世界的に健康志向が進み、鳥インフルエンザや牛肉のBSE問題が水産物需要を推し進めていると言われている。これに拍車をかけているのが、経済の急激な伸びを示しているロシアや中国の需要増がある。
事実、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脳卒中等々)やメタボリック・シンドローム(それぞれ独立した生活習慣病ではなく、肥満を中心に据えて内臓脂肪型肥満と関わる病気によって起こされる状態)が様々なところで言われ、医者からも魚肉を勧める場合が増えている。これは統計的に見たものではないが、昼食で大戸屋に出かけると、焼き魚(サンマやホッケ)定食を食べている人が結構多いことに気が付く。
水産物需要の高まりを様々な場所で確認できる。
日本経済新聞(7月14日付け朝刊)に「
マグロ卸値の上昇止まらず」の記事が掲載された。この原因を次の二点に集約した。
@国内消費量の2割が台湾産であったが、資源保護の観点から日米欧の非難で台湾減船が進んでいる
A健康志向の高まりで欧米諸国の買い付けが増えている
結果として、漁船用燃料の高騰も加わり「漁業者廃業に拍車をかける可能性」があり、「東京のスーパーでの店頭価格は一年前に比べて2−3割高」くなっている。そして、これに対応する国内消費は落ち込む様相を呈している。
間違いなく、日本人はマグロの刺身が大好きであるが、生活防衛からカツオ(季節によるが)等へ嗜好を移す行動を取る。
「
魚の需給に異変」(日経9月14日付け朝刊)が起き、マグロだけではなくムツの代替魚のメロさえスーパーから消えた。海外での魚食人気から密猟も横行し、輸入減となっている。「日本水産は味噌漬け用の魚をメロから銀ダラに変えている」という。
以上の実態を踏まえて、朝日新聞の記事とその物の見方を検証しよう。
朝日新聞(8月30日付け朝刊)で「
市場生かし食料安保」という大枠の考え方が載った。世界の潮流(1.世界的に農水産物の収穫が頭打ちになっている、2.経済力を付けた中国の食欲が増している、3.穀物が食料と燃料で取り合いをしている(注))の中で、日本の自給率の向上だけでは食糧確保はできないとしている。
(注)穀物は食用、飼料用、燃料用の競合の中にある。特に最近言われ始めているエタノール需要で、ガソリンに混合させる動きがエネルギー政策への活用である。
ただし、エネルギー活用の危険性については早雲さんのブログ「バイオ燃料ブームが引き起こす危機」(06年7月20日付け)
http://sun.ap.teacup.com/souun/を是非参照して下さい。
そして、朝日は日本の課題として、次の三点をあげている。
@先の自給率にこだわらず、グローバル化した市場を生かした食糧確保を目指す。
A農水産物輸出国と協定を結び、長期的な安定と、需給逼迫時の優先供給を盛り込む。
B続可能な農水産業のために、水資源や土壌の保全、海洋資源の管理などで国際協力を進める。
そして、その実行課題として、「需給逼迫に備えた日本の食糧戦略は、自国のとりでを固く守ったまま世界から農水産物を買い集める旧来型から、大きく転換する必要がある」ことを前提にして、次の三点を示している。
第一:農水産物の輸出国と積極的に経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結ぶ。長期的に安定した食料輸入をそこで担保するだけでなく、天候不順などによる食糧不足の祭に優先的に供給してもらう食料安保条項を盛り込む。
第二:FTAやEPAを進めるためにも、日本の農業の競争力を高め、もっと市場を開放することだ。安価な産品は輸入し、品質の高いものは輸出できる産業に変える。そのためには、品種改良などの技術開発に力を入れたり、株式会社による効率的な経営を広げたりする必要がある。
第三:日本の事業者が海外から農業労働者を受け入れたり、海外で農場を経営したりしてコストを下げ、競争力をつけることである。それには、農業経営者の創意と工夫を生かす自由な環境を作る。そのうえで、市場を通じて食料を輸入、購入する。グローバル化が進む世界での食糧戦略は、そんな姿であるべきである。本間正義教授(東京大学)は「日本の優れた農業技術をアジアに移転しながらアジアの労働力を有効に使えば、日本の生産費は下がり、相互の繁栄につながる。また、日本国内でも農業で外国人を広く雇用できるように制度を整えるべきだ」と指摘する。
このように、朝日新聞は主張(論説委員・高成田亨、外報部・野嶋剛)している。
では、実行課題の三点が本当に具体性があるのか、を考える必要がある。そして、
食料についての基本的な物の見方は、食糧生産が減少する中で一部の金持ち国が輸入でき、そうでない国は食べられないという構造を作らないことである。国際的な「食料格差」を拡大させないことである。
第一の農水産物の輸出国と積極的に経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結ぶ。これによって、長期的に安定した食料輸入をそこで担保するだけでなく、天候不順などによる食糧不足の祭に優先的に供給してもらう食料安保条項を盛り込むことが本当に可能なのか。
第三で示した「競争力をつけること」そのうえで、「市場を通じて食料を輸入、購入する」を前提にすれば、第一の「日本が食糧不足の祭に優先的に供給させる」は大きな矛盾を抱えている。市場取引を言いつつ、協定取引を語る。日本との協定取引を成り立たせる日本の優位性(日本と取引すると得をする)が何処にあるのかが述べられていない。
第二でいう「日本の農業の競争力を高め」るために、「品種改良などの技術開発に力を入れたり、株式会社による効率的な経営を広げたりする必要がある」は、未だに明確になっていない安全性を無視した効率性を前面に出す方式である。
農業での農薬問題や遺伝子組替技術、水産業での養殖技術での配合エサや抗生物質問題が背後に押しやられている。株式会社であれば尚更である。
第三でいう「海外で農場を経営したりしてコストを下げ、競争力をつけること」が何故大事かが明かでない。
この記事の中でも、チリ産の養殖サケを加工する水産大手のニッスイについて述べている。「加工場がフル稼働していた。・・アトランティックサーモンやギンザケが次々とラインに乗せられ、1時間足らずで切り身の商品となり大型冷凍庫に積み込まれる。・・3年前まではほぼ全量が日本向け。今年は欧米向けが3割を超える」。そして、「欧米で人気のアトランティックサーモンは価格が02年の1キロ当たり2ドルから5ドル近くに高騰」していることを明かにしている。
要するに、海外で経営に参加したからといって、そこから日本に輸出するのは、日本が高く買うときに限るからである。日本の国営ではなく、株式会社であれば“先ず日本に”とは考えない。より高価格の地域に輸出するのは当然である。
そして尚且つ、本間正義教授の主張は、アジアの「貧しい農民・漁民地域社会の生計を脅かす」(注)方向へ推し進めようとするものである。まさに
、「安価な食品」と「貧しい農民・漁民地域社会」とのバランスを欠いた日本一辺倒の考え方である。
(注)早雲さんのブログ「アジア途上国は安価な輸入食料依存を減らせ」(06年7月19日付け)
http://sun.ap.teacup.com/souun/を是非参照して下さい。
以上のことから、
朝日新聞のこの記事は余りに精査が足りていないことが判明する。
1ページ全体を使った記事の右半分には「燃料生産でも需要」「消費増え価格高騰」という実態が書かれている。それに対して、左半分には「貿易協定で安定供給を」という擬似学者風“戯言”が書かれ、右半分の実態を精査し、論理に昇華させる試みが全く感じられない。 同じ記事の中で、左右の論理・実態の
関係性が全くなく、グラフや表の空しさを感じる。様々な実態・報告書・論文を整理・精査して、新聞記事にすることを望む。
私自身は真剣に読んだ挙句、何か分かったようで何も語っていないことを感じた朝日新聞記事であった。

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