ブログを開設して以来、1年と2ヶ月が経った。そして、エントリーの中でかなりの割合を占めてきたのが、「円安」問題である。
意図的な政府の円安誘導は大手製造業を助け、これに乗って都市銀行が外貨投資(投資信託や外貨預金)に庶民のお金を誘導し、郵便局から地方銀行まで同じ行動に出た末、より一層円安が進んできた。
市場は常に状況を読んで突き進む。要するに、円高に対して日本の政府は大量の資金を投入して円安誘導をしてきた実態を世界の市場に明かにしてきた。この行動を担保に、金が金を生むギャンブル市場が活気付き、円をより金利の高い外貨に誘導する金融機関がほくそえんでいる様相が今の円安である。
「統計数字で見る今の日本(寺島実郎講演から)」(ブログ「関係性」6月18日付け)で述べてきた事柄で、日本の企業物価指数(各生産工程での商品価格)を提示した(00年を100とする)。
素材原料 中間財 最終材
00年 100 100 100
05年12月 158.9 105.7 91.7
07年4月 180.2 113.2 91.8
明らかに、円安によって輸入価格は上昇し、それが素材原料に反映している。しかし、価格高騰が最終材に反映しないのは、庶民の生活水準が下がり、消費に向けない事情がそこに横たわっているからである。
「生活用品 価格上昇」(朝日新聞6月21日付け朝刊)の中で、レギュラーガソリンやトイレットペーパーからオレンジやマグロまで、そして、ハンバーガーが値上げされていることを説明している。この中身は、円安を基調とする素材の値上げ、バイオ燃料ブーム、都市部の家賃高騰を挙げている。
ところが、
「動かぬ物価そのワケは」(朝日新聞6月30日付け朝刊)では、総体として寺島氏の提示した「最終材」価格が上昇していないことを裏付けている。この記事では企業のコスト競争の激化(負担は下請けに押付け)と低賃金のパート・派遣などの非正社員の採用に前向きな構造が起因していることを説明している。
この二つの記事は矛盾するようだが、一方で値上げをした分、他方でより一層値上げを抑えられている様子がこの両記事である。
「住みやすさ、東京4位」(日本経済新聞6月22日付け朝刊)は、世界のビジネスマンが選んだ住みやすい都市を掲載した。
1位:ミュンヘン(ドイツ)
2位:コペンハーゲン(デンマーク)
3位:チューリッヒ(スイス)
4位:東京(日本)
5位:ウィーン(オーストリア)
東京が上位に来た理由の一つが「円安で『以前より物価が安い』」であった。それ程の円安である。外国人から見たとき、物価安の東京に憧れている。
「円安が損なう国益」(朝日新聞6月29日付け朝刊)と
「相場も景気も利上げ促す」(朝日新聞7月4日付け朝刊)で、前者は「それ(円安)は、金融緩和を強く主張してきたエコノミストが望んだことでもある。・・しかし一方で、円安は日本の経済資源の利用効率を下げ、資産を安売りするということでもある。・・それが、日本の低すぎる金利がもたらした歪(ゆが)み」と説明し、後者は円安すぎると答える企業の増加を「海外ファンドによる日本企業の株買占めが広がるなかで、円安が続くと、海外から見て株が割安になり買収攻勢が強まる、との危機感も高まっているのだろう」と解説している。
「外貨市場、『ドル離れ』鮮明」(日本経済新聞7月4日付け朝刊)と
「プラザ合意時下回る」(朝日新聞7月4日付け朝刊)は、ドルが対ユーロにも対ポンドにも売られ、ドル安が鮮明になってきている中で円が対ドルで売られる状況を解説している。結果として、円の実質実効為替レートが85年9月(プラザ合意)時点よりも落ち込んだことを説明している。

(この図の左のグラフは日経より、右は朝日より転)
上記で示したいずれの記事も、1.円安が過度である、2.その対処に金利を上げよ、というものである。要するに、円金利が低過ぎるために円を売って金利の高いドルやユーロを買う(円キャリートレード)ことによって、金利で稼ぐというものである。しかし、円高に少し振れただけでもこの金利は吹き飛び、極めてリスクが高いのだが、円高に対して大量の資金を投入して円安を作り出した日本政府が市場に安心感を与えている。
しかし、どの新聞記事もこの状態を起こしてきた原因究明に触れず、対処法を示しているに過ぎない。要するに、これによって、新たな問題を引き起す懸念が生ずるからである。金利が上がれば、間違いなく中小・零細な企業の資金繰りに支障をきたすことは明らかである。なぜなら、大手企業と係わっている企業は下請けへの経費押付けにあい、小売に直接係わっている企業は最終材の価格低迷をもろに受けているからである。
では、過度な円安の原因は何であったのか。1.新自由主義に乗った政府は2003年に10兆円ものドル買い等の市場介入をして円安誘導を行った、2.この政府の介入が確固とした行動であることから、金融機関等は外貨預金や投資信託に庶民のお金を吸収し、より一層の円安を実現した、3.これによって、輸出に重きを置く大手製造業の収益を上げ、この円安を是正する動きを政府にさせない状況が今である。
政府が抱えている外貨を一定程度売ることによって、円高で買ったときのものであるから円安の今なら利益が膨大で、減税に回すこともできる。そして、円安が是正されれば、素材輸入価格も下がり、大手企業の利益を下げるが中小・零細企業の収益は安定する。尚且つ、素材に直結したガソリンやトイレットペーパーなどの値下げが実行され、消費者の苦しみも少しは低減する。
このように、日本の中小・零細企業を安心させ、庶民のお金をギャンブルに誘い込む金融機関に反対し、消費者の生活苦の先頭に立てる政策を野党に期待する。そのような野党に
関係性を深めたい。

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