北京五輪もたけなわですが、田中宇氏が最新メルマガで中国側に立脚した視点の記事を配信されたので、小生は反対側から考察したいと思います.
http://tanakanews.com/080811china.htm
▼
開会式と首脳の思惑
北京五輪の開会式には、ブッシュ大統領、福田首相、プーチン首相ら、過去最大級の50カ国以上の指導者が参列した。アメリカの大統領が米国外で開かれたオリンピックの開会式に出席したのは、今回が初めてである。ブッシュは五輪出席によって、北京五輪を機に中国が国際社会から大国として認知される状況作りに協力している
これは我田引水的な解釈です.中国が大国として認知されていることは是ですが、物事には常に表と裏があり、五輪前にチベット暴動が誘発され、主として欧米諸国でデモや批判活動が活発化し、中国国内のテロ、観光客通り魔事件、開発の裏の人民困窮、株価の暴落などが殊更に強調されていることを忘れてはいけません.
これは中国に対する隠然とした圧力であり、外交的メッセージです.チベット問題と聖火リレーの騒動は、「いつでも中国国内を混乱に陥れ、中国を分裂化するだけの実力が俺たちにはあるんだぞ! 調子に乗るなよ」という警告を中国指導者に与えるには十分すぎるほどの効果を持っています.その外交目的が達せられたわけですから、表面的には開会式に出席して微笑み外交を演じることは、むしろ理にかなった行為です.
その結果が、地対空ミサイルと人民解放軍に取り囲まれた鳥の巣における開会式なのです.もし読者の方が来賓だとしたら、地対空ミサイルを持ち出さざるを得ない会場をどう思うでしょうか?
国家の威信を示す予定だったのが、かえって自国の苦しい事情を世界にさらけ出す結果となったのです.もし小生が来賓として胡錦濤に迎えられたら、次のように挨拶したでしょう
「胡錦濤さん、チベット人の血に塗られた聖火リレー、ウイグル人テロリストのテロ声明祝辞、かつてない大暴落の上海株価御祝儀、地対空ミサイルと大気汚染による来賓の出迎えは過去に例を見ない最高の五輪開会式です.ほんまに御苦労さんどすな〜」
▼
五輪ために譲歩を重ねる中国
日本の自衛隊機を救援物資運搬の口実で飛ばすことで、日中間の対立を緩和しようとしたのと同様、中国政府は大地震を、周辺諸勢力との政治緊張緩和に使おうとしたことがうかがえる
これは事実ですが、やはり中国に都合のよい筆致です.
現実は「北京五輪成功のために周辺に譲歩せざるを得ない中国」と表現する方がしっくりきます.
その好例が東シナ海ガス油田問題です.結局、五輪直前に出資比率による利益配分で落ち着きましたが、実情は中国の大幅譲歩、日本有利の妥結です.中国の国内事情を配慮して日本では控えめなトーンで報道されていますが、間違いなく日本外交の勝利です.中国が建設した油井は、日中中間線のうち、日本が主張する中間線の外側(中国寄り)に建設されており、これでは事実上、中国が日本の中間線主張を認めた行動になります.日本が試掘を求めたのは、日本が主張する中間線をまたぐ海域であり、議論は終始、日本側の主張する中間線でした.つまり「既成事実化」されたわけです.現在の油井はすべて中国側に建設されており、そのような油井も後から日本が出資して権益を得られるのですから、実においしい話です.
ガス油田以外にも、四川地震救援を契機とする中国の日本礼賛プロパガンダ、軍人トップ交流、毒入りギョーザ事件での中国国内説の受け入れ、東京五輪実現へ協力を約束など、中国の対日配慮が伺えます.
▼
テロ支援国家解除延期で孤立する北朝鮮
米ブッシュ政権は最近、北朝鮮を「テロ支援国家リスト」から外さない姿勢を表明し始めたが、これも、北朝鮮問題・朝鮮半島和平問題を中国に任せ、米自身は大きな関与をしないという戦略の裏返しであると考えられる.
これは「こじつけ」とも取れる解説と思われます.Bush政権がテロ支援国家指定解除に向けて全速力で突っ走っていたところに急ブレーキがかかったわけですから、これを「中国に任せるため」と理由づけするのは無理があります.中国に任せるならテロ指定解除した方がはるかに有効です.
実は今回の解除延期は伏線があります.
ブッシュ政権と身内の共和党に「亀裂」北核申告で
2008.6.28
【ワシントン=有元隆志】ブッシュ米大統領が北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除に踏み切ったことをめぐり、「身内」である共和党から反対意見が相次ぎ亀裂が深まっている。多数派の民主党から支持を受けるという変則的な形となっているが、民主党側も検証体制の確立を条件としてつけており、今後の北朝鮮の対応によっては議会からの政権批判が強まる可能性もある。
下院情報委員会の共和党筆頭理事ホクストラ議員は、26日に秘密公聴会で政権側から北朝鮮の核計画の申告について説明を受けた後、記者団に対し「ひどい決定だ」と政権を激しく批判。日本の反対を振り切って解除したことについても「日本との関係は、北朝鮮と欠陥のある合意に沿って関係を構築しようとするよりはるかに重要だ」と政権の対応に疑問を呈した。
同議員は、解除が発効する8月11日までの間に申告内容を詳しく分析し、反対していく方針を示した。
共和党からはこのほか「まったく賛成できない」(ブラウンバック上院議員)「深く失望した」(ロスレイティネン下院外交委員会共和党筆頭理事)との声明も相次いだ。党内から反発が強まる背景には、11月の選挙を控え、支持率が低迷しているブッシュ政権と距離を置きたいとのねらいもあるとみられる。
共和党の大統領候補に内定したマケイン上院議員も反対はしなかったが、「申告内容を検証できなかったり、申告の仕組みに満足できなかったりしたときは、北朝鮮への制裁緩和を支持しない」と明言した。
マケイン氏は「韓国や日本の懸念を考慮に入れていくことを確認したい」とも述べた。マケイン氏を支持する民主党系のリーバーマン上院議員もウラン濃縮や核拡散問題とともに「韓国や日本の拉致被害者の解決のために努力しなければならない」と指摘した。
民主党側は申告について、「核放棄に向けた1歩」(バイデン上院外交委員長)と一定の評価をしている。民主党は北朝鮮との直接対話に転換したブッシュ政権の対北朝鮮政策を基本的に支持している。
ただ、「申告内容が正確か検証が必要」(バイデン氏)「北朝鮮の行動を注意深く監視する」(バーマン下院外交委員長)と、条件もついている。民主党大統領候補に内定したオバマ上院議員も「北朝鮮が義務を果たさなければ、われわれは早急に免除した制裁を再び科し、新しい規制を検討すべきだ」と主張した。(産経新聞より引用)
ライス・ヒルによる暴走は、政権末期の実績作りが主眼ですから、身内の共和党は首尾一貫して指定解除に反対でした.融和派は民主党でしたので、北朝鮮政策については、Bush政権は対立する民主党とタッグを組む不思議なねじれ現象を見せていたわけです.
しかし、次期大統領候補のマケイン氏はもちろん、オバマ氏までが、拙速な指定解除に反対したわけです.これでは指定解除しても、次期政権はBush政権の「実績」を踏襲するどころか、新たな制裁を科すなど、政策をひっくり返す行動に出ることになり、「実績」は「世紀の失敗」になってしまいます.
さらに直前のBush大統領の訪韓が決定的でした.李政権は北朝鮮との対決姿勢を鮮明にし、米韓首脳会談では、北朝鮮の人権問題が話題となりました.首脳会談後の李政権は、デモを強力に取締り、左派(北朝鮮)系の活動家を検挙し、前政権寄りのテレビ局のトップを解任する「豹変」ぶりを示しました.
つまり韓国の李政権が「腹をくくった」のです.こうなるとBush政権も暴走するわけにはいかなくなります.北朝鮮は再び孤立してしまいました.
瀋陽での日朝協議が合意しましたが、これは北朝鮮側の孤立感による焦りからです(このあたりの分析は長くなるのるので別の機会の譲る)
▼
祭りの後の不気味な兆候
開幕前の数々の事件、開幕中に毎日のように起こるテロもさることながら、宴のあとの惨劇が大いに懸念される事態です.
まず筆頭は経済です.上海株は大暴落しました.
上海株、連日の年初来安値 五輪開会日から10%超下落
【上海13日共同】上海株式市場の総合指数は13日、前日比0・44%安の2446・30で取引を終えた。北京五輪が開会した8日から4営業日続けて、年初来安値を更新。上海株はこの間に10%超も下落した。
世界経済の先行き不透明感に加え、北京五輪後に中国経済が減速するという懸念が強まっていることが主因。景気対策として金融引き締め政策が緩和されるという期待も一部であったが、最近はインフレ懸念などから金融引き締めは長引くという観測が強まっていることも響いているようだ。
13日の上海市場は、前日の米株安の影響もあり、取引開始から幅広い銘柄が売られ、一時は2300台に急落した。その後は、割安感などから買い戻しの動きも出て、下げ幅を縮小した。
上海株は2007年10月に終値で最高値の6092・06をつけた後、じりじりと下落。13日の株価は06年12月の水準で、ピーク時より約6割も下落した計算。2008/08/13 【共同通信より引用】
現在の上海株はピークの60%です.日本のバブル期の日経ピークが3万円くらいですから、18000円レベルにわずか1年半で暴落したことになります.数年前から中国バブルはいつ崩壊するか日本国内でも論争になっていました.
A北京五輪まで、B上海万博まで、C崩壊せずに成長し続ける
これら3つの説が出されていたわけですが、結局Aの説が正解となったようです.これまでの世界経済の好調は、中国を代表とする新興国の爆発的な成長が原動力でしたので、この中国バブル崩壊は世界経済にとって深刻な影響をもたらします.特に懸念されるのが資源バブルです.鉄鉱石、石炭、原油、食糧などの高騰は、中国の需要が一部影響しており、五輪後に大暴落する可能性があります.その意味でも前記事「9月危機説を考える」にて詳述したように、この9月がキーポイントとなります.
経済の次が中国の政情不安です
良くも悪くも五輪は国民の団結を誘い、1つの目標に向かって求心力を発揮します.ところが、祭りが終わった後に、老いも若きも、男も女も、保守も革新も、北京も上海も、富裕層も貧困層も、突き付けれた現実に愕然とします.
日本でも長野五輪までは県民も県庁知事も一丸となって努力しましたが、宴のあとに膨大な借金が残っていることに愕然とし、結局知事選挙で田中康夫が当選する大波乱(革命)が起こり、公共事業の削減と県政の停滞、財務体質の悪化に苦しむことになったのです.現在の中国は長野県とは比べ物にならない矛盾を抱えています.この危機を乗り越えることができるかが本年最大の国際社会の関心事です.
▼
最後に
小生は一貫して親中派です.それは、21世紀の日本にとって、中国は欠くことのできないパートナーだからです.中国の安定的、持続的な発展が日本に多大な恩恵を与えてくれるのは間違いありません.しかし、そのためには片一方に偏った見方を改め、なるべく客観的に中国を観察する必要があります.日本国内の論評を観察していると、中国におもねった解説か反中解説かの二極化傾向が見受けられ、日本の長期的な国益を見据えた客観的な解説が少ないように思われます.その分、小生はなるべく客観的に解説するように心がけるつもりです