9月3日付け記事「なぜユーロ高」で、市場は世界の経済実態を反映しているものではなく、誰かが意図的に誘導しているのではないか、という視点から書いた。
しかし、新聞・テレビ・雑誌・銀行・証券会社等のメディアでは、アメリカやヨーロッパに比べて日本の円の金利が安いからだ、と主張している。
@ 意識的な円安誘導
ゼロ金利政策は1999年2月に決定され、2000年8月に一時解除されたが世界的同時不況と国内景気後退によって、2001年3月にはこのゼロ金利政策は復活した。そして、この政策は2006年7月に解除された。
01年のゼロ金利政策の復活以後から01年7月解除まで、円の対ドルやユーロに対してどのような推移を示したかを見ることにする(ただし、06年は7月末日時点)。
01 02 03 04 05 06.7月 06.11月
1ドル =131円 120円 106円 103円 116円 115円 118円
1ユーロ=118円 125円 135円 138円 140円 147円 151円
対ドルでは03年と04年の円高が金利差で説明できない。そして、対ユーロでは金利差と係わりなく円安が進行し続けているし、ゼロ金利が解除された今では終に115円の記録更新をした。
9月3日付け記事「なぜユーロ高」で、01年から05年までのアメリカ、ヨーロッパ、日本の比較を貿易収支、失業率、実質GDPで見た。
(貿易収支) 01 02 03 04 05
アメリカ –3860 –4760 –5280 –6650 –7920
EU +490 +310 +190 +40 -440
日本 +500 +820 +960 +1160 +750
アメリカは貿易赤字を拡大し続け、EUは貿易黒字を減少させついに05年には赤字に転落した。それに対して、日本は永続的に貿易黒字を維持し続けている。
(失業率) 01 02 03 04 05
アメリカ 4.7 5.8 6.0 5.5 5.1
EU(フランス)8.7 9.1 9.9 10.0 9.9
EU(ドイツ) 9.4 9.8 10.5 10.5 11.7
日本 5.0 5.4 5.3 4.7 4.4
この失業率で比較すると、アメリカは03年以降徐々に低下し、EUは10%前後で推移しかなり高率であることを示している。日本は02年以降徐々に低下し続けている。
(実質GDP)01 02 03 04 05
アメリカ 0.5 1.6 2.7 4.2 3.5
EU 1.8 1.2 1.2 2.4 1.6
日本 0.2 1.1 2.3 1.7 2.6
アメリカの景気の好調さ(住宅バブルとも言われた)を示しているが、円/ドルのレートに関連は薄い。
以上のことから、円安は金利差、貿易収支、失業率、実質GDPと係わりなく動いていることが明らかになっている。
では、それを誘導しているものは何なのか。
2003年通期で、日本は累積20兆円の資金でドルを買い支えた。この日本政府による市場への20兆円も投入する円安圧力がその後の心理的円安をし続けている。
政府による円安誘導は税金による外貨買いであり、大企業優遇を推し進めた結果がここにある。
「法人所得、50兆円超す」(10月27日付けしんぶん赤旗)は小見出しで「給与抑制 株主配当は倍増」と表現した。
確かに、上場企業の収益は過去最高であるが、「給与抑制」だけでこの成果を上げた訳ではない。資本と労働の関係だけで分析する無理がある。円安を生んだ要因も分析願いたい。
朝日新聞の記事で、「円安、決算に追い風」(11月7日付け朝刊)と「自動車8社 円安効果 全社増収」(11月8日付け朝刊)が載り、国内消費市場の低迷にもかかわらず、対ドルでも対ユーロでの円安効果を発揮した。ソニーに円安が「神風」と言わせた。「1円の円安で、対ドルで60億円、対ユーロで65億円の営業収益」があるそうだ。
この記事で、企業収益は「円安頼み」であることしか述べていない。上場企業の「企業努力(?)」を一切説明せず、ただのツキであるかのように書かれている。
A 企業減税への世論操作
そして、大手輸出メーカー(自動車、電機など)を中心に、増収・増益を達成しているときに、
「企業減税5000億円規模」(朝日新聞11月6日付け朝刊)という記事が載った。
政府は07年度の税制改正で企業減税(減価償却の見直し)を実施する方針を固めた。
明らかに、企業の収益は収益を生み、止め処ない利益欲望を政府と共に推し進めようと言うものである。
このような論理はどこから生まれるのかをここで新聞記事から読み取ることにする。
「労働分配率と日本の美しい心」(日本経済新聞9月29日付け朝刊)は実に興味深い。
この記事は「企業景気がなかなか消費に点火しない。一部の高額消費とインターネット関係は好調だが、衣食住関係は一向に回復せず、消費マインドは萎縮したままだ」とはじまり、「配当性向が高まり、役員報酬を引き上げた今、次は従業員に報いる番だ。企業景気が個人消費に点火すれば景気は勢いを増し、株価も調整局面を抜け出すはずだ。安部新政権誕生を契機に経営者は民の竈(かまど)に思いをはせる日本の美しい心を取り戻してほしいものである」とまとめた。
まことに道理にかなった記事に見える。
この記事が9月である。
「消費税引き上げより成長率を高めよ」(日本経済新聞10月24日付け朝刊)は上記記事をもう一段進める。
この記事も「政府の債務・社会保障負担の増大のため、その財源として消費税の引き上げが大きな関心をもたれている」からはじめて、「成長率が高くなれば、消費税の引き上げなしでも基礎的均衡を実現することは可能である。・・最も重要なのは成長率を高めることだ。成長なければ財政の改善なし、という安部内閣のスローガンは正しく、消費税引き上げは避けるべき」とこの記事を終えている。
この記事が10月である。
その後、
「企業減税5000億円規模」(朝日新聞11月6日付け朝刊)という記事が来るのである。
そして、首相諮問機関である政府税制調査会の第1回企画会合が本間正明阪大教授を会長に11月9日に行われた。
「企業の税負担軽減2段階」(日本経済新聞11月10日付き朝刊)で、07年度の税制改正で企業減税(減価償却の見直し)を実施するだけではなく、08年度以降にもう一段の企業減税(実効税率の引き下げ)も探ろうとするものであることを掲載した。
この記事が11月である。
企業減税こそ、海外企業に対しても競争力を持ち、より永続的な経済成長を保障することになり、企業は従業員に正当な分配を行い、消費税の引き上げも無くなる、と言いたいのだ。
これをもう一度言い換えると次のようになる。
「企業減税→経済成長→従業員への配分増+政府の財源増+消費税の引き上げなし」という論理である。この背後で、個人所得に対して定率減税の全廃という3.9兆円の大増税、来夏の参院選後に予定している消費税増税の検討によって、この企業減税が賄われることになる(朝日11月6日記事から)。
まさに、企業減税への世論操作が日経記事の時間軸から読み取れるし、安部政権への応援歌であることが明白である。
(つづく)

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