巷では、リクルートでトップを極めた営業マンや、マネジャーの方々による営業力、マネジメント力についての著書が多数出ている。これらの中にリクルートとは何ぞや?というものが触れられているので、多くは割愛する。
一般的に営業といえば、「ノルマ」に追われ、達成しなければ上司から罵倒されるか、最悪クビにもなるイメージが強い。しかし、リクルートでは「ノルマ」と言わず「目標」と表現され、数字設定はハードルが高いのが普通で、営業マンは「必達!」(必ず達成!の略)目指しひた走るのである。
随時、営業マンが集まり数字の進捗を報告し合う通称「ヨミ会」が行われ、これとは別にマネジャーと呼ばれる上司と付けあわせを行う。
「(数字が)ヤバいなあ。じゃあA社をもう一度攻めてみるか」
「皆厳しいからさ、お前だけが頼りなんだ。2000万フィックスのB社にもう少し営業して上乗せできないか」
「新規(開拓)の(数字を)集めるしかないよな」
等・・・罵倒というより、達成のための戦略を相談したり、アドバイスを貰う場といっていい。結果、未達成だったとしても追及及び分析されることはあるが、クビになることはない。(未達成という理由でクビになった営業マンを見たことも聞いたこともない)
リクルートでは1年を4期に分け、期をクオーターと言い換え、例えば4〜6月は1クオーター(社内では1Qと表現)となる。まず年間目標が設定され、各クオーター毎の目標が決まる。全社から各部門、部、課(分かりやすいように表現)、個人と数字が降りて来るしくみになっている。
クオーター頭に各部門で行われるのが「キックオフ」といい、部門全員が参加し、前クオーターで活躍した優秀な社員を表彰したり、迎える今クオーターの数字目標を共有し、各部署の代表が決意を語り、全員で掛け声をあげ終了する集まりである。それ以外にもユニークなアトラクションが行われたり、私のいた部門では各部署でプロモーションビデオを作って流したこともあった。
ノリは完全に「お祭り」で、司会を担当する社員が仮装をしたり、食べ物や飲み物が振舞われて完全に宴会状態になったこともあった。厳しい数字目標を突きつけられているにも関わらず、社員達にピリピリムードはない。むしろ、スピーチに笑い、アトラクションに笑い、「よっしゃ、頑張ろうや」となって散会するのである。
更に部毎でもキックオフが行われ、先のローカル版のようなことが行われる。部内では様々なキャンペーンが展開され、ディスプレイが作られ「ゲーム感覚」で営業が進められる。
今思うと、やたら「〜キャンペーン」が多かった気がする。私がいた部署では
「春よこいキャンペーン」(ユーミンの「春よこい」から)
「戦国キャンペーン」(部長が戦国時代マニアだから)
「西田ひかるキャンペーン」(部長が西田ひかるのファンだから)
「ビバビバ!QQQキャンペーン」(意味不明)
・・・等々、全て営業キャンペーンで具体的内容は記憶が薄らいでいるものが多いが、「西田ひかるキャンペーン」を例に思い出してみよう。
当時の部長は、ビールのCMキャラクターだった西田ひかるの大ファン、そこで誰かがどこで見つけてきたのか西田ひかるが写っているビールのポスターを大量にゲットし、部内の至るところに張り、朝会のときには必ず西田ひかるの歌を流しながらキャンペーンコーナーを盛り上げていた。
当然、営業と西田ひかるとは無関係、要は何でもいいのである。楽しく盛り上げて営業が頑張って来てくれればそれでいい。部長やメンバーが「遊び心」を持っているからこそ思いつくネーミングなのである。
ただ、庶務さんが作成する営業マン個々の数字が出る営業日報とは別に、手作りされたディスプレイで営業マンの状況が誰にでも分かるだけに、好調な者はいいが、そうでない者は肩身の狭い思いをさせられるシビアさも持ち合わせているのもまた事実だ。
営業マンが達成したり、大型受注があると、庶務さんが
「○○さん、今クオーター達成しました!!」
「××さん、○○建設様より5,000万円の受注を頂きました!!」
と高らかに宣言する。周囲は仕事の手を止め拍手大歓声となり、目標達成の時だとクラッカーを鳴らしたりする。
部が達成しても同じで、クラッカーを鳴らし、部のメンバー皆で握手し合い、いつの間にか寿司やビールが運び込まれ、祝勝会のような塩梅になる。
大抵、その後は「達成会」と呼ばれる飲み会が行われ、乾杯・スピーチ・ゲーム等で盛り上がり、深夜まで大騒ぎするのが普通のことなのである。また、悪ノリが過ぎて「リクルートお断り」と出入り禁止になっているお店が結構あったり、武勇伝も全社では星の数程あるに違いない。
リクルートは「お祭り」と「ゲーム感覚」を巧みに使い社員を走らせてきた。もちろん、ただ走らせているわけではない。達成すればインセンティブが出され、部署単位ではGIB(ギブ ゴールインボーナスの略)と呼ばれる社員旅行へ行くこともあり、これは原点であるサークルビジネスの名残りであり、受け継がれてきた文化なのである。
区切り毎に「お祭り」を開催し、営業期間中は「ゲーム」としてクリアを目指させ、そんな仕掛けに皆がのせられ、気付いたら常に頭の中は達成のためのシュミレーションを描きながら走る。口の悪い某卒業生曰く
「にんじんぶら下げて走らせるのが上手いんだよなあ」
なるほど、これ以上の率直な表現を私は知らない。
この2つの要素があるからこそモチベーションを保てる一因になるだろう。もちろん、仕事が社会に貢献している気持ちが何より高いのが前提ではあるのだが。
リクルートは性善説に基づくから成せる技なのかもしれない。

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