▼ 暗闘つづく中国の権力闘争
9月15日から中国の4中全会において,習近平国家副主席が中央軍事委員会の副主席に就任するかどうかが焦点であった.軍事委入りすれば2012年秋に「ポスト胡錦濤」として党総書記に就くことが事実上確定するからであり,ポスト胡錦濤を巡る李克強との権力闘争にも決着がつくと予想された.
ところが・・・
習近平氏 軍事委副主席に選出されず 4中総会
【北京=野口東秀、矢板明夫】中国共産党の第17期中央委員会第4回総会(4中総会)は18日、党の執政能力強化の指導文献「新情勢下における党組織の強化・改善に関する決定」を採択、閉幕した。発表されたコミュニケは、党内、社会の安定重視の姿勢で貫かれている。焦点の腐敗防止に向けた幹部の「財産申告制度」には言及していない。党序列第6位、習近平国家副主席(56)は、党中央軍事委員会副主席に選出されなかった。
総会の主要議題は「共産党の執政能力の向上」。「腐敗防止」と「党内民主」を軸に討論された。
腐敗防止についてコミュニケは「権力行使への監督機能を健全化し、腐敗防止の新しい制度づくりを推進する」とした。世論の支持を受けている財産申告制度制度をめぐっては、温家宝首相が今年初め、導入に強い意欲を示していた。しかし、既得権益を守ろうとする勢力の反発で具体化できなかったとみられる。
「党内民主」については、全国の共産党員数が約7600万人と肥大化し、「末端党員の声が党中央に届きにくい」との批判を受け、直接選挙によって登用される幹部の数を増やすことなどが討議された。コミュニケには「党代表大会制度と党内の選挙制度を改善する」との方針が盛り込まれた。 社会の安定維持と少数民族対策では「少数民族地域の経済と社会の発展を促進し、民族分裂活動と断固して戦う」とした。(産経MSN)
やはり北京閥,上海閥,太子党,団派を2分する権力闘争に決着はつかなかった.両者の勢力は拮抗していると考えた方が良いだろう.ウイグルの一連の事件も,この権力闘争の影響を受けている.日本は選挙によって完全に権力機構を入れ替えることが可能であるが,中国のような一党独裁では,水面下の駆け引きと闘争こそが「政権交代」の原動力となる.そして,その闘争は,しばしば国情の不安と人民の巻き添えを生み出す.
「ポスト胡」不確定要素増す−中国、人事委見送りで
【香港時事】18日閉幕した中国共産党の第17期中央委員会第4回総会(4中総会)で習近平国家副主席の党中央軍事委員会副主席兼任が発表されなかったことについて、19日付の香港各紙は胡錦濤国家主席(党総書記)の後継者問題に不確定要素が増したと伝えた。
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙は「依然として習副主席は後継者の最有力候補だ」としながらも、軍事委の人事発表がなかったのは「この問題に関して中央指導部内でまだコンセンサスができていないことを示している」とする北京の識者のコメントを紹介した。
また、リンゴ日報によると、北京の複数の専門家は「習副主席を後継者にする段取りが党内で阻止された」「特定の人が後継者を指名するやり方に異論が出ている。一種の民主主義の表れだ」などと語った。
香港経済日報も「習副主席は今後、党内で(次期最高指導者の座を目指す)競争激化に直面するだろう」と指摘。胡主席は指導者選出について「党内民主主義」を拡大するつもりで、かつての最高実力者、トウ小平氏(故人)が胡氏を江沢民氏(前国家主席・総書記)の後継者に指名したようなことはしないとの見方を示した。
胡氏は1992年、「2階級特進」の党内人事で政治局常務委入り。国家副主席時代の99年から軍事委副主席を兼ね、2002年に総書記、03年に国家主席となった。
12年に就任する次期総書記の人選をめぐっては、胡主席は自分と同じ共産主義青年団(共青団)出身で若手の出世頭だった李克強氏(現副首相)を推していたが、第17回党大会(07年)の指導部人事で江氏らの圧力を受け、習氏を若手ナンバーワンの地位に引き上げることを強いられたといわれている。
親愛なる中国人民よ,この遅れた政治システムの改変なくして,中国の永続的な発展はないのだ.「独裁システムは国の発展に都合がよい」などという田中宇氏的なプロパガンダに与せず,人民の力で民主化を達成してほしいものだ.
▼ 正雲に立ち込める暗雲
私は前記事「北韓その後」において,脳卒中からある程度回復した金正日が,再び権力を掌握し,正雲を担ぎあげた軍部主導の強硬路線が修正され,かつて見られた瀬戸際外交への回帰が確認されたことを紹介した.
「北韓その後」
http://green.ap.teacup.com/kyusiro/524.html
この私の見解を裏付ける報道が相次いでいる.特に驚いたのが,オバマ大統領が「クリントンから聞いた話では,金正日は健康で,政権を掌握している」と語ったことだ.
オバマ米大統領:金正日総書記は「かなり健康」、国家を掌握−CNN
9月21日(ブルームバーグ):オバマ米大統領は20日放映されたCNNテレビとのインタビューで、北朝鮮の金正日総書記(67)が「かなり健康な状態」であり、国家を掌握していると語った。総書記は昨年、発作に襲われたとの観測が出ていた。
オバマ大統領は「しばらくの間、人々は彼が死にひんしていると考えていたが、彼は回復した」と述べ、現在では後継問題をそれほど懸念していないようだと付け加えた。大統領は、金正日総書記の健康状態の評価について、北朝鮮を先月訪問して総書記と会談したクリントン元大統領からもたらされた情報だと説明した。
この発言は本音過ぎて笑えてしまう.要するに,金正日は脳卒中によって瀕死だったが,今はかなり回復して国家を掌握していることを公に認めたのである.しかもご丁寧に,後継者問題が一時休止となったことまで付け加えている.やはり北朝鮮の変化は,金正日復活の賜物である.「正雲騒動」真っ盛りの5月から6月は,6カ国協議に断固出席しないと明言していた北朝鮮が,金正日の口から復帰を示唆したことは,まさに北の権力構造と外交政策が元に戻ったことを示している.
もうひとつ見逃せないのは,習近平の処遇である.4中総会において習近平氏が軍事委副主席に選出されなかったことは,すでに述べた.もともと北朝鮮の軍部強硬派と正雲は中国の上海閥をバックにつけていたので,習の権力掌握が停滞していることは,彼らにとって誤算だったかもしれない.逆に胡錦濤にとっては,懸案だった習の軍権掌握を阻止し,本腰を据えて北朝鮮に圧力を加えられる環境が整ったわけだ.この秋に,相次いで中国の特使が金正日と面会しているのは,このような事情が存在する.
北朝鮮、後継者論議を中断か? 韓国紙報道
2009.9.12 16:10
【ソウル=水沼啓子】12日付の韓国紙、東亜日報は、北朝鮮の報道ぶりを分析し、今年7月以降、金正日総書記を中心に再び団結することを住民に強要するための宣伝、扇動に乗り出したと報じた。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞(7月6日付)が「偉大な金正日同志を首班とする革命の首脳部を命で死守しよう」など金正日体制固守をうたった2つのスローガンを合成した写真を掲載するなどしたためだ。
また、北朝鮮のナンバー2、金永南最高人民会議常任委員長が10日、金総書記の後継者問題について「現時点では論議されていない」と明らかにしたことから、北朝鮮内部で後継者論議が中断されたのかをめぐり、韓国内ではさまざまな観測が出ている。
東亜日報は、海外メディアの報道を引用しながら、7月以降、金総書記の三男、正雲(ジョンウン)氏への継承問題が北朝鮮内部でほとんど言及されていないと伝えた。
さらに韓国の北朝鮮情報のインターネット新聞「デイリーNK」が北朝鮮内部の消息筋の話として伝えたところによると、7月初めまで盛んだった「白頭の青年隊長、金正雲将軍が、社会主義強盛大国の建設を先頭で指揮している」という宣伝が今は完全になくなり、学校では行進や全校集会の際、正雲氏を称賛する歌「歩み」を歌わないように指示が下されたという。
後継議論の“中断説”について、東亜日報は「金総書記が当分後継者問題を公に議論するなと指示を与えたのではないか。三男に対する“コネ作り”がひどくなり、内部の疎通と政策決定での混乱が表面化したことが直接的な原因の可能性が高い」「3代世襲に対する国内外の非難を避けようというのが最大の目的」などとする専門家の分析を掲載している。
これで立場が弱くなったのが正雲である.胡錦濤から目をつけられてしまった.5月の核実験やミサイル発射で中国の体面を大いに傷つけた正雲に対して,胡錦濤がどのようなお仕置きをするかが見ものである.
かつて,織田信長は,武田への内通を画策していた徳川家康の嫡男である信康を排除するように家康に迫ったと伝えられている(異説も存在する).胡錦濤が「中国および北京閥の言うことをきかない正雲」に対して,どんな対応を取るか見ものである.切腹を命じることはないにしても,中国へ人質として,身柄提供を求めるかもしれない.
真偽の程は不明だが,NHKは金親子の軋轢について報道している.
NHK “金正日, 軍の人事で息子正雲を厳しく叱責”
“健康回復に加え後継問題に影響が出る可能性も”
最近、北朝鮮の金正日と次期後継者として有力視されている三男の金正雲の間にあつれきがあったことが明らかになったと、NHK放送のインターネット版が23日に報道した。
NHKは複数の匿名の韓国消息筋の言葉を引用して、「キム・ジョンウン氏がことし7月ごろ、父親に無断で軍部の人事に介入し、キム総書記の怒りを買った」と伝えた。
NHKはさらに、「キム総書記は、ジョンウン氏をたたえる動きを中断するよう指示し、これを受けて後継者問題にかかわる宣伝活動が大幅に減ったという」と報じた。
放送は金正日と金正雲の不和は「キム総書記の健康がある程度回復したことに加え、ジョンウン氏とのあつれきが背景にあった」という消息筋の証言も伝えている。
デイリーNKは今月7日に、金正雲という名前が宣伝スローガンから突然消えて、北朝鮮内部で「金正雲が幹部の事業に手を出して側近政治を試みたが、金正日の怒りを買った」といううわさが拡散していると初めて報道した。
だがこうした主張は、あくまでも幹部の間で広まっているうわさに過ぎないという指摘が出ている。
現地消息筋は5月から「150日戦闘」が始まり、金正雲の偉大性に関する宣伝を大々的に展開して、核実験とミサイル発射まで金正雲の功績だと称えて、有線ラジオチャンネルである「第3放送」が「歩み」という歌を集中的に放送していたが、このような宣伝が8月に入り急減したと伝えていた。
アメリカのワシントンポストも11日にデイリーNKの記事を引用して、北朝鮮政府が7月以後、後継者問題に一切言及しないように指示したと報道していた。(デイリーNK)
はっきり言って,残された時間は短い.金正日が元気なうちに,あるいは胡錦濤が上海閥を押さえつけているうちに,北朝鮮に強大な圧力をかけて,今後の不安定要因を一掃しておく必要がある.この点においては,胡錦濤に大いに頑張ってほしい.
▼ 円高政策は間違いない
私は前記事において,民主党政権の目玉は円高政策による,内需型への転換であると主張した.この私の主張を裏付ける記事が相次いで配信されている.特に9月25日配信の田中宇氏の記事が参考になる(前半の隠れ多極主義の部分は賛同できないが).
http://www.tanakanews.com/090925japan.htm
▼円高容認で対米優位を得る日本
経済面では、民主党政権は円高ドル安を容認し、従来の日本の「円安ドル高が日本には良いんだ」という善悪観から脱却していきそうだ。これを書いている間にも、藤井財務相が「円安政策はとらない」と米国で宣言した。民主党は、大蔵省財務官出身の榊原英資を経済顧問としているが、榊原は昨年、ドルが崩壊していく過程を見越したらしく「安い円が望ましい時代は終わった。資源高騰の中、今後は強い円が日本の国益に合う」と主張し、その後は「強い円は日本の国益」という本も出している。('Mr. Yen' sees U.S. policy makers as behind the curve)
そもそも、日本の輸出産業の利益のみに焦点を当てて「日本には円安ドル高が望ましい」と考える従来の教科書的な考え方は、政治的に見ると、日独がドルを買い支えるという、1972年のニクソンショックから90年代の金融グローバリゼーションによる米英復活までの英米中心主義の戦略に沿ったものであり、日本の対米従属戦略の一環である。米英が金融財政面で崩壊感を強める今の局面で、日本が米英と共倒れになるのは馬鹿げており、円高ドル安を是認する榊原や民主党の考え方はまっとうだ。民主党政権は、アジア開発銀行やASEAN+3が推進してきた「アジア共通通貨」(アジア通貨統合)の構想を支持しているが、これもドル崩壊への備えと考えれば当然の方針転換である。
今のタイミングでの円高容認への日本の方針転換は、米国にとって非常に危険である。円安ドル高を信奉していた従来の日本は、円高ドル安傾向になると、当局が公然とあるいは秘密裏に円売りドル買い方向の介入や仕掛け作りをしていたが、今後の日本はドル買いをしなくなり、米国債の買い増しもしなくなっていく可能性がある。これは、ドルと米国債が急落する可能性を強める。日本と中国が協調してドルと米国債を見放したら、米国は破綻してしまう(日中は巨額のドルや米国債を持っているので、簡単には動けないが)。(US May Face 'Armageddon' If China, Japan Don't Buy Debt)
日本人の多くは従来「米国に嫌われたら日本はひとたまりもない」と恐れてきた。しかし今、日本人が「日米関係を変える」とは自覚せずもっと漠然とした危機意識から8月末にとった投票行動によって民主党政権に転換して考えてみると、日本は対米従属一本槍の国是を静かに離れることによって、実は意外にも米国に対して強い立場を持てる事態となっている。似たような米国との関係性の転換は、ここ数年、中国やアラブ諸国も経験しており、それが世界体制の多極化につながっている。今後、時間がたつうちに、日本人は世界において自分たちが置かれている新たな立場の意味に気づき、自信を持つようになるかもしれない。この自信や覚醒(日本人だけではなく、欧米より劣位にあると思い込んでいた世界中の諸民族の自信と覚醒)こそ、米国の隠れ多極主義者が待ち望んでいるものだと私は考える。ブレジンスキーは、日本の転換を見て喜んでいるだろう。(世界的な政治覚醒を扇るアメリカ)
円高政策における私の感想は「ついに来るべき時が来たか」というものだ.これから日本人は強い通貨を軸に,世界中からモノを買って消費するスタイルになるであろう.過去数十年間の米国と同様である.元来,日本人は勤勉実直で,浪費を悪とみなし,貯蓄に励む国民性であった.しかし,これからはバブル期のように,消費文化を謳歌する時代が到来するかもしれない.それ自体は悪いことではないが,日本人の持ち合わせた優れた国民性が失われるような恐怖感と寂寥感を感じているのは私だけだろうか.

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