この記事は実質的に「北朝鮮の滅亡が近い その4」に相当します.
▼ 新体制の不気味さ
北朝鮮では,正式に金正雲を首領とする新体制が発足したようだ.以前の記事で何度も言及したが,金正日が元気だった頃は,強硬派と開明派(外交派)のバランスが保たれ,北朝鮮特有の緻密な瀬戸際交渉が機能していた.外交を担ったのは,金桂冠や姜錫柱といった外交官出身の文民である.
ところが,お家騒動による権力闘争で,北朝鮮の外交は麻痺してしまい,外交的目的を持たない強硬姿勢が目立つようになった.金正雲が後継者としてふさわしいことを示すための実績作りと国内引き締めが目的である.こうした軍部主導の権力闘争の効果もあり,正雲派が勝利し,北朝鮮は軍部主導の国家へと一新した.
問題は,この新体制の北朝鮮が,何を目的にどのような外交を展開するかまったく読めないことだ.これまでのように,金正日がバランスを取り,中国の後ろ盾を失わない賢明さは期待出来ない.
新体制が中国とどの程度の外交チャンネルを残しているか,なかなか表面に出ないため,判断し難いが,少なくとも中国共産党とのパイプは崩壊したと思われる. もともと中国は金正男を傀儡にしようと,北朝鮮に内政干渉していたので,金正雲体制とは思想的にも人脈的パイプも構築されていないと考えられる.
中国は,北朝鮮に対して中国式改革開放の導入を迫っていたことは以前の記事で紹介した.しかし,改革開放は体制崩壊の危険性が高まることから,北朝鮮は導入を渋っていたわけだ.今回の正雲新体制により,北朝鮮が改革開放を導入する確率は限りなく0%に近づいた.
それでは改革開放なしに,北朝鮮はどうやって「食べていく」のか?
実は,当の北朝鮮自身が答えを持ち合わせていない.お家騒動で精一杯であり,「次の一手」など考える余裕も無かったのであろう.
おそらく,新体制の強硬派の面々は,「強請りタカリ外交の強化」以外に採り得る選択肢を持っていないであろう.金日成時代への回帰である.つまり「援助してくれないとミサイルぶっ放すぞ!」「核実験するぞ!」というチンピラ的な恫喝である.
しかし,最近の北朝鮮は,援助目的以上に,核保有国家としてのメンツや体制維持の切り札として核開発しているようだ.若い世襲首領である金正雲に権威を持たせ,古参の幹部を黙らせるには,核保有国としての地位向上こそ最高の方法というわけだ.
【ニュース分析】米「北、核放棄しない」暫定結論へ
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=116929&servcode=500§code=500
先週行われた韓米首脳会談の事情に詳しい消息筋の言葉に基づいて伝える。
オバマ米政権は北朝鮮の核に関する「真実の瞬間」(Moment of truth)を迎えた。「北朝鮮が核をあきらめない」という真実だ。そのため朝米関係は対話の局面よりは制裁の局面に入りつつある。米艦艇が公海上で北朝鮮の船舶を追跡するのが良い事例だ。
李明博(イ・ミョンバク)大統領は、米ワシントンで北朝鮮政策の地殻変動を体験した。北朝鮮が核武装に踏み切る理由は第一、2012年までの達成を目指す強盛大国のポイントが核兵器だからだ。第二は、核兵器の開発を金日成(キム・イルソン)家門の業績と見なして、金正日(キム・ジョンイル)以降の金正雲体制を固めるためだ。
▼ 強請りタカリが失敗したらどうなる?
現在の北朝鮮が唯一持っている政策オプション「強請りタカリによる援助引き出し」が失敗した場合,他に採り得る手段は残されていない.そのため,強請りタカリ外交は決して失敗しないという神話に基づいた行動を展開している.
ミサイル→核実験→ミサイル→軍事演習→核実験・・・この繰り返しである.何らかの見返りや果実を手にするまで,北朝鮮は挑発的行為を止めるはずがない(それ以外に手が無いから).
この事態に,オバマ政権はついに腰を上げた.北朝鮮包囲網の構築である.まず,北朝鮮が喉から手が出るほどほしい見返りは,きっぱりと否定し,金融制裁を含めた締め上げを強化している.そして金正雲体制の根幹に関わる「核保有国」のお墨付きも一刀両断している.
外交的にも日米韓の結束を固め,最終的には李明博大統領の訪米時に,オバマ自らが「韓国へ攻撃したら米軍は実力で北朝鮮を叩き潰す」という強いメッセージを発した.基本的には日本に対しても同じスタンスである.
米韓首脳会談 「核の傘」、北朝鮮包囲網強化を確認(リンク)
【ワシントン=有元隆志】オバマ米大統領は16日、ホワイトハウスで韓国の李明博大統領と会談し、長距離弾道ミサイル発射や核実験など挑発行為を続ける北朝鮮に対する包囲網強化のため、米韓両国が結束して対応することで一致した。両首脳は「核の傘」をはじめとする米国の抑止力によって韓国を防衛する拡大抑止を明記した「米韓未来ビジョン」を発表した。
米韓の共同文書で、「核の傘」による韓国防衛が明記されたのは初めて。今後米韓の軍当局を中心に拡大抑止の具体化に向けた協議を進める見通し。また、両国の同盟関係を安全保障だけでなく、経済や社会など包括的な戦略的関係に発展させることになった。
朝鮮半島の緊張状態がかえって日米韓の結束を高め,米軍のプレゼンスを強化し,冷戦型の安保関係を復活させているわけである.まさに北朝鮮サマサマである.
▼ 無力さを曝け出した中国
北朝鮮包囲網は着々と進んでおり,城攻めに例えれば,既に外堀は完全に埋められた.現在,北朝鮮を延命させているのは中国の援助のみである.ロシアは北朝鮮に対して厳しい態度で臨んでいる.
北朝鮮ミサイル、国境沿いに飛行すれば撃墜する―ロシア
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0623&f=politics_0623_003.shtml
ロシアは冷戦時代から,アジアにおいて緊張が高まることを望んでいない.さらに冷戦後は,ロシアの北朝鮮に対する影響力は限定的である.一方で,中国にとって北朝鮮は非常に重要な存在である.中国は朝鮮半島が統一されることを望んでおらず,北朝鮮が自由主義陣営に対する防波堤の役割を担い続けることに最大の国益を見出している.
しかし,このまま北朝鮮の暴走を放置すると,朝鮮半島から日本,台湾にかけての核武装のドミノ現象が出現し,中国にとって絶対容認できない「核武装朝鮮半島」「核武装台湾」が実現してしまう.
このジレンマに対して,中国は有効な解決策を見出せないでいる.国連決議は渋々同意したが,公海上の臨検は拒否し,韓国の提唱した5カ国協議は即座に否定した.
相変わらずの北朝鮮援助を継続し,米国から制裁強化と厳格な国連決議要請も暖簾に腕押し状態である.いったい中国は何を考えているのか? 中国はこの問題をどう解決しようとしているのか?
中国は2回目核実験の直後は対北強硬姿勢を示しており,米国や日本などと同様に,制裁強化へ舵を切ったと見なされていた.ところが,国連決議と船舶の公海上の臨検問題が出てきた頃からトーンダウンが目立つようになった.
この一番大きな原因は「中国人民解放軍の意向」であると言われている.
中国総局長・伊藤正 対北強硬論後退に軍の影
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090612/chn0906120259000-n1.htm
外交筋によると、中国は当初、安保理の北朝鮮制裁に積極的で、関係各国に同調、早期合意の見通しだった。それには臨検問題も含まれていた。それがなぜ急に慎重論に転じたのか。
中国政府の制裁積極論には批判もあった。特に反米的な民族系サイトでは、北朝鮮の核保有を主権を守る当然の策とする主張や、中朝を離間させる米国の陰謀に乗るなとの意見も少なくない。しかしそれらはあくまで少数派だ。
事情に通じた中国筋によると、決定的要素は軍指導部の意見だったという。仮に臨検を実施する場合、北の反発で武力衝突に発展する危険性が排除できないからだ。梁光烈中国国防相が8日、日本財団の笹川陽平会長に、核問題は話し合いで解決すべきだと述べたのも、軍の意向の反映であろう。
梁国防相は中朝軍の関係は「親密」と述べたそうだが、朝鮮戦争以来の伝統的交流関係だけでなく、近年盛んな北朝鮮の鉱物資源開発に中国軍系企業が参入している事情も絡んでいるという。
北朝鮮制裁の実効を上げるには、中国の協力が欠かせない。それには中国が北との敵対関係を恐れず、物資援助を停止するなどの決意が必要だが、戦略的に失うものも多く、強硬論は後退したとみてよい。
あまり知られていないが,中国人民解放軍は,ビジネスに幅広く手を出し,鉱山利権などに積極的に介入している.特に北朝鮮は天然資源が豊富なため,中国軍系企業が北朝鮮に利権を保有しており,簡単に対北制裁へ動けない一因となっている.チベット問題の真相も,軍が利権の宝庫であるチベットを手放したくないことが関係している.
近年,目覚しい中国の経済発展に世界が酔いしれているが,中国の権力構造は複雑であり,人民解放軍が隠然と企業を経営したり,キックバックを取得して経済暴力団のやり方そっくりに影響力を行使していることは,あまり話題にならない.
さすがに党指導部も胡錦濤国家主席も,この人民解放軍利権には安易に口出しできない.今回の北朝鮮核実験における揺れ動く中国のスタンスは,中国国内の複雑な権力機構の問題を世界に示すことになったのだ.
いくら米国が「中国に影響力を行使するよう働きかける」と頑張っても,キッシンジャーを特使として送ろうとも,中国国内における人民解放軍の利権と共産党中央の微妙な関係を変えることはできない.ある意味,北朝鮮問題のカギは,中国の国内事情に依存しているのである.
田中宇氏は,ことさら米国の凋落とBRICの勃興を記事にしているが,このような中国の複雑な国内事情については,一切分析していない.「世界における中国の存在感が高まる」と宣伝されるのも結構であるが,中国が抱える深刻な事情を分析していないのは片手落ちである.
▼ 公海臨検は第2次朝鮮戦争の起爆装置
現在,禁輸対象の武器積載の疑いで米軍は北朝鮮船籍の貨物船を追跡している.米当局によると,直ちに貨物検査する予定は無く,同盟国や関係国と調整して判断するという.これは,検査に踏み切ると戦争に突入する可能性が高いからである.
貨物検査を巡っては,日本でも法整備が進められている.韓国は既に貨物検査への参加を表明しており,状況は「一触即発」へ向かって着々と進んでいる.詰め将棋のように,一手づつ「詰み」に向かって動いてる.
対する北朝鮮側には,追い詰められた場合の有効な対応策がほとんどない.考えられるのは @ 突如6カ国協議復帰を表明する A 甘んじて臨検を受ける(口先強硬のみ) B 暴発して戦端を開く. このいずれかであろう.
小生の予想では,AかBである.金正雲体制が始動したばかりで,何の成果も挙がっていないのに譲歩を意味する@のオプションは採りにくい.
万一,戦端が開かれた場合どうなるか.これは軍事上のシュミレーションになるので,今回は詳しく解析しないが,韓国も日本も多少の損害を受けることは間違いない.特に,国内の北朝鮮工作員の動向が気になるところだ.
しかし最終的に北朝鮮が滅亡することは明確である.朝鮮半島は混乱の極みとなり,多くの難民が中国や韓国に到来するであろう.そして,朝鮮半島が統一する可能性もある.
中国としては悪夢のようなシナリオだ.そこで米中間では,平壌と元山にラインを引いて,北朝鮮を再分割し,北側を中国管理,南側を韓国(米国)管理とする密約が存在すると噂されている.そうなると,38度線が平壌まで後退することとなり,ソウルの安全保障は飛躍的に向上する.中国にとっても,緩衝地帯を確保することができ,新生北朝鮮の首領として,保護している金正男を据えれば万全である.中国人民解放軍が北に持つ利権も維持されるし,傀儡の金正男が首領となれば,さらに利権が強化されるだろう.
詰め将棋は何時ごろ最終的な王手に至るのだろうか? そのときは刻々と近づいている.おそらく7月が最大のヤマ場であろう.

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