連日の売れ行き不振で頭が痛い。
夜は、付き合いのある異業種の零細企業のオヤジとしゃべることが多くなり、情報交換による異業種の動向から様々な予測を立てることにしている。
残念ながら、同業種のオヤジとは話せない経営状況があり、一つ間違えると取引先にその情報が流れる場合もあり、取引先に不信を抱かせることにもなる。この全てが不安な時期に流されたくない情報が満載である。心を開いて語れない情報が身内の業界では一切話せないのだ。
このことは取引銀行との間にも存在する。
取引銀行との会話で、どこまで真実を言うか、どこまでウソをつくか。
双方とも、相手の言葉から実態を聞き出そうとする。
借り手からは、銀行がいま最も聞きたいことは何なのかを予測する。銀行からは、すでに貸し付けているお金の返済が大丈夫かどうか、これからも貸付できるなら何%の金利がとれるか等々を聞き出したがっている。
1ヶ月ほど前に、3年返済の1本(地方銀行)が終了した。
そこで、私はその銀行にその時の借入のための担保を外すようにお願いに行った。
そこには銀行員のかなりの抵抗があった。
決して言葉で言い合うという子どもじみた応酬があった訳ではない。お互いを尊重した会話である。しかし、心の奥底とは大きな違いがある。お互いに傷つけあう言い方のほうが納得がいくのであるが、決してそうならない。イヤらしいおとなの会話である。
要するに、これからも借り増しすることがあるだろうから、担保はそのままにしておきたいという銀行の主張である。担保を外すにはそれなりの手続きが要るし、手間もかかる。忙しい私に手間を掛けさせたくないと、彼は言う。私は心の奥底で、この不景気で注文が減り時間はタップリあると言いたかったが。
ここまで、シツコク銀行側が言うのには理由がある。
未だに貸し付けているお金がこれからも安全に返済できるかどうか、という不安がより多くの担保を欲しがらせるのである。決して次の融資のためではない。
結果としては、数日後に担保の解除を勝ち取り、次に借りるときは担保を差し入れるから安心してください、と伝えた。
私もいやらしく、喧嘩をせずに済ませた。
それから1週間後。
他の銀行(都市銀行)から電話が入り、直近の試算表をファックスしてもらいたいと。
残念ながら、私には拒否する力がなく、にこやかにOKを出してしまった。
そして、1時間後、ファックスを受け取った旨の電話が銀行からあり、同時に翌週に支店長が会いたがっているので、時間を取って欲しいと言ってきた。
ここでも快く曜日と時間を決めさせてもらった。
またまた大人の対応である。
金を借りている身の辛さである。
当日、支店に赴き、営業担当と支店長に会い、最近の景気状況から話が進んだ。当然、ここ数ヶ月の売上激減に対してどのような対応をするのかを尋ねられた。さすがに、なぜ激減したのかとは聞いてこなかった。
私:他の業種はどうですか?
支店長:ひどい状況です。
売上が5割減はほぼ常識です。
私:その企業はこれからの対策をどうすると言っていますか?
支店長:先ずはジッと耐えること、と言っています。
私:実は私もそうしています。
余分なことをすると一層在庫を増やしますから、丁寧に在庫を減らすことだけに集中しています。特に、取引先の上場企業は担当営業が急きょ代わり、今までの担当は解雇され、新しい担当も自分の立場を維持するのが精一杯で、無茶苦茶な価格提示だけを言うようになっています。その分だけ、売上がガタ落ちです。
支店長:ところで、毎月の返済は進み、資金繰りは大丈夫なんですか?
他の銀行から借入をする予定はあるんですか?
私:(にこやかな口調で、いよいよ本題に入ってきたな)いいえ、今のところ借入の予定はありません。
支店長:それじゃー、資金繰りは大変でしょう!
私:(彼はどうしても借りたいと言わせたいのだ)経費だけなら何とかなります。
先ほども言いましたが、在庫の販売で今は生き続けています。
仕入を起こさなければ、大きな支出はないですからね。
支店長:しばらく様子を見てからということですね。
私:(相当彼は口惜しそうだ)はい、そうです。
(言われたままでは頭に来る)それに、金利も経費になりますから、今のところ借りる環境にはないですよね。
支店長:(少し切れた口調で)金利なんて大した経費じゃないですよ(笑いながら)。
私:(カチンときながら先手を打って)何だったら、今借りている分を全てお返しして、金利を浮かせる方法もあるんですが。
支店長:イヤイヤ、そこまでしなくても。
いずれにしても、いつでも対応させていただきますので、その時は担当に言ってください。
こんな会話で終了した。
前の地方銀行とのやりとりから私も学んだ。
お金を貸したいフリをしながら、相手のふところ状況を読み、担保を先ず出させてから新たな貸し出しの案件を議論する、という銀行の行動が見えてくる。要するに、未だに貸しているお金が間違いなく取り立てられるかどうかを確かめ、ついでながら、余分に担保を抑えたいという行動である。一つ間違えると、貸しはがしと言われる可能性もあるので、そこは注意深く銀行側はしゃべってくる。
基本的には、この未曾有の大不況で、貸す気は銀行に先ずないと見た方がよい。実際には政府の全額保証(来年3月までの「緊急保証」)で貸せるようになっている。しかし、焦げ付けば、銀行の情報能力を疑われる恐れを感じている。
数日前に、信金の営業担当が新しい担当を連れて来社した。
今までの営業は31歳で、父親が経営するITソフト開発会社に4月から入社するために、新しい担当営業を連れてきた。
彼は父親の経営を引き継ぐことになり、かなりの勉強をしないといけないと言ってた。
この時期に大変な決断だよね、と私は伝えた。
そして後日、今までの担当と個人的に話した。
彼は父親の会社はここに来てかなり危なくなっていて、建て直しができるかどうかは分からないが、取引先や社員に迷惑を掛けられないし、このままでは借金が残ると信金にも迷惑を掛けると心配しての決断であった。
この時期に、安定した銀行員を辞めざるを得ない状況は、借り手の父親と貸しての信金の狭間で悩んだ末の結果であった。自らの成績アップのために父親の会社への融資を行ってきたが、その責任を取らされる羽目になったのだ。
銀行員としての貸し手は、借り手の社長の息子。こんなことはどこでもありそうだ。
銀行と借り手の狭間で揺れ動かされた31歳の男である。
普段から、私たちは様々なビジネスについて語ってきた間柄で、今の仕事の次には何をやるんですか、と彼は私に聞いていた。多分、この転職状況を踏まえて、色々聞きたかったんだろうと今になって思い出す。
落ち着いたら、また挨拶に来ると彼は言っていたが。
以上の3つの話はこのたった1ヶ月間の出来事である。
金融不安の深化は、銀行本体に大きな責任がある。しかし、その責任は一切取らず、銀行組織は取引先零細企業を痛めつけ、真面目な行員にその責任を押し付けて排除している。その行動の下品さにはホトホト情けなくなる。
行員や支店長一人一人を責める気になれないが、組織や構造の仕組みは個人をも下品なビヘイビアを強いている。
しかし、残念ながらほとんどの銀行員はそのことに気付いていない。
社会の在り様や矛盾をかなり丁寧に担当行員には伝えてきたが、なかなか定着しないようだ。その一つに、エリート意識が起因しているのではないかと思える。一度勝ち組意識を持つと、そこから外されるまでは気がつかないのかもしれない。
銀行の課長レベルからは“社長の社会への見方は厳しいから”とよく言われる。私が担当行員に語った内容は一定程度社内に伝わっているようであるが、課長から担当行員にはあまり影響を受けるなと言っているのかもしれない。
零細企業のオヤジの話を真摯に聞かないで実態を掴めないのにと思うのだが。
もがいて苦しんでいるオヤジたちの話を若者が聞く
関係性は大事だと思うのだが、みなさん如何でしょうか。ただうるさいだけなのか。

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