悪の軍団に倒されピンチのヒーロー。
すでに立ち上がる力もない。
だが。
そこに子供達が声援を送る。
負けるな。
頑張れ。
するとどうだろう。
虫の息だったヒーローはゆっくりと体を持ち上げ、敵に立ち向かって行くではないか!
いかにもご都合主義!
いかにも三文芝居!
……だがこの現象は実際に起こるのである。
昨日は久々のヒーローショーの仕事をもらった。
某有名百貨店の屋上で行なわれるゴーオンジャーショー!
ワシの役はゴーオンブラックと雑魚兵B。
正義の味方も悪役も演れて一挙両得!と思いきや、いざ本番ともなればMCのお姉さんが出ている場面以外は出ずっぱりのハードスケジュール!!
一度殺陣を通しただけでヘトヘトである……orz
集合は現地で6:50。
天気は雨。
天気予報は雨のち晴れ。
雨天中止か?と思いきや、先方さんの天気予報に対する信仰心から決行する事に。
なんとか本番前には晴れたが、ステージの上はまだ水溜まりが残っており、案の定リハ中にワシは二段蹴りをかまそうとして派手にコケた。
本番じゃなくて本当に良かった!
ブラックが決めポーズに失敗するなど言語同断である!
そんなショー見たこと無いッ!!
さて本番。
着替えると、なぜか紙テープを渡され百貨店店内へ誘導される。
担当のお姉さんを筆頭に女性服売り場を練り歩く5色のヒーロー達。
驚く買い物客相手に手など振りながら、到着したのは従業員用エレベーター。
お姉さんが押したボタンは『R3』。
R3?
Rは屋上だが、屋上に3階があるのか?
決してお客は知ることのない秘密のフロアである。
R3に着いたらそこからまた階段で2F分登る。
ドアを開けると、そこは沢山のパイプで敷き詰められたこの建物の真の屋上!
周りには何もなく、ただ空が見えるだけ……。
……柵もない。
見下ろせばさっきまでいたステージとそれに群がる子供達が小さく見える……。
どうやらショーのOPはこの場所での決めポーズから始まるらしい。
悠々と縁に乗るレッドとグリーン!
やめようやめよう!!と叫びつつ中腰の姿勢を崩さないブルー!
縁に片足を乗せて「落ちたら死にますよね…」「シャレになんないよ!」と高さを再確認するブラックとイエロー!!
炎神戦隊ゴーオンジャー!
参上!!
駄目だ……。
何せマスクのおかげで視界が悪く距離感が掴めない上に雨上がりである。
ブルーの猛反対も加わって、上半身だけ見せてポーズをして、最後に一人ずつ渡された5色の紙テープを投げるという段取りに……。
怖かった。
投げた紙テープが腕に絡み付く!
激しい突風に体が持ってかれる!
風でマスクがズレて前が見えない!!
子供達から見えない位置に戻るやいなや、急に慌てふためき自分の足場と階段までのルートを確保しようとする5色のヒーロー達……。
ぜってー良い子のお友達には見せられない光景や……orz
まぁそんな感じで段取りは進むワケですよ。
雑魚兵で最前列の子供泣かしたり。
レッドに武器でマジ殴りされたり。
とどめのキックが足上がらなかったり………orz
そしてお約束の場面。
怪人のパワーでボコボコにやられる5人。
当然役者であるワシ等にダメージはない。
だが。
朝からずっと殺陣を続け、決めポーズの二段蹴りをうちまくっていたワシの体力はマジで限界。
通気性のよくないマスクによる呼吸困難もそれを後押しする。
もういっその事地球でもなんでも侵略して下さいよ…。
もう足上がんないっスよ……。
せめてしばらく本気で倒れていようと思ったその時。
怪人役MCさんのしゃがれた声の向こうに、まるで悲鳴か叫び声になりつつある子供達の声援が聞こえる……。
「頑張れー!!!」
「負けるなー!!!」
「ブラック頑張れー!!!」
なぜブラック?
店内誘導してくれたお姉さんが言ってた。
「今朝放送された回のゴーオンジャー、ブラックが主人公のお話だったらしくて、お人形が凄い売れてるみたいですよ?」
………。
なんつうプレッシャー……。
でもなんかイイ。
気付けば甘い考えなんか吹き飛んでる自分がいる。
ああ立ってやりますよ!
そういう段取りとかどうでもいい。
今、このショーを見てるこの子達にとってワシは今朝TVの中で戦ってたブラックと同一人物なんやからの!!
やったらいでかッ!!!
単純ながら、俺復活!
本気の声援を受けるとこんなに力が出るとは、正直驚いた。
きっとスポーツ選手なんかもそうなんだろう。
心からの声援はそのまま力になる!
そう実感した。
ショーの後の握手会。
親御さんに抱かれた赤ちゃんから中学生くらいの兄ちゃんまで、沢山の子供達がワシの手を握って少し照れながら手を振ってくれる。
その中で、幼稚園くらいの女の子が握手をしながらこう言った。
「これからも頑張って下さい!」
それは当然ながらスーツアクターとしての自分に向けられた言葉ではなかった。
彼女の中でワシは確かに地球を守るヒーローだったのだ。
ふと、自分の幼少期がフラッシュバックする。
これは偽物とわかっていながらも目の前に現れたヒーローに心ときめかせ、声援を送り、握った手に照れ臭さと嬉しさを感じたあの頃の自分。
なぜか涙が込み上げてきた。
凄く嬉しかった。
女の子の頭を撫でてゆっくりと頷く。
少し零れた涙が空気穴から落ちないように調整するのが大変だった。
この仕事やって良かった。

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