14日の「愛と平和の詩Vol.3」
狭いシティウエストはお客さんで一杯だ。今回の出演は初ユニットのパルナス田仲&井上徹、ピアノ弾き語りの寿山 智美さん、前回も出てくれた歌続。リハでは短い時間だけどみんなそれぞれの持ち味を出している。俺もリハを終えてみんなの演奏を聞いていた。俺の携帯がなった。
「あ、もしもしたがみくん、洋一郎です。お久しぶり。見にきたんやけど場所どこなん?」
「え?洋一郎って小川洋一郎君?(・・マジかよ!)すぐ迎えに行きます。ちょっとそこで待っといて」
井上徹と顔を見合わせた。
「小川君や」
「洋一郎か?えっ、マジか?」
「マジや。迎えにいってくるわ。やべ〜緊張してきた」
小川洋一郎氏。伝説のバンド、キングサイズ、ゴールドラッシュで暴れまくり、様々なバンドに参加し数々の伝説を作ったロッカー。とよだがゴールドラッシュ時代に一緒にやっていたベース、ヴォーカル。
昔、何回か一緒にやらせてもらった事がある。バナナホールで「たがとよスペシャルバンド」のベースで参加してくれて、ステージ上でベースを歯で弾いていた。体中からほとばしるオーラ。フロントに立つものだけが放つスター性。それはとよだを軽く上回っている。めっちゃカッコよかった。リハでも彼がそこにいると、鬼も裸足で逃げ出したくなるような凄い緊張感。
俺の中では正直言ってこりゃ勝てんわと、唯一びっくりさせられたカリスマでもある。その小川君が俺のソロを見に来るらしい。正直いって勘弁してくださいよ、こりゃ下手なことできんやんか。えらいプレッシャーやな。久しぶりに会える嬉しさと緊張感を抑えながら迎えにいった。
・・・居った。向こうから真っ赤なアロハを着た、サングラスに長髪の怪しい人が手を上げて近づいていた。周りに近寄りがたいオーラをプンプン撒き散らしている。
「いや〜久しぶり、どうしたん?」
「淳ちゃんに聞いてたがみくんの歌、聴きにきたんや」
「今日はバンドじゃなく、俺のソロやで」
「そうや、期待してるで!」
・・・ちょっと待ってくれよ。いきなりプレッシャーやんか。いや、こんなことで動揺しとったらあかん。ちゃんと自分のステージをやればええんや。大丈夫や。とりあえずガツッとバーボンでも飲んどこ。
店に着くともうお客さんがいっぱいだった。懐かしい顔のお客さんもたくさん来てくれていた。そして音楽仲間も来ていた。御大の元ヒポポの青木さんも小川君との再会を懐かしがっていた。小川洋一郎、青木さん、ほうぼう、そして田仲さん、井上徹、豊田淳一。周りは怪しいミュージシャンだらけだ。その場所だけ異様な空気になっていた。もちろんPAのお姉ちゃんもそこに溶け込んでいる。みんな昔の知り合いだった。
おっと懐かしがってる場合じゃない。今日はライブなんや。しかもソロやし。ちゃんと良いライブせんとみんなに笑われるで。それよりもいつものように、平常心で、お客さんにちゃんと伝わるように。
トップの田仲さんと井上徹のユニット。本番、一曲目、いきなりパルナスさん、やってくれました。歌い出しの次の弦の音が完全に外れている。そんな馬鹿な?チューニングミス?きっと本番前に急いで弦を換えたからきちっと弦が伸びてなかったのか?これは二人とも慌てるわな。何とか取り戻せ。
徹ちゃんがめっちゃ緊張している。そりゃ緊張するやろな。いつもはバンドで、しかもステージ上から演奏しているのでお客の顔がよく見えない。ここはフラットなので目の前にお客の顔がある。徹ちゃん、これも修行ですよ。しかし緊張のあまり無難に安牌ソロを弾いている。リハより音が小さいし暴れていない。
でもなんとかオッサンの渋さとテクニックを見せながら無事終了。関西フォークとサザンロック。変なオッサンブルースバンドじゃなくって、持ち味の出た良い感じにまとまっていた。
続いてピアノの弾き語り。寿山さんの透きとおるようなヴォーカル、切々と歌い上げるバラード。今回はレベルが高いな。女の子は得やな。とくに、パルナス田仲&井上徹のオッサンチームの後やからよけい際立って見える。
そして歌続。前回も出てくれたけど、今回バッチリやってきましたって感じ。対抗意識むき出し。気合入れまくり。いや、そんなに気を張らんでも。でもミスもなくきちっと自分のステージをこなしていく。ちゃんと自分を主張している。やばいな、またレベルが上がった感じだ。
最後は俺の出番。実は今日やる曲を本番前に変えた。歌っていると店の後ろの方から凄い視線とエネルギーを感じる。ちょっとみんなを意識しすぎか。自分ではいつもどおりの出だし。よくわからんけど、俺、緊張してるのかな?
うん?大丈夫やで。いつもどおりや。今回はまず新曲を2曲。そのうちの1曲は、昔あるイベントから依頼されて書いた詩だ。出演者、参加者全員で歌うテーマソングをと依頼され、心を込めて書いた詩。なのに大阪中の養護施設に収益を寄付し、永遠に続けるからと固く約束されたそのチャリティ?イベントはなぜかもう行われていない。その歌も結局そのイベントの消滅とともに捨てられたままになっていた。
俺は捨てられた俺の詩に自分で新しく曲を付けて生き返らせた。俺の大切な詩を俺が大切に歌う。次のライブも。その次のライブも。もう2度と大切な詩を簡単に人にあげたりはしない。いつまでも大切に歌ってくれる人にしか詩を提供しない。だってその詩は俺の言霊だからだ。
ライブは順調にすすむ。でもうまくみんなの顔が見えない。あら?俺、どこ向いて歌ってるんやろ?いつもならお客さん一人ひとりの顔を見ながら歌えるのに。そして歌は全然歌えてるのになぜか上手く話せない。やはりどこかで何か意識してるのかな。
まあ、落ち着いて。とりあえずお約束の1曲だけとよだでも呼び出すか。とよだと滅多にやらない曲。「眠れない町」をやった。いつも「たがとよ」でやりたがる、とよだが大好きな曲だ。この曲だったらとよだとリハをしてなくても大丈夫やろ。
あれ?とよだがビビッてる。あれ、とよだの音が聞こえない?コーラスがはずれてる?ギターがはずれてる?終いにこいつ、ギター弾いてない!面白いな。とよだも小川洋一郎の前では蛇ににらまれた蛙になっていた。
ラスト。ソロで愛と平和の歌。これで大丈夫やろ。いつも心をこめて何回も歌っている曲。間違えようがない。この歌を歌うためにここに居る。全力で歌いあげよう。
あ、ありゃ、噛んだ。歌詞噛んだ。また噛んだ?なんでや?
・・・あれ、俺、ちゃんと大きく口を開けてないわ。
あらま〜、俺としたことが何やってんだろう。こんなヴーカルの基本みたいなことを忘れてるなんて。しかも今頃気づくなんて。やっぱり知らん間に舞い上がってたんやな。
無難にライブはこなせたけど、これじゃまだまだやな。お客さんに納得して喜んでもらえるようになるまでまた勉強し直しだ。またええ勉強になりました。平常心。次回の目標が決まった。
そして打ち上げ。小川君、青木さんをはじめ、みんなで酒を酌み交わす。ビールが焼酎がどんどん空になる。そしてやっぱり音楽の話で盛り上がる。その場所だけ異様な空気に包まれている。熱い。みんな燃えている。いくら年を重ねても熱いやつらはやっぱり熱い。みんな全然変っちゃいない。
最後は小川洋一郎と井上徹と豊田淳一、そして俺の四人で飲みなおしに行った。今まで出会ったミュージシャン、そしてジャンキー、アル中ーになって逝っちゃた何人かのミュージシャン達との思い出。いろんな話をした。夜も適当に更け全身にアルコールがまわった頃、小川洋一郎が急に言った。
「バンドやるぜ!」
「みんなでバンドやろうぜ!もう俺も寝たふりも限界や!井上さんも、淳ちゃんも、たがみさんも、全員で。タイコはりょうくんとショウビーのツインや、なんなら氏長つれてくるど。よし、まずバンドでクニの歌をやる!!」
げー!本気や!
やばい!目に異常な光が宿っている。
正直言って、俺も、とよだも、徹もびびった。ほんまにやるんやったらよっぽど根性入れ直して本気でかからんと。恐怖の小川塾は半端じゃないもんな。めっちゃ凄いもんが出来そうやけど、きっと命を縮めてしまうかも。・・・それもええけどな。しかしバンドでクニの歌をやるって、洋一郎さん、またそんな無茶苦茶な。
ついに眠れる獅子を起こしてしまったか?
たった一言で俺達を凍りつかせてしまった。
・・・さすが伝説のカリスマや。