歓声の中へ
野球、サッカー等を中心にした総合スポーツコラムです。
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2009/6/4
「【プロ野球】連覇!!−−WBC2009観戦記(3)」
野球
決戦を前に、妙に落ち着いている自分がいた。もっとも、自分が焦っても仕方ない。今日は満を持した岩隈がやってくれる。逆に、ちょっと速いだけの金廣鉉はやっつけた。後は奉重根だけだ。このレフティを倒せば、韓国の息の根は止まる――。
この日はまず、7thを西に歩いてなつかしのステイプレス・センターへ。かつてレイカーズとクリッパーズの試合を堪能した最新式のアリーナだ。だが今日はバスケットボールのためではない。翌日から始まる世界フィギュアのチケットを買うためだ。そう、WBCと入れ替わりに、この魅力的な大会が始まるのだ。しかし滞在期間はあと2日。最終日は帰るだけだし、物騒な夜道を歩く気にもなれないので、見れるのは初日のマチネだけだ。アイスダンスのコンパルソリー――それだけでも見れれば十分ではないかという話もあるが、せっかくLAにいるのに、真央を始め世界のトップスケーターは揃っているというのに、このフラストレーション。スポーツマニアというのは、わがままなのである。
さて、このステイプレス・センターの北に、オリジナル・パントリー・カフェというレストランがある。ここは1924年の創業以来、いつどんな時でも食事を提供することを約束し、以来嵐の日も雪の日も1日も欠かすことなく営業を続けてきた超有名店だ。しかも24h営業。LAに来たらここに寄らない手はない。
久々の入店。何も変わっていない。嬉しくなってくる。ただし、雰囲気は最高だが、この店に限らず、アメリカのステーキがうまかった試しがない。何せミディアム・レアで頼んでもガチガチのウェルダンで出てくるのだから。そこで今日は思い切って「レア!」と言ってみた。結果は……
甘かった。やはり、ここはアメリカだった。まず、肉が固い。白身は嫌いだが、脂肪がなく固いというのも困る。アメリカのビーフは、概して大味だ。ロースやランプは固く、バラは赤身と白身が極端に分かれている。カウボーイが広大な牧場で追い回して育てるのだから無理も無い。日本のように牛小屋に入れて丁寧に面倒を見た霜降肉など望むべくもない。そして、焼き方も大雑把。出てきたステーキは、外側がガチガチに固く、内側は赤い色のまま。味付けもほどんどされていないから、テーブルの上のA1やHEINZをかけるしかない。ところが、これがまたまずいのだ。結局塩胡椒で食べる私。
野球もステーキも、どちらもアメリカ生まれだ。しかし、どちらも日本の方が圧倒的に「うまい」という紛れもない現実がある。アメリカのステーキ職人は、全員日本に修行に来るべきだ。野球選手も。だがそれは、まず実現することはないだろう。何せ国内選手権を「ワールド・シリーズ」と言ってはばからない国民性なのだ。これが改まらない限り、アメリカのステーキがうまくなることはなく、WBCで日本に勝つこともない。ここでも宿敵は韓国か。野球も、焼肉も。
ドジャースタジアムは、この日も快適な陽光と風に満ちていた。試合開始は18:30。決勝戦とあって、フィールド上には全参加国の旗が並ぶ。その中央に日本と韓国。そして国歌はスペシャル・アレンジ――何もかも3年前と同じだ。そして結果も。日本の優勝は変わらない。変わるはずがない。
そしてそのためのキーワードは、またも「一巡」だった。3回。まずは2番の中島がショート内野安打。3番青木はセカンドライナーだったが、これを高永民がはじく! 4番城島サードゴロの間に1死1・3塁となり、ここで小笠原が先制タイムリー! 見たか奉重根、おまえの棒球なんぞ、せいぜい日本の打者の目が慣れるまでなんだよ!
だがもちろん、韓国も粘る。5回だった。この回先頭の秋信守が、いきなりセンターオーバーのホームラン! そこは向こうも五輪王者としての意地がある。そう、この試合は前回王者対五輪王者によるリアル世界一決定戦でもあるのだ。スタンドも当然ヒートアップ。私の周囲には、韓国サポーターが大勢観戦している。そもそもリトルトーキョー同様、LAにはアメリカでも珍しい大規模なコリアンタウンがあるのだ。
彼らの応援はシンプルで、コールは4種類しかない。東京での第一ステージでの日本の熱い応援は記憶に新しいが、楽器の使えないメジャースタイルの会場では、一気にトーンダウンしてしまう。そこへ行くと韓国の応援は、シンプルだからこそ力強い。例の「テーハンミングク」の大合唱、加えてあの「銅鑼」である。
だが選手同様、サポーターにもスポーツマンシップをわきまえていないボケナス野郎はいる。”Dokdo is Korea’s”というボードを掲げた激馬鹿サポーター。テメエらの主張はどうあれ、スポーツに政治を持ち込むな。そうかと思うと、「ニッポン」コールにかぶせて大声で「ハングッ」と叫ぶ汚らしいメタボ中年。明らかに嫌がらせだ。野球を楽しむというより反日感情をむき出しにして憂さを晴らしているこうした輩は、もはやスポーツの敵でしかない。所詮この程度のサポーターにはこの程度の代表チーム。彼らに負けることは、野球という競技の地位を貶めることになる。絶対に負けるわけにはいかない(ただ私の隣の韓国人男性はきわめてマナーがよく、かつ熱いナイスガイであったことは付記しておきたい)。
そんな日韓米その他合わせて54,846人というWBC新記録の観衆が見つめる中、日本は再びリードを奪う。7回だ。この日ラストバッターに入っていた片岡が、韓国2人目鄭現旭からレフト前ヒット。すかさず二盗を決め無死2塁だ。去年の日本シリーズで出塁後3球で1点取った自慢の走りが炸裂した。ならばと続くイチローが三塁船にセーフティ・バント! 元祖核弾頭は俺だとばかりに、砂塵巻き上げイチローが走る。これが見事に決まって無死1・3塁! この「足の競演」に酔いしれる日本サポーター。気落ちする韓国サポと、そして鄭現旭。中島がレフト前タイムリーを放つのは、簡単なことだった。これで2−1! 韓国は8回から3人目柳賢振に代わる。だがもはや、誰が投げても結果は一緒。日本はこの回、1死2・3塁から岩村がレフトへ犠牲フライを打ち、3−1!
だがそれでも、それでも試合は決まらなかった。日本はその裏、岩隈がつかまる。この回先頭の6番李机浩が、右中間に二塁打だ。そもそも決勝戦の球数制限は100球なのだが、これで8回まで来た所に岩隈の投球術の優秀さがわかる。対する韓国の奉重根はわずか4回で94球を使い果たし、フェードアウトしているのだから……だが岩隈は7番高永民を遊ゴロに切って取ったものの、これが進塁打となり、代打李大浩(この打者が残っていた!)にセンターに犠牲フライを打たれてしまった。韓国の必死の反撃が、この得点経過からわかる。日本はここで97級に達した岩隈に代わり、杉内が1番李容圭をレフトフライに討ち取り、チェンジ。決勝戦は、死闘の様相を帯びてきた。
9回裏。カクテルライトを浴びてマウンドに上がったのは、昨日に引き続いてあの男だった。ダルビッシュセファット・ファリード・有――前日21球という絶妙な球数(決勝ラウンドの連投条件は30球以下)で見事クローザーを勤めあげたMAX154km/hの快速右腕にとって、勝利までの3アウトはパンケーキを食べるより簡単なことのように思えた。だが――。
代打鄭根宇、空振り三振。しかしダルビッシュはこの後金賢洙、金泰均に連続四球を与えてしまう。敬遠気味か緊張からか、あるいは気圧されたのかはわからない。だが打者アウトを取ればそれでいいわけだ。5番秋信守は空振り三振。後一人――。
ここで迎えたのが6番李机浩。8回に韓国反撃の狼煙となる2塁打を打たれた男だ。だが消耗した岩隈と出てきたばかりのダルビッシュでは球威が違う。事実、李机浩の打球は詰まらされたように見えた――。
打球は、三遊間を抜けてレフト前に同点タイムリー・ヒット!
金賢洙の代走李鍾旭がホームを駆け抜ける。あちこちで抱き合い、跳ね回る韓国サポーター。だが、まだ同点にされただけだ。ダルビッシュは7番高永民を空振り三振に切って取る。サヨナラのピンチは、免れた。だがここからが勝負所だ。いざ、延長戦――。
韓国の投手は9回から林昌勇に代わっている。そう、ここはこの男しかあるまい。このスワローズのクローザーは、MAX160km/hと滅法速いが、意外と脆い側面も見せる。その結果が54試合で1勝5敗33S、防御率3.00という数字だ。自責点は17。3試合に1回は必ず失点するという計算になる。今日が、その時だ!
10回表、日本の攻撃。まずは先頭の6番内川がライト前ヒット。それを稲葉が送り、8番岩村がレフト前ヒットで1死1・3塁。お膳立ては整った! ここで代打川崎はショートフライに倒れ、2死1・3塁。そしてここで登場したのが、イチローである。
鈴木一朗。今大会に入ってからずっと不振が続き、負け試合では戦犯扱いされてきたが、精神的支柱として、また守備のレーザーキャノンとして、この男を外すわけにはいかない。ただ本人の悩みは相当深かったはずだ。だがそのイチローも「地元」アメリカに来てようやく調子を取り戻し、この決勝戦では既に3安打を放っている。最後の最後で、イチローが間に合ったのだ。この8年連続200安打・100得点というMLBレコードを更新中の男にとって、韓流ツバメなどものの数ではなかった。センター前へ2ランタイムリー! 5−3日本勝ち越し!
後は、任せた、ダルビッシュ! だが10回の裏、ダルビッシュは、先頭の8番姜王民にフォアボールを許してしまう。無死1塁。だが、ここからがこの男の本領発揮だった。朴基赫の代打崔延を空振り三振! そして1番李容圭をセンターフライ! 姜王民鎬はまったく動けなかった。そして最後の打者鄭根宇を、カウント2−1から空振り三振!! ジャスト4時間の激闘を制し、日本、WBC2連覇!!
胴上げを見ながら、私は、残ったビールを一気に飲み干した。うまい。3年前の興奮がよみがえる。野球という私が愛するスポーツで、歴史上初の世界選手権優勝、そして2連覇。この2つの感動を現地で味わえた日本サポーターは、球界広しといえどもそうそういるものではない。もちろん様々なものを犠牲にしてここまで来たが、それに変えられない喜びを得ることができたのだ。そしてそれを与えてくれたのが、わが代表チームなのである。
いや、この表現はよそう。何度も繰り返すが、私はサポーター、つまりチームの一員なのだ。この連覇は、ある意味自分でつかみとったものでもある。それは選手の千分の一、一万分の一の力かもしれない。だがそんな無名のサポーターが集まってこそ、選手に匹敵する力が出せるのだ。そして我々が必死で韓国サポーターに対抗したからこそ、最後の一投一打で少しだけ相手を上回ることができたのではなかったか。
「ナイスファイト!」私は引き上げようとする隣の韓国人男性に声をかけた。笑って握手を求めてくる相手。試合中はどんなに熱い戦いをしても、終わってしまえばノーサイドなのである。
2
WBC
日本
韓国
投稿者: 生田正博
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