「米医療切る『シッコ』」(朝日新聞8月26日朝刊)に、5人の批評が載った。
「我々への痛烈メッセージ」(荻原博子氏)、「ヒットした米に懐の深さ」(浅野史郎氏)、「メンタリティーを暗喩で」(森達也氏)、「利潤のみ追求の末路明示」(南木佳士氏)、「日本の保険制度にも問題」(ピーター・バカラン氏)の5人である。
バカラン氏は「医師の治療行為がただの国に比べ、3割を負担している薬代を払う日本。税金の使い道の優先順位を再考すべきではないか。防衛費と医療費、教育費のバランスが、今のままで良いのか。『民主主義は革命だ。その民主主義と共に、公的医療サービスが始まった』と語る英の政治家の発言が印象に残る。『体制側にとって、教育と健康に自信を持つ国民は扱いにくい』」と述べている。
「映画時評」(しんぶん赤旗8月29日付け)で「シッコ」について映画評論家の山田和夫氏が書いている。
「世界唯一の超大国と自賛するこの国には事実上、公的な国民皆保険制度がない。大保険会社がひたすら利潤を追求する民営保険制度が幅を利かせている。国民は高額な保険料を払い、その上高価な薬代を要求され、手術のための保険金はなかなか支払われない。・・保険金をなかなか支払ってくれないので、間に合わず夫を亡くしてしまった女性がいる。別な女性は急病で救急車を呼んだら、予約してないから保険からの支払いはダメと言われ、怒り狂う。一番胸を痛めるのは、入院料が払えない患者が病院車で街に運ばれ、街頭にほうり出されるシーン。・・
映画は一言も日本のことは語っていないけれど、見る人はつぎつぎと日本の実例を思い浮かべる。老人保険料はつぎつぎと値上げされ、自己負担がふえ、病気になっても医者にかかれない高齢者がふえている。『年寄りには死ねというのか!』の怒りの声が広がる。最近では生活保護を打ち切られ、この“ゆたかな国”で飢え死にする人が続く。ムーアのとらえたアメリカは決して他人事ではない。・・
フランスの社会保障もずっと行き届いている。『どうしてアメリカと違うの?』。ムーアがたずねるとフランスの若者は答える。『アメリカでは国民が政府をこわがっているけど、フランスでは政府が国民をこわがっている』と」述べている。
「ムーアは数人の患者たちとともに、キューバにある米軍基地グアンタナモに赴き、そしてキューバに上陸して対照的な体験をする・・『キューバで出来ることがなぜアメリカに出来ないのか?』『キューバで出来ることがなぜ日本で出来ないのか?』」。
医療拒否されたアメリカの患者が、キューバで十分な医療を受ける場面が映し出され、アメリカで120ドル(14000円)する呼吸薬がキューバで5セント(8円)という事実を見せ付けられた。
「皆保険を生かす民間の力」(日本経済新聞9月2日付け朝刊)で、「シッコ」から日本の医療に言及している(編集委員 大林 尚)。
「だが、事故が医療費の膨張を抑えようという小泉政権以降の政策のせいだと決め付ける風潮はどうか。〇六年度の診療報酬の下げ幅は3.16%と過去最大だったが、長寿化を映し医療費総額はわずかに増えた。医師数も全国で毎年3千5百−4千人増えている。考えるべきは都市部への極端な医師集中をどう緩和するかだろう」。
「『映画シッコは日本の医療改革の行き着く姿だ』などという一部の言に惑わされることなく、揺るぎない皆保険体制を土台に、市場原理もうまく生かして医療産業を成長させる知恵が問われている」と。
朝日新聞やしんぶん赤旗の記事と真っ向から対立する主張を日経新聞は述べている。まさに、
東西南北さんが批判した(注)ことを日経が述べている。
明らかに、「シッコ」の実態を見せられて批判できない状況下で、医療費の削減を実行した小泉政権以降の政策を持ち上げ、「市場原理」を生かすという方向感のズレタ批評しか述べられない。私は日経編集委員の大林尚氏の普段の生活レベルとスタイルを覗いてみたい。このチグハグな論評をするほど生活水準が高いのか、それとも病院などに行ったことがないほど頑強なのか、を知りたい。この映画から実態が見えないような人に記事を書いて欲しくない。
(注)前回エントリーへのコメントで、東西南北さんは次のように述べている。
「医療問題は、日本でも深刻。まず、医師の数が足りない。自民党と公明党は偏在だといいますが、東京都・徳島県は人口比で都道府県の中で一番、医師の数が多い。10万人に250人程度。最低は埼玉県で10万人に160人程度。偏在が事実であれば東京都と徳島では医師の数は十分なはずである。しかし、東京と徳島の病院の現場は医師不足であり、勤務時間が異常な事態になっている。先進国の国際水準では1000人に3人つまり、10万人では3000人の水準なのだ。ところが、日本では1000人に2人つまり、10万人に対して2000人であり、全国の医師数は25万人である。要は、国際水準で見れば12万人は不足しているのであり、偏在の問題ではない。自民党政権が医学部の定員を減らしてきた政策の責任である。公明党はその自民党を後ろで支えている姑息な宗教政党である。
医師数の不足は医師の労働条件が最悪にあることにより、患者への悪影響も不可避である。過労状態の医師が勤務して患者さんを手術し、診察している危険性は指摘するまでもない。
診療報酬制度のマイナス再改定により、医療機関への予算を削減したことも労働条件を最悪にしている。医療機関は利益を確保しようとし、労働条件へツケを回すからである。
国民健康保険料の値上げも深刻であり、患者の窓口負担の増大も深刻である。さらに、保険が適用される医療の対象を狭めてくる混合診療の解禁も医療のアメリカ化への道である」と。
「後期高齢者医療保険制度」(pantaさんとニッパチさんが指摘)は、来年4月から実施される。
練馬区の高齢社会対策課は次のように説明している。
・現在、75歳以上の方と一定の障害がある65歳以上の方は、国民健康保険や被用者保険(健康保険組合、政府管掌保険など)に加入しながら老人保健制度で医療を受けています。来年4月からは、独立した医療保険制度として新設される「後期高齢者医療制度」のみに加入することになります。
・現行の老人保健制度と同様に、医療を受けた際に医療機関の窓口で支払う自己負担割合は、1割(一定以上の所得がある方は3割)です。
・保険料は、後期高齢者医療制度の加入者全員が納めます(原則として年金から徴収)。今まで保険料を支払っていなかった被用者保険などの被扶養者も負担することになります。
保険料の額は、所得に応じて決まります。来年度分は、来年4月ごろに決定する予定です。
「後期高齢者医療保険制度」で、75歳以上の老人は受診時での支払い費用に何の変化もないが、家族に扶養されている人を含めすべての後期高齢者が保険料の負担を求められ、大多数が「年金天引き」で保険料を徴収されるようになる。(「天引き」対象は年金が月1万5000円以上)。保険料額は、今後、条例で都道府県ごとに決まる予定であるが、全国平均で年7万2000円(月6000円)になると政府は試算している。介護保険料(全国平均4090円)とあわせると、多くの高齢者が、毎月1万円を「天引き」されるのである
(しんぶん赤旗3月17日付け参照)。「シッコ」の現実が身近に表れている。
また、将来の糖尿病などと結び付くメタボリック症候群に、厚生省は予防医療と称して、将来の医療費を削減することを今狙っている。しかし、その実態は「医療費の削減」であり、一定期間の指導や治療をするが、改善しないときには“自己責任”として健康保険を使えなくする。病院に対しては指導力不足として治療点数を与えない。アメリカ同様に、国民皆保険の役割を削減する行為である。
国民皆保険を持っている日本は無料の医療費から有料の医療費(主に3割負担)に転換され、多くの庶民は新たに民間の保険に加入することが増えてきた。アメリカの民間保険会社は色々な難癖を付けて保険利用を妨げ、利益を貪り、止め処なく病人を作り出す社会システムを維持させている。日本の民間生命保険でもこの誤魔化しが表面化したし、一層アメリカ化が進むと解釈できる。
病院、医者、患者との
関係性を深めて、政府の言う「予防医療」に警戒心を持ち、医療制度を少なくても小泉以前に戻そう。