20年(行ウ)第105号、118号 訴えの追加的併合申立事件
原告 氏名省略 ほか
被告 渋谷区、東京都
第18準備書面
被告渋谷区の平成21年4月24日付準備書面(6)に対する再求釈明等
平成21年5月12日
東京地方裁判所民事第38部A1係 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 斉藤 驍 外
我々や裁判所が釈明を求めてきたものは、単なる開発許可事前相談の経緯ではなく、「計画変更」を理由にする事前相談(以下「第一次相談」という)の取下げから一月も経たない本年(平成21年)2月28日、作成日付や方位、縮尺も記されていないわずか1枚の文字通り「ラフスケッチ」(乙5)の提出をもって、事前相談の再申請がにわかになされ、しかも渋谷区長が即座にこれに応諾し、「事前相談」なるもの(以下「第二次相談」という)が再び始まるという、異状かつ非常識な事態に至るまでの被告渋谷区及び事業者鞄山・三菱地所鰍ニの本件の争点に関する一切の折衝の経緯である。
今回の被告渋谷区の「経緯の説明」なるものは、これをことさらわきまえず、第一次相談以前の経緯を全く欠落させたり、大切な事実をすり替えたり、あるいは隠蔽しているもので、釈明に対する誠実な回答とは到底いえない。
よって、重要なところに絞って、以下釈明を求める。
1.被告渋谷区と本件事業との係わりについて
(1)被告渋谷区が本件開発に係わる件で最初に事業者側と接触したのはいつ、どの部局か。
鞄山は、遅くとも平成13年には三菱地所鰍ニ本件開発を等価交換方式で推進することについて合意し、この準備に入ったことはすでに甲66号証(別件工事差止仮処分における鞄山の第1準備書面)で明確になっている。
したがって、開発を実現するには、被告渋谷区の開発許可等が先決の案件となる。
すると、平成15年にはすでに都市整備部等関係部局との折衝が始まっていたのではないか。
(2)具体的には、誰が誰と接触したか。その時、計画図等の文書は存在したか。存在しなかったとすれば、いつ、誰が、誰から上記文書を受領したか。
(3)上記文書と乙3号証として提出されている第一次相談文書及びその添付文書と違いはあるのか。あるとすれば、どの点か。建物の規模(高さを含む)、樹林の取扱い、中村是公の建物とその庭に対する評価と取扱い等との関係を明確かつ具体的に答えられたい。
2.羽澤ガーデンの占有管理について
(1)開発事業者側は、その時誰が土地・建物を所有しているという説明であったのか。
鞄山であるとのことではなかったか。
これの裏付けはどのようにしてとったのか。
同社社長の自宅や社員寮があることを確認したからか。
その時、羽澤ガーデンの主たるところを占有管理しているのは鞄山ではなく渇H澤ガーデンであることは分かっていたのではないか。
(2)渇H澤ガーデンが占有管理しているのであれば、同社が同意しない限り開発は不可能であることは被告渋谷区にもよく分かることである。
この点について事業者側はかかる説明をしたか。
また、説明を聞いた担当者は誰か。
被告渋谷区は直接渇H澤ガーデンに対しその意向を確認したか。
しなかったとすれば、その理由は何か。
3.保存樹林指定について
(1)渇H澤ガーデンは平成7年以来、その庭に存在する4380平方メートルの樹林について、渋谷区みどりの確保に関する条例による保存指定をうけ、この旨、保存樹林等指定台帳(甲23、1枚目)に記載されている。
この台帳は区民に公開されている公文書である。
また、区長は上記指定をした時は現場にこれを表示する標識を設置することとされている。
指定の対象は渇H澤ガーデンになっているが、公簿上の所有者は鞄山となっている。
この関係はどのようなものと評価していたのか。
(2)渇H澤ガーデンが鞄山と創業者を同じくする同族会社であることは承知していたか。していなかったとすれば、いつ分かったのか。
(3)鞄山の社長らの住居施設が羽澤ガーデンの敷地内に存在していることは承知していたのか。していなかったとすれば、いつ分かったのか。
(4)上記指定以降、鞄山が指定に対する異議を申し立てたことがあるか。
(5)渇H澤ガーデンと鞄山とは実質的に同一の存在と評価し、指定を継続していたのではないか。
4.指定解除について
(1)平成17年9月20日、渇H澤ガーデンの支配人林弘氏の名義で「借主に返却します」との理由で前記樹林指定解除申請がなされている(甲23、2枚目)。
所有者から借り受けて土地を管理していたものがこれを返還することは、所有者に管理権が戻るだけで、上記条例の解除事由には該当せず、しかも、所有者と借り主の間に上記のような特別の関係があり、かつ、保存樹林指定に同意していた所有者に管理権が戻る場合には、その所有者に従前同様の樹林保存義務があることは明らかであり、解除事由には全くあたらない。
なぜかかる指定解除申請を認容したのか。しかも、大事な公文書である保存樹林等指定台帳には「新所有者鞄山に平成17年11月11日に所有権が移転された」という、公簿上からも、また被告渋谷区の現実の認識からも直ちに分かる虚偽の事実を記載してまで、なぜ指定解除を強行したのか。かかる行為を認容し、実行した者を具体的に明らかにされたい。
(2)この間、鞄山ら開発事業者において、指定解除に向けた言動があったことは充分疑われることであるから、了知している限りこれを明らかにされたい。
5.事業者側は、平成19年3月23日、開発事前相談及び添付図書を提出し、第一次相談が始まったとされている。
その後、二月程度しか経過しない同年5月から6月の段階で「乙3号証の事前相談書及びその添付図書は・・・概略案というべきもの」(3頁5〜8行目)ができたとされている。
ここには2つの大きな問題がある。
この概略案が単なるプロセスの所産であるならば、控えめにみても平成20年9月22日まで1年3ヶ月以上、第一次相談は続けられている。
そうすると「既存樹木等の保存」をおくとしても、開発において検討すべき事は準備書面(6)第1の1の一般論に照らすまでもなく、多方面にわたるのであるから、概略案に何らかの修正が加えられるのが当然である。
ところが、本件において、被告渋谷区は第一次相談で検討した資料として前記乙3号証しか提出していない。修正がなされたとすれば、その基礎となる資料があるはずであり、これがなければ第一次相談及びその俎上に乗った開発計画に対する法的評価はできない。被告渋谷区は事前相談を「行政指導」で事実上の行為であるといい、あたかも法的評価の対象外のようにいうが、これは全くの間違いである。事前相談により開発計画が完成し、許可処分の内容を決定するという現実を考えれば、単なる「事実行為」ではあり得ない。
したがって、修正がなされたのであれば、その資料を当然提出しなければならない。しかし被告渋谷区がこの資料しか出せないのは、「概略案」なるものが既存樹木等の保存という問題を除いて何の修正もなされないまま、第一次相談の成案となったと考えたほうがよいかも知れない。
平成19年6月13日、同7月15日、同8月5日と3回にわたる住民説明会の開催は、被告渋谷区の行政指導が変化する蓋然性があれば、すなわち第一次相談が煮詰まっていなければできない筋合いだからである。
そうすると、本件開発の「概略」(基本構想)は相談開始以来、前記のとおり僅か2ヶ月余りで被告渋谷区と事業者等との間で話がまとまっていたのである。
羽澤ガーデンの特殊性を少しでも考えれば、2ヶ月余りで事前相談がまとまるとは到底考えられない。
「既存樹木の保存」は、住民説明会から行政訴訟等に発展する近隣住民、一般市民、文化人等の厳しい批判にさらされ、これをすり抜けるために新たなテーマになったに過ぎないのである。
このことは、上記訴訟提起後である平成19年12月26日という年末ぎりぎりに渋谷区長が鞄山社長等事業者側に対して「既存樹木等の保存を中心に検討を要請」(4頁)したということだけでもよく分かることである。
「樹木等の保護」がためにするものであることを今回の被告渋谷区準備書面及びラフスケッチ(乙5)がよく示しているが、この点は後述する。
それよりも、ここで充分留意すべき事は、2ヶ月余りで本件開発計画を詰められるものではないという厳然たる事実である。
冒頭から釈明を求めているとおり、本件開発は遅くとも平成15年頃から事業者側と被告渋谷区、同東京都との間で打合せが行われ、前記のとおり渋谷区は平成17年11月に保存樹林指定の解除を違法に強行し、本件開発の外堀を埋めて、被告東京都は平成19年3月、自然保護条例を蹂躙して、外から見ただけでも明らかな4380平方メートルに及ぶ羽澤ガーデンの森を自然地ではないとする等して、内堀まで埋めようと画策してきたのである。
したがって、事業者側と被告渋谷区及び東京都は、平成16年から18年の間、少なくとも3年の時間をかけて開発の強行を市民の与り知らないところで意思相通じて準備してきたのである。
そこで、被告東京都は以下の点を明らかにされたい。
(1)平成19年3月、被告東京都は自然保護条例に基づく羽澤ガーデンの現地調査を行ったが、平成17年より同調査に至るまでの間、本条例のみならず、都市計画法・建築基準法の適用等、本件開発に関して都市整備局や環境局の担当職員等が事業者側及びその関係者と話し合いもしくは打合せをしたことがあるか。あったとすれば、その回数、当事者の氏名、場所及びその内容を答えられたい。
(2)住民説明会において、事業者側は、本件開発の建築物につき、東京都より建築基準法第55条2項の認定をうけて、高さ10メートルという第一種低層住居専用地域の規制を緩和してもらうと説明している。
被告東京都における処分行政庁である建築主事は、いつ、どのような方法で事業者側の誰に、かかる「認定の内示」をしたのか。
(3)本来開発許可がなされなければ、建築確認等の手続に入れないはずであるが、本件開発においては同時に、建築についても「事前相談」ならぬ「事前相談の談合」がなされている。
被告東京都が法律上ないし事実上のあらゆる領域において本件開発に係わった起点はいつか。そして、それはいかなる機会および場所であったか。事業者側・東京都側の氏名、所属等を具体的に明らかにされたい。
6.被告渋谷区準備書面(6)第2について
(1)第一次相談についての被告渋谷区の説明は、特に既存樹木等の保全が行政指導のテーマになったという平成19年12月26日から平成21年1月28日の「計画変更」による取り下げと、その舌の根も乾かないうちに始まったラフスケッチ(乙5)をベースにするという第二次相談の経緯は、無理に無理を重ねたものであり、何人も納得させることができない。
たくさんの疑念や疑問は後述するとして、ラフスケッチが示す程度の修正であるならば、第一次相談の中で充分消化できるのに、なぜ取り下げという芝居を打ったのかという基本的疑問に何ら答えていないということである。被告渋谷区はまずこれに答えるべきである。
しかし、語るに落ちたというべき回答が準備書面第2の「補充」説明においてなされているとも言える。
すなわち、第一は「既存樹木等の保存とは・・・一定の自然環境を残すということであり、個別具体的な計画を示した」わけではない(5頁10〜12行目)というところである。
一定の自然環境では、その範囲も特定されていないから、法律上の行政指導としては無意味である。しかも、具体的なものではなかったというに至っては、語るに落ちたも甚だしい。
しかし、念のため釈明を求める。「一定の」というのは、何を前提にしたものなのか。4380平方メートルの樹林の保全がいささかでも念頭にあったのか。
(2)「したがって・・・建物の保存は(指導の対象には)含まれていない。」(5頁13行目)ここに被告渋谷区の「指導」なるものの不条理が際立っている。中村是公の建物があり、それとひとつになった庭がある。
それが羽澤ガーデンの根源的な文化と環境である。建物を保全の対象としないということは、羽澤ガーデンを文化財として考えないということに他ならない。
文化と環境の中枢である建物の保全を考慮しない「樹木の保全」が、緑や自然を守ることには絶対ならない。
その好個の例が、前回期日に提出されたラフスケッチなのである。
後述するとおり、みどりの量だけ見ても「概略案」より少ないのである。
ここで、看過できない重要な事実がある。
「指導」が始まる半年以上前、そして第1回住民説明会(平成19年6月13日)の直前である平成19年5月16日、渋谷区長は鞄山の社長村上紀通を呼び、羽澤ガーデンを売ってくれないかと頼んでいるのである。
羽澤ガーデンの文化的価値を評価しなければ、普通は出てくる話ではない。
しかしいうまでもなく、村上は今さら何だと断ったのである。
村上は、この旨住民説明会において明言しているので、どうやら嘘ではないらしい。 この「今さら」という言葉が、それまでの両者の関係を実によく示している。被告渋谷区は、これをことさら隠蔽し、「同年5月16日・・・村上紀通・・・との面談において、事業者から計画概要の説明が行われた」(3頁9〜11行目)かのように述べている。
計画概要の説明を、事業者であっても地主の立場に過ぎない村上が説明するはずもなく、また説明する時期でもなかった。見え透いた全くの虚構である。
さらに、「渋谷区の要望と渋谷区みどりの確保に関する条例による保存樹林の指定解除ないし東京都の『自然地』の認定とは関係はない」(5頁14〜15行目)とまで言う。
関係ないといわざるを得ないかもしれない。
樹林指定解除も自然地の認定も、本件開発強行の手段だったからである。
しかし、樹林や自然地を守る考え方と、自然やみどり、さらには文化を守る基本的義務を有する地方自治体が「関係ない」と言って済まされるのであろうか。
(3)最後に、ラフスケッチの作成日付について、「(事業者側に)尋ねなかったのは、特段その必要を認めなかったからである」と締めくくっている。
この文言は、まさに被告渋谷区の事前相談についての「説明」が完全に崩壊していることを示している。
なぜ尋ねなかったのか。それは、尋ねなくとも分かっているが、それを口に出しては言えないからである。すなわち、作成日付を平成21年2月頃としているが、そんなものではなく、遅くとも昨年の秋頃にはできていたものだからである。
しかし、念のために聞いておく。ラフスケッチはいつ作成されたのか答えられたい。
7.以下、具体的に疑問点・問題点を列挙するので、釈明を求める。
(1)第一次相談と第二次相談のラフスケッチでは、緑地の確保を中心とした環境への配慮について、具体的に何処が違うのか。数値をあげて説明されたい。
(2)本件開発は、「自然保護条例の開発許可」を潜脱しているとは認識しないのか。少なくとも、被告東京都は本件の説明を近隣住民・関係者に怠っており、責任説明を果たすためには、原告、専門家の立会いの下、再検証をするべきだとは、思わないのか。
(3)羽澤ガーデンの文化財としての価値や保存の可能性について、被告渋谷区は所有者、被告東京都、国、その他の関係機関に働きかけて、検討する責務があるのではないか。
(4)隠されている事実について
@ 平成19年5月16日、渋谷区長が鞄山社長村上氏との面談において、羽澤ガーデンを譲って頂きたいと話している事実を何故隠しているのか。同区長は羽澤ガーデンの価値を判って発言をしたのか。いずれにしても、区長はこの発言に責任がある。速やかにこれについて答えられたい。
A 平成19年9月5日、被告渋谷区都市整備部長の仲介で、近隣住民と事業者側と話し合いを持ったが、事業者側は一切の変更に応じない旨の発言があり、それならばなぜ仲介の場に来たのかと尋ねたら、渋谷区からの要請があったから出席したのだと答えている。
次回(同月19日)の仲介には事業者側は出席しなかった。この際、都市整備部長は東京都の斡旋・調停に委ねるのもよいと思うといい、匙を投げている。
この不調になった2回の仲介の事実をなぜ隠しているのか。
(5)第一次相談が第二次相談に変わった経緯について
@ 第1の2(17)において「基本的な地域の要望を現実的に取り入れた案」と述べているが、地域の要望とは何であったのか。ラフスケッチとは全然違うものではなかったか。
A 渋谷区みどりの条例は「樹木、樹林を有する者はみだりにこれを伐採してはならない」と樹木等の所有者の財産権を一般的に制限するに到り、樹木等の指定に同意した者は「やむを得ない事由がある場合」を除いて指定解除をうけられないとしている。
ラフスケッチが提出された経緯を第1の2の(1)ないし(16)で説明をしているようだが、どのような理由で第一次相談が第二次相談に変化したのか、全く不明である。
第一次相談の修正ではなく、開発計画を取り下げて第二次相談の提出に切り替えた理由が読み取れないので、この点を明らかにされたい。
(6)住民の要望は、請願書に、建築や庭園の文化的価値、自然環境の価値の両方が書かれているのに、なぜ事業者側にこれを正しく伝えなかったのか。また、なぜ「既存樹林等の保存を中心に」と切り縮められたのか。
(7)「保全のための土地の全購入、部分購入、賃借」という要請は検討されたのか。
(8)事業者側への「既存樹林等の保存を中心に」した要請の検討過程が不自然で信じがたい。
(9)平成19年12月26日の要請と、平成20年6月2日の要請は同じ内容か。そうだとすると、この間に何らの検討も行われなかったのか。
また、平成20年9月22日の会談は何の目的で行ったのか。このとき事業者側から、すでに検討を了承し、検討結果を持ち寄ることになっているのに、何らの報告もなかったのか。10ヶ月も経過しているのにそれは不自然である。
(10)事前相談の取り下げはどう考えても不必要かつ不自然である。
「事前相談中の内容」の情報公開を頑なに拒んできた被告渋谷区が、「相談中の内容」の裁判所への提出という前例をつくることを嫌がって、事業者側に要請して取り下げをさせたのではないか。
(11)「開発許可申請がなされた場合の標準処理期間は60日である」との文言は、いかなる趣旨か。原告らに対する愚かな恫喝ではないのか。
(12)保全する樹木の本数は第一次相談に比較して減少していないか。
(13)第二次相談では東側の提供公園がなくなっているので、緑地の面積は全体として減少し、地域の緑化環境の悪化とならないか。
(14)住民の意向に添った形に変えたと述べているが、今回のラフスケッチに関して、住民の意向をどこで誰から聞いたのか答えられたい。
以 上

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