■第1節1日目第1試合
日立ソフトウェア 001 000 0 1 8安打2エラー(0勝1敗)
太陽誘電 000 010 1× 2 7安打0エラー(1勝0敗)
○庄子麻希(6三振・7四球・自責点1・141球)--山路典子
●遠藤有子(3三振・2四球・自責点1・94球)--鈴木由香
本塁打:上西晶(誘電) 2塁打:森下、馬渕(日立ソ)
薄日が差しながらも、細かい雨が落ちている。桜前線がようやく到達したばかりの岩手・金ヶ崎は、4月下旬とはいえ気温は体感3度くらいの寒さ。岩手での開幕は、選手には厳しい条件となった。特に投手は念入りにアップし、寒さでかじかむ手に何度も息を吹きかけていた。
試合前の選手の顔が強張っている。どんなにベテランになっても、開幕戦は独特の緊張感に包まれてしまうものだと、異口同音に選手たちはいう。22試合の最初の試合となる、開幕戦。オフの間に積み上げてきた練習の成果が、どんなカタチで表れてくるのだろう。
「試合前はドキドキするくらい緊張するんですけど、その緊張って決して嫌なものではないんです。ああ、始まるんだっていう、充実感みたいな。で、始まってしまえば、試合の中に入っていけるから。集中してるんで、もうやるしかないっていうモードになってしまうんです」
昨年まで、その只中にいた伊藤良恵が、ルネサスの応援席に向かいながらなつかしそうに話してくれた。グラウンドで戦うものだけが知る、試合前の特別な時間。この高揚感や緊張感がまた、自分以上の自分の力を引き出してくれることもあるのだ。
試合前に恒例の選手紹介。ルーキーより初々しくその場で自分の名前が呼ばれる瞬間を待っている選手がいた。
日立ソフトウェアの新31番、田本博子。今季から専任のコーチとなった。
選手であれば名前をアナウンスされ、グラウンドに飛び出していくタイミングはわかりやすいが、コーチというのはいったいいつ名前が呼ばれるものだろう。見ているこちらまで「田本博子」というアナウンスに耳を傾けてしまったが、第一試合ということもあり、紹介する係もとまどっていたようだ。選手の名前を呼び終わると、間が空いた。あらら、スタッフの紹介は省略か?すると、しばらくして監督の名前が呼ばれた。「よし、次は自分や」
「コーチは…」
のアナウンスに、田本は元気よくグラウンドに飛び出して、観客席に元気よく大きく手を振った、その瞬間…
「コーチ亀田悦子」
と兼任コーチの名前が先に呼ばれて、思わずガクッ。再度、今度は自分の名前が呼ばれて、なんだか、笑いをとったカタチになってしまって、照れ笑いしながら改めてあいさつしているのが下の写真。
さすが関西人。さすがタモさん。何かしてくれる。
田本コーチのおかげで、若い選手たちの痛いくらいの緊張感が緩和された。もしかしたらその効果を狙ったのかも?新キャプテン馬渕を筆頭に、みんなが笑顔になった。
「さぁ、みんな、1年の始まりだっ」
試合は1回の攻防から、両チームとも無死で先頭打者を塁に出し、2番が確実にバントを決めて送ったが、得点にはいたらずというスタートとなった。今日の試合の展開を彷彿させる出足か。
日立ソフトウェアは昨年までトップにいた山田が3番となり、1番西山、2番来條、山田、馬渕、森下、亀田、鈴木、杉山、田中というオーダー。
一方、太陽誘電は今季、浦野監督が「成長してくれた松崎と上西の活躍に期待したい」と明言していたように、これまでの下位打線から、二人を1、2番に起用。松崎、上西は日本1部リーグ唯一のスイッチヒッターとしても知られている。スイッチーな2人が何を見せてくれるのか。
3番水谷、新井、中越、廣瀬、山路、永原、佐野というののが太陽誘電のオーダー。
先制点は、日立ソフトウェア。3回表に、制球に苦しむ庄子が先頭の来條を四球で出してしまう。山田はすかさずセーフティバント。山路が「あれは自分がもっとしっかり捕って投げなければならなかった」と反省していたが、山田の渾身のスライディングでセーフ。写真のように山田は小さくガッツポーズ。いろんな思いがこめられているように見えた。
その気迫は4番馬渕に引き継がれた。馬渕は迷いなく初球をセンター前へクリーンヒット。来條が1年の最初の得点のベースを踏んで、日立ソフトウェアに先制点がもたらされた。新YM砲の船出である。
だが、太陽誘電打線も黙ってはいない。打順通りに始まった、3順めとなる5回表。先頭打者の1番松崎が、足を生かして内野安打で出塁。上西のバントは敵失を誘い無死1、2塁。水谷が確実にバントで送って、2、3塁。ここで太陽誘電も4番が確実に責任を果たしてみせる。
1回にもヒット性のあたりを放ち、好調を自認する新井直美がセンターへ大きな犠牲フライ(写真下)。太陽誘電が同点に追いついた。
寒さもあってか、両投手とも調子が上がらないまま、それでもなんとか抑えあって、試合は7回へ。
日立ソフトウェアはこの日、好守で大活躍の馬渕から。
「キャプテンとして、プレーでチームを引っ張る」と宣言した、責任感にあふれた10番は、この回の先頭打者としていきなりセンター前に執念のヒットを放った。果敢に走って2塁打にする。
無死2塁で庄子にプレッシャーをかける。森下がしっかりと送り、1死3塁。亀田は三振。2死となった。ここで庄子が鈴木にストレートの四球を出してしまう。杉山で勝負かとも思ったが、杉山も歩かせてしまい、2死満塁。
ここで斉藤監督が田中に代打を送った。ルーキー
濱本静代。リーグ開幕直前に、全日本のU23に最年少で抜擢された18歳だ。斎藤監督はなにやら策を伝えているが、この対決は庄子が三振というカタチで制した。
思い切りのいいスィングで向かっていった濱本。大きく育ってほしいという期待をこめて、斎藤監督はあえて大事な場面でデビューさせたのだろう。
7回裏。太陽誘電に分があった。今日、いいカタチで機能している打順トップからのスタートなのだ。山路が7番にいる太陽誘電のオーダー。
「いつまでも自分がクリーンナップにいちゃいけないんですよ、今のチームには」
今季から全日本を離れてチームに専念している山路は「それでも、今のチームはやれるんです」という信頼をこめて、7番という打順を受け持っているように感じた。長い間、全日本にかかりきりとなり、チームを十分に指導してこられなかったという思いもあり、浦野監督とともにコーチとして、今年はチームを西京極へと連れて行きたいという思いが強い。
即戦力の呼び声が高いU23メンバーでもある、大卒ルーキーの後藤投手が加わった4枚看板の投手陣。全日本のスタメンサードの廣瀬、日本を代表するロングヒッターの新井、確実に4番、5番としての力を身につけている中越、試合巧者の水谷、安定した力を発揮できる永原、伸び盛りの21歳佐野、代打の切り札・前田。前述の松崎、上西のスイッチヒッターコンビの躍進。
山路を7番における太陽誘電は、相手投手からしても脅威の打線だろう。
そして7回裏。NEW誘電の新オーダーが期待以上のカタチで初勝利をもたらした。トップの松崎はサードゴロに倒れたが、2番の上西が2球目をフルスイングしたら、ボールがぐんぐん伸びてセンターのフェンスを越えていったのだ。
絵にかいたように、その場にいた全員といっていいくらい多くの人が、口をあんぐりとさせて、その打球を見送った。
前の打席には右で入っていた上西が、その打席では左に入ったため、足を使ったバッテングで生きるつもりなのだろうと、私は思い込んだ。おそらく、ホームランをあの場面で予測していた人はいなかったに違いない。新井まで回ったら、久し振りにさよならホームランが見られるかなと、私も正直なところ思っていたのだ。そして不覚にもカメラの電池を入れ替えた瞬間に、今季リーグ初のさよならホームランは誕生したのだった。
(上西さん、貴重な1枚が撮れなくてごめんなさい。)
「最初はライナーだと思って、夢中で走っていたんです。セカンドベースを過ぎたらやっとホームランだとわかって、自分でもびっくりしました。とにかく塁に出ることだけ考えていましたから、ストレートのボールが真ん中にきたんで、思い切り打ちにいったという感じです。公式戦では初めてのホームランなんですよ!」
実はチームにはこの日、どうしても勝ちたい理由があった。
「今日はヒロ(廣瀬)の誕生日だったから。勝って祝いたいねってみんなで言ってたんです」。
廣瀬に夙川高校時代からの同期である上西が、勝利をプレゼントするという結果になった。
日立ソフトウェアには、昨年の第二節に、馬渕からさよならホームランを喫したという借りがあった。1年後にそれを返した太陽誘電が、2年連続5位から、8年ぶりへの4強へと、大きな一歩を踏み出した。
辛くも勝利投手となった庄子は、試合後に感謝の言葉を、繰り返し口にした。
「自分が最悪の内容だったんで、本当にみんなに勝たせてもらったという感じです。練習では悪くなかったんですけど、始まったらなんだか散漫になってしまって。やらなきゃいけないことが全然できなくて、迷惑をかけてしまいました。4回の表がひとつの山でしたね。無死満塁で来條選手に打たれたときは、やられたと思ったんですが、2塁ランナーにその打球が当たってアウトになった。もしあれが抜けていたら、大量点が入っていましたから。いつもは自分が抑えて、打ってもらって勝つという感じでしたけど、今日は全面的に助けてもらってしまった試合でした」。
苦しみながらの開幕戦1勝は、太陽誘電にとってもあとでぐっと重みのある財産となるはずだ。上位同士の直接対決の結果は、最終節になるほど意味を持ってくるからだ。
一方惜敗した日立ソフトウェアは若い選手も多く、こうした好勝負の1試合、1試合がチームを確実に育て上げていくだろう。4強の常連チームは秋に向けて確実にチーム力を高めることに長けている。
新井選手はベンチであたまから防寒着をかぶって震えていた。この日の寒さを象徴するような一枚だ。
■日立ソフトウェアの公式サイトに
試合のレポート

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