7月9日に「誰が『異常な円安』にした」をエントリーし、その後の動きと「円安」が意味するところを整理したい。
この異常な「円安」は小泉内閣による新自由主義の導入と同時に始まった。円の実質実効為替レートが85年9月(プラザ合意)時点よりも落ち込んだのが7月3日であった。そして、7月19日にはそれ以上に進んだ。
過度な円安の原因は何であったのかを前回つぎのように説明した。
1.新自由主義に乗った政府は2003年に10兆円ものドル買い等の市場介入をして円安誘導を行った。
2.この政府の介入が確固とした行動であることから、金融機関等は外貨預金や投資信託に庶民のお金を吸収し、より一層の円安を実現した。
3.これによって、輸出に重きを置く大手製造業の収益を上げ、この円安を是正する動きを政府にさせない状況が今である。
「YEN漂流(1〜4)」(日本経済新聞7月7日〜11日朝刊)で、大企業が喜ぶ「円安」を後押ししてきた日経でさえ、「円安」の薄気味悪さを言い始めた。
1.「弱い円は国益か」(7月7日)
「高利回りを求め海外に流出した個人金融資産は三月末で約四十三兆円。わずか三年で倍増、・・日本の工作機械メーカーの欧州向け受注は1−5月累計で前年同期比約五割増。・・トヨタ自動車の3月期連結営業利益は円安で三千億円近く膨らんだ」と。
しかし、見る角度を変えると、魚や液晶パネルに欠かせない希少金属イリジウムの輸入価格の上昇を受け、「原油、天然ガス、ウランなど資源を海外に頼る日本の購買力を脅かす。・・GDPは05年に14位に転落、06年は仏、独などに抜かれ18位前後まで下がった」と。
2.「マネー覇権 新次元」(7月8日)
90年代半ばに、米国は「強いドル」を掲げ、米国に世界資金を集め、自国の成長と新興市場への再投資の戦略をとった。欧州もこれを追い、欧州中央銀行も「強いユーロ」を受け入れた。中国は通貨切り上げでそろりと「強い元」へ進みだした。そして、通貨危機に瀕したロシアはIMFからの借金を完済し、資金大国として「ルーブル国際化」に動き出した。
「通貨の覇権争いからも取り残された日本」と。
3.「異形の介入大国」(7月9日)
今注目される「円借り(円キャリー)取引」。低金利の円資金を借りて高金利の証券などで運用する。
この世界最大のトレーダーが財務省為替市場課である。「九千億ドル(百十兆円)を超す日本の外貨準備運用の最前線」である。過去の巨額ドル買い・円売り介入の外貨を金利の高い米国債で運用している。「万一日米金利が逆転すれば逆ざやになりかねない」。
「2006年に中国に抜かれるまでに、日本の外貨準備は長らく世界一を続け、国内にもそれを誇る空気もあった。だが大きく膨らんだ外貨準備は先進国では異常な規模の介入の結果に過ぎない。・・海外では介入で得た外貨をリスク管理のために反対売買する例は少なくない」と。
4.「円高恐怖症の呪縛」(7月11日)
円が売られ、円の国際化は遠い夢となった。外貨による買収におびえ防衛策を強化している。「地元企業は金利上昇よりも円安を恐がっている(日銀札幌支店長)。素材・食品・小売りにとってコスト増。今の円安は行き過ぎとの声もある(日銀福岡支店長)」と。
その中で、輸出企業は「1ドル=105円くらいの円高は常に頭に置いて働いて欲しい」、「120円は当然と慢心が社内に広がるのを恐れる」と。
以上の中から、結局、大手輸出製造業は「円安」から大きなボーナスを努力なしで得て、そのしわ寄せが仕入れ素材価格を上昇させ、価格転嫁できない中小企業の収益悪化を作り出している。
「円安 経済これって何?」(しんぶん赤旗7月15日付け日曜版)はこの「円安」を分かり易く説明しているのだが?
貿易収支も経常収支も黒字なのに、なぜ「円安」が進行するか。
1.内外金利差によって円キャリー取引が喚起されている。
2.内外金利差によって個人投資家の外貨建て投資信託の購入が増加した。
「円安」によって日本経済への影響はどうなっているか。
1.大企業の輸出を加速させた。
2.輸入価格の高騰を招き、原材料価格の上昇を通じて、中小企業の経営を圧迫することになる。
ではどうすれば良いか。
日本銀行が早期の再利上げに踏み切れば、金融機関の金利が上昇し、中小企業の経営を圧迫する。「円安という問題の解決のためにも、政府・財界とは別の、国民の立場にたったもう一つの経済政策を対置する必要があります」と。
この記事は極めて評論家的で、先ずは間違ってはいない。しかし、共産党(投稿者:萱原歩)はどんな政策を政府に対峙するのかが、全く提示されていない。また、何故この「円安」が起きたのかの分析もされていない。
グローバリズムや新自由主義に反対するには、外為についての政策を整備しなければ、結局、中央官僚に利用されるだけである。
『しんぶん赤旗』には多くの期待をしている。この新聞に替わる実態解明新聞が他にないからである。貧困問題や医療問題の実態からの解明は他の政党機関紙には全くできないことは承知している。それだけに、「円安」「円高」問題の解明に向けて、大企業の利権と政府の癒着が庶民の小銭まで狙い、その生活を直撃している事実を論理的に整理する能力を付けてもらいたい。
「ユーロ高 旅行に逆風」(朝日新聞7月20日付け朝刊)と
「韓国、円安で輸出打撃」(朝日新聞7月14日付け朝刊)が「円安」の具体例を示している。
前者で、ベルリンのマクドナルド(ビッグマックセット)が830円、パリのカフェのコーヒーが510円、ロンドンの地下鉄初乗りが1000円と日本食ランチが2500円を報告している。
後者で、ウォン高・円安によって韓国の海外旅行は日本シフトを進め、06年の前年対比で31%増加し、今年もまた2割前後上昇している。しかし、日本輸出を主眼としていた工業部品メーカーの損害が多大になっていることを説明している。
「円安」は単に日本の問題だけではなく、日本と貿易面で深く係わる外国経済にも大きな影響を与え、不安定な貿易構造を作り出している。
新自由主義の本質をこの「円安」問題から見ることができる。しかし、残念ながらどの新聞を見ても実態的庶民の生活をこの問題から覗くことはできない。「円安」や「円高」が各国庶民の実態的生活と係わっている姿を私は見たい。
そのような報道と
関係性を深めて、新自由主義の本質に迫っていきたい。
しかし、7月20日以降、急激な「円高」が始まった(次回へつづく)。

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