鳩山内閣は,海兵隊普天間飛行場の移転問題の先送りを決定した.私が鳩山内閣成立当初から危惧していた通り,鳩山は安全保障オンチであり,戦略的な思考が欠如しているお花畑総理である.そもそも普天間問題とは何なのか,これを客観的中立的に解説しているウェブサイトは少なく,田中宇を始めとする親中国プロパガンダ記事か,従来の親米的論調かの2極分化している.そこで,私なりに,なるべく公平な分析を試みた.
@ 米軍は,ほぼ10年に一度くらい大規模な全軍の改革を繰り返してきた
A 最近では2002年にラムズフェルドが中心となって世界規模で米軍の改革と再編プランを打ち出した
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E8%BB%8D%E5%86%8D%E7%B7%A8
B 今回の再編の鍵は,兵器のハイテク化,海外展開部隊の集約,紛争地への迅速な展開を可能にする機動力確保である
C このコンセプトの中には,在日米軍の再編も含まれる
D 在日米軍はグアムへの撤退,集約が目玉となった
E この方針により,日米安保のあり方が変質した
a)ソ連崩壊後に大規模な軍事力展開が不要となった
b)米軍はソ連の変わりにテロ戦争と中国を仮想敵国とした
c)日米安保は,新しい仮想的であるテロ組織と中国に対する米軍の行動を補完することを目指した
d)特に台湾海峡有事と朝鮮半島有事に対する即応力と抑止力を安保の柱の1つとした
F 台湾海峡と朝鮮半島の緊張は,年々高まっている
G 日本の国内に基地を存続させることで,抑止力維持を狙った
H 基地存続のために,経済的な負担を引き受けた
I 普天間の移設は,米軍側の都合だった
J 日本側の都合もスリあわせて辺野古に新基地を作ることにした
K 辺野古は,沖縄振興と土建行政利権も組み入れられた
L 基地の移転縮小と,日本の自衛力強化はセットであった
M そのためにも憲法論議(改正)は避けて通れない
N 鳩山は憲法改正をしないと明言した
O 日本が主体的に自衛力を強化することについて鳩山は何も表明していない
P そのくせに辺野古移設を反故にし,表面的な沖縄負担軽減を口にしている
Q そもそも台湾有事に日本のスタンスはどうなのか,北朝鮮の問題にどう取り組むのか鳩山は意思表示していない
R 中国の制海権確保下でシーレーン問題をどうするか意思表明せず逃げている
S 対等な日米関係を目指すなら,憲法問題と自国の軍事力確保が不可欠であるが,小沢を含めて,民主党全体がこの問題に沈黙している
普天間問題とは,突き詰めると「世界規模での米軍再編計画に対する日本の立場と関わりをどうするのか」という問題に行き着く.自民党政権時代は,吉田茂が確立した「米国に外交と軍事を外注する」という方法の延長を目指したわけだ.つまり,テロ戦争や台湾有事,朝鮮有事を想定した日米安保の再定義と深化である.冷戦時代のように,完全なおんぶに抱っこではなく,日本独自の海軍力や空軍力整備,役割分担による効率的,一体的な運用が企図された.それが,インド洋への海自による補給であり,サマワへの陸自の駐屯であり,バグダッドへの空自の輸送業務なのだ.安倍内閣では憲法改正への手続きを整備した.
ここから各論として,普天間を考える.普天間は海兵隊のヘリ部隊だが,米軍再編の一環として,もはや普天間にいる理由はなくなった.ラムズフェルドが「こんなところで事故が起こらない方がおかしい」と基地を視察したときに言ったそうだが,これは基地移転のために付け足した理屈である.
本当は,すべてグアムへ移転するようだったが,そうなると,対中国,対北朝鮮,そしてシーレーン防衛の観点からも具合が悪くなる.そこで,日本は名護市の海岸の海兵隊キャンプシュワブにV字型滑走路を建設して,こちらに移設しようとした.日本としては,名護市に建設利権と莫大なカネを落として,地元の経済振興を兼ねて基地存続を図ったのである.米側にとっても,立派な基地を提供してくれるのだから,海兵隊がそこに駐屯するのは悪い話ではない.そして最大の目的は,台湾有事なり朝鮮有事のときに,名護の新基地が,有力な拠点として活躍することが期待できることと,そこに基地があって,海兵隊が駐屯していること自体が抑止力として機能することである.また,日本側が移設の経費も負担するのだから,カネのない米政府と米軍にとっては好都合だ.
そう考えると,鳩山なり民主党が辺野古案を潰したい理由は,自民党政権の延長である防衛利権を絡めた基地移設を御破算にして,あわよくば利権を横取りしたい連中がいること.米国がグアム移転なり辺野古移設で得られるカネを手放したくないないことを不快に思っていること,対中国関係などから,海兵隊の沖縄駐留を避けたいことなどが考えられよう.
そう考えると,鳩山が辺野古案見直しを表面したのは正論である.今回,移設先決定先送りをしたが,これはなかなか高等な決断だ.なぜなら,移設先送り→普天間そのまま→実は困るのは米軍→勝手にグアムへ出て行く?→日本のカネの負担が少なくてラッキー! このような道筋になることを狙ったのであろう.
ここで米側がどう動くかが見所である.もともと米軍は海兵隊をグアムへ移設させたかったのを,日本がカネを払って引き止めたわけだが,その合意が破綻したわけだ.おとなしくグアムへ引き上げるか,そのまま我慢比べで普天間に居座り続けるか,見ものである.
しかしながら・・・
ミクロ的な視点では,鳩山の選択は正しいのだが,マクロ的な視点,もっと大きな戦略視点では,鳩山は落第である. 前述のように,米軍のプレゼンスを縮小するにあたって,日本が主体的にどこまで軍備を整備するのか,憲法問題をクリアするのか,そのコスト,即ち防衛費の増額の腹を括るのかなどの緻密な考えが欠落している.
「今までどおり,防衛費にカネをかけず,憲法も曖昧のままで,何かあったら米軍に頼って,日本は何とかなるだろう」「でも対等な日米関係を求めたい」という極めてご都合主義的で楽観的な発想である.こんな人間に日本の安全保障は任せられない.
鳩山に姑息な安保観を入れ知恵したのは,日本総合研究所の寺島実郎と言われている.寺島は,かなり以前から日米安保空洞化を指摘し,中国重視を表明してきた.寺島の発想は,鳩山に見られるようにミクロ視点に偏っており,日本の主体的軍備増強・・・吉田ドクトリンからの離脱と,それに必要な経済的負担や憲法改正の必要性については御座なりだった.
あるとき,日曜朝の情報番組で塩爺こと塩川正十郎と寺島が一緒に出演し,寺島の論文の致命的欠点とマクロ的な戦略性の無さを塩爺が指摘し,寺島が答えに窮する場面があった.塩爺は,戦後日本の経済性重視の論理からの軽武装,憲法9条を逆手に取った対応(日本は憲法の制約で軍備できない,だから米国は責任を持って,日本の安全保障を担ってくれというやり方)の根本的転換の必要性が寺島論文で欠落していることを喝破したのだ.そのため,それ以降のテレビにおける寺島の論調は変化し,「普天間を契機に北東アジアの安保を考え直し,日米安保の再定義を行うべきだ」と軌道修正している.
繰り返しになるが,戦後の吉田ドクトリンの延長にある日本の安全保障について,その根本を問い直し,果たして日本は憲法を改正し,普通の国と同様に軍隊を整備して,日米対等を目指すのか,それとも米国の軍事的プレゼンスに依存した軽軍備路線を維持するのか,そのあたりの戦略をはっきりさせてからミクロの基地問題を論ずべきだったのだ.寺島も鳩山も,この順番が逆になったのだ.それが普天間問題の本質であると私は思う.
もう一人,批判されるべき人物がいる.それは田中宇だ(敬称略).田中は本来,ネット上のニュースを分析して,その裏読みを生業としていたはずだ.ときには,歴史を遡って,物事の背面に潜む本質をあぶりだしてきた.しかし,今回の沖縄問題,普天間問題については,視野狭窄で矮小化された分析を垂れ流し,感情論ばかりである.歴史を遡って,本質を分析するという,カネをとって記事を配信するプロの仕事とはかけ離れている.例えば,オバマを応援している小浜市に普天間飛行場を移設しろと田中は主張していたが,これなど読むに値しないただの感情論,暴論である.
そこで思うのだが、たとえば本州の日本海側で熱烈に親米・親オバマを貫いている福井県小浜市に、海兵隊の訓練基地を移転すると良いのではないか。若狭湾に面する小浜周辺の海岸は入り組んでおり、海兵隊の上陸訓練に適している。沖縄よりずっと海水温や気温が低いので、北朝鮮での実戦環境に近い。小浜なら、対岸が北朝鮮で近いので、有事になったら海兵隊は訓練を実戦に切り替え、すぐ北朝鮮を急襲できる。
沖縄の人々は海兵隊に出ていってほしいが、対照的に小浜市の人々はオバマ大統領を熱烈に応援しており、オバマに小浜を訪問してもらいたい。小浜市がオバマ訪問を条件に海兵隊の訓練基地になると名乗り出れば、念願のオバマの小浜訪問が実現する。幸いにも、橋下徹・大阪府知事が「関西空港を海兵隊基地にしてもよい」と言ったので、関空と小浜が組むことで、沖縄の海兵隊基地をそっくり代替できる(関空から小浜までは100キロと比較的近い)。嘉手納の空軍機能も関空か神戸空港に移せば、なお機動的だ。経済地盤沈下の関西には、伊丹の大阪空港があれば十分だろう
http://www.tanakanews.com/091208japan.htm
私は,この説に以下のように反論する.
もし日本海側に基地が必要なら,対馬こそ最適だ.なぜなら,対馬と釜山は目と鼻の先であり,かつて朝鮮戦争で,北朝鮮軍が釜山まで迫ったことからも,釜山は韓国の最後の防衛線だからだ.そこで対馬に海兵隊基地があれば,第二次朝鮮戦争のときに,迅速に防衛ラインに投入できるし,対馬海峡は海上防衛上も重要だ.韓国の李明博大統領にとっても,北朝鮮と対峙する上で,対馬の海兵隊は心強く,きっと諸手を挙げて歓迎してくれるだろう.歴史的にも,朝鮮の海岸を荒らしまわった倭寇は,対馬を本拠地としていたので,海兵隊が駐留すれば,朝鮮の人たちの心理的安心感にも繋がるだろう.
話を普天間に戻す.
田中は沖縄へ飛んで「沖縄の人の総意は米軍基地を減らしてほしいと思っている」などと記事で主張しているが,これは単に田中が基地反対派の沖縄県民にしか会っていないだけの話で,基地利権に一枚かんだり,基地を必要悪と考えたり,中には沖縄の地勢的な重要性から基地が必要という県民のことは無視している.沖縄の基地は,政府が地権者から土地を借り上げて,米軍に提供する形をとっている.そのため,地権者には定期的に地代が支払われている.他にも,雇用や公共事業などの基地に関係した経済効果は無視できない.これまでの政府のやり方は,基地と地域経済の振興をセットにしてきた.最近は基地を無くした事によるデメリットについて論じることはタブーになりつつある.勇気のあるジャーナリストなら,基地撤退後の経済の落ち込みまで取材すべきではないのか.
次に中国の軍拡と北朝鮮問題についての根拠なき楽観論である.田中を始め,親中派の人々は,意図的に中国の脅威を過小評価している.彼らの論拠は「台湾も親中的な国民党政権であり、米国も中国との協調を重視している」だから沖縄の米軍基地は不要だというものだ.これは全くのお笑い草だ.おそらく,そんな甘い楽観論が通用しないことは,当の田中宇自身が一番よく知っているはずだ.なぜなら,プロパガンダとして,意図的に中国脅威論を過小評価しているからだ(もし台湾の親中政権や日中軍事交流で本当に中国の脅威は無くなったと本気で考えているなら,救いようがない分析者だ)
他にも「日本が中国と、軍どうしの合同演習や防衛交流を強めるほど、日本にとって中国は脅威ではなくなる」との主張も,インチキ極まりない.事実は逆で,中国の軍事力が増強し,無視できないから,不測の事態を防ぐために防衛交流を推進しているのであって,原因と結果を意図的に逆にして主張している.
そんなに中国が脅威ではない,在沖米軍が不要だと主張するなら,親中の人々は,尖閣諸島の魚釣島に上陸して,「ここは日本領土だから中国も台湾も手を引け」とメディアを呼んでパーフォーマンスしたらどうだろうか.きっと理解があり,脅威ではない中国がやさしく対応してくれるだろう.あるいは,東シナ海のガス油田で「資源盗掘反対」と小船で横断幕を掲示してみてはどうか.
田中は,外務省など日本の官僚機構が、権力の源泉である対米従属を維持するために、マスコミを通じて反中国的な世論を喚起していると主張しているが,逆に現在の親中派の人々は,意図的に中国の脅威を過小評価することで,中国に気に入られようとしている.要するに同じ穴の狢だ.習近平の来日と天皇陛下との面会を巡る一件を観察しても,媚中派の行動パターンは手に取るようにわかる.あまりに露骨なのでわかりやすい.
ここまで,私なりに,親中および親米に偏らずに,普天間問題を分析してみた.小沢の訪中,習近平の訪日,普天間問題の先送りは,一体として考えるべきであり,現在の民主党は非常に危ういやり方をしている.
次回は民主党について論考する

56