犬の属する犬科は、森林から開けた草原へと生活の場を移して追跡型の狩猟者となった食肉類のグループである。待ち伏せ・忍び寄り型の狩りに適応したネコ科の動物に対して、犬科の動物は、細長い四肢など、持久力重視の走行に適した体のつくりをしている。
また、犬は古くから品種改良が繰り返されて、人工的に改良された品種には、自然界では極めて珍しい難産になるものも多く、品種によっては、出産時に帝王切開が必要不可欠となる(主にブルドッグ)。
犬の 鳴き声
日本では一般的に「ワンワン」と聞き做される。そのため、その鳴き声から犬のことをワンちゃんやワンコやワン公とも呼ぶ。また英語圏では「bow-wow(バウワウ)」「bark(バーク)」「howl(ハウ)」など、ロシアでは「Гав-гав(ガフガフ)」、中国では「ワンワン(汪汪)」、韓国では「モンモン」と鳴くとされる。
犬の 骨格
犬の歩き方は、指で体を支える趾行(しこう)性で、肉球(4つの指球(趾球)と1つの掌球(蹠球))と爪が地面につく。爪は先が尖っており、走るときにスパイクのような役割をする。ただしネコ科のものほど鋭くはない。爪を狩りの道具とするものが多いネコ類とは異なり、犬科の動物は爪を引っ込めることができず、各指は広げることができない。ネコ類と同じく、第3指(中指)と第4指(薬指)の長さが同じである。後肢の第1指(親指に相当する)は退化して4本指の構造となっているが、たまに後肢が5本指の犬もいる(こうした犬の後肢の第1指「狼爪」と称する)。前肢は5本指の構造となっているが、やはりその第1指も地面には着かない。
前肢はほとんど前後にしか動かず、鎖骨は失われている。逆に股関節は、靭帯による制約が少ないために、他の家畜類に比べて可動性が広く、後肢を頭を掻くのに用いたりし、また、雄は排尿時に高く持ち上げるが、陰茎の位置からして大型犬のほうが有利ではある(雌はしゃがんで少し上げる)。反面、靭帯が少ないことは、しばしば股関節脱臼を起こす原因ともなっており、高齢犬・著しく体重が増えた犬・大型犬でその傾向が高い。
肋骨は13対で、ヒトより1対多く、走るのに必要な肺と心臓は、体のわりに大きい。心臓はネコ目の他のグループの動物と違って球形に近く、特に左心室が非常に大きい。
尾は走行中の方向転換で舵として働くが、オオカミなどと比べると細く短くなっており、また、日本犬に多く見られるように巻き上がっているものがあるのは、筋肉の一部が退化して弱くなっているためである。
また、犬は陰茎に陰茎骨をもつ。
犬の 歯
歯式は 3/3・1/1・4/4・2/3=42 で歯は42本(21対)あり、32本(16対)の歯をもつヒトや、28-30本のネコと比べると、あごが長い分、歯の数も多い。ヒトと比較すると、切歯が上下各3本、前臼歯(小臼歯)が各4本と多く、後臼歯(大臼歯)は上顎で2本(下顎は3本)と少ない。ネコ亜目に共通の身体的特徴として、犬歯(牙)のほかに、裂肉歯と呼ばれる山型にとがった大きな臼歯が発達している。この歯はハサミのようにして肉を切る働きをもつ。裂肉歯は、上あごの第4前臼歯と、下あごの第1大臼歯である。食物はあまり咀嚼せずに呑み込んでしまう。
犬の 消化器
犬科グループの他の動物と同様、犬は基本的には肉食だが、植物質を含むさまざまな食物にも、ある程度までは適応する。消化管はそれほど長くないが、腸の長さが体長(頭胴長)の4–4.5倍程度であるオオカミに対して、犬の方は5-7倍と、いくらか長くなっている。肉食獣の中には盲腸をもたないものもあるが、犬はそれほど大きくないものの5–20cm程度の盲腸をもつ。
犬の 腺
犬の耳下腺は、副交感神経性の強い刺激を受けると、ヒトの耳下腺の約10倍のスピードで唾液を分泌する。唾液は浅速呼吸(あえぎ)により口の粘膜と舌の表面から蒸散する。激しい運動のあと、犬が口を開け、舌を垂らしてさかんにあえいでいるのはこのためである。犬の体には汗腺が少ないが、この体温調節法は汗の蒸発による方法と同じくらい効果的であるという。
肛門には肛門嚢(のう)と呼ばれる一対の分泌腺があり、なわばりのマーキングに使われるにおいの強い分泌液はここから出ている。ジャコウネコやハイエナのように外に直接開いてはおらず、細い導管で肛門付近に開口している。なお、犬が雨にぬれたときなどに特に匂う独特の体臭は、主に全身の皮脂腺の分泌物によるものである。
犬の 嗅覚
警察犬の遺留品捜査や災害救助犬の被災者探索等でよく知られるように、犬の感覚のうち最も発達しているのは嗅覚であり、においで食べられるものかどうか、目の前にいる動物は敵か味方かなどを判断する。また、コミュニケーションの手段としても、ここはどの犬の縄張りなのかや、相手の犬の尻のにおいをかぐ事で相手は雄か雌かなどを判断することでも嗅覚は用いられたりする。そのため、犬にとっては嗅覚はなくてはならない存在である。
犬の嗅覚はヒトの数千から数万倍とされるが、その能力は有香物質の種類によっても大きく異なり、酢酸の匂いなどはヒトの1億倍まで感知できる。嗅覚は鼻腔の嗅上皮にある嗅細胞(嗅覚細胞)によって感受されるが、ヒトの嗅上皮が3–4平方センチなのに対し、犬の嗅上皮は18–150平方センチある。嗅上皮の粘膜を覆う粘液層中に分布する、「嗅毛」と呼ばれる線毛は、においを感覚受容器に導く働きをするが、犬の嗅毛は他の動物のそれより本数が多く、長い。嗅細胞の層も、ヒトでは一層であるのに対して、犬では数層になっており、ヒトの500万個に対し、2億5千万から30億個あると推定されている。鼻腔の血管系もよく発達している。ヒトが顔や声について特別な記憶力をもつように、犬は匂いについての優れた記憶力をもっている。犬を含む動物群の鼻先のいつも湿っている無毛の部分を「鼻鏡」と呼ぶが、これは風の向きを探る働きをすると考えられる。
犬の 聴覚
犬は聴覚も比較的鋭い。また可聴周波数は 40–47,000 Hz と、ヒトの 20–20,000 Hz に比べて高音域で広い。超音波の笛である犬笛(約30,000 Hz)は、この性質を利用したもの。聴力には、犬種による違いはほとんどみられない。
犬の 視覚
犬の眼には、赤色に反応する錐状体の数が非常に少ないといわれ、明るいときには、赤色はほとんど見えていない可能性が高い。色の明暗は認識できるが、全色盲に近いと考えられている。信号機だけは識別できるとされていたが、実はこれも灯火の点灯順序と人間の動きを関連づけて倣っていたに過ぎない事が確認されている。ネコやキツネの瞳孔が縦長であるのに対し、犬の瞳孔は収縮しても丸いままである。視覚は犬種によってかなり差があることが知られている。もっとも、最近の研究では、尿と同じ色の砂糖水は飲まないという実験結果が報告され、人間ほどではないものの、犬も色彩を認識できるのではないかという説も唱えられるようになった。また、動体視力も優れているため、テレビ画像などはコマ送りにしか見えていない。
犬の 出産と成長
メスの発情周期は7–8か月だが、犬種により差がある。妊娠期間は50–70日。3–12子を一度に出産するため、乳房を左右に5対持っているのが一般的である。6-12か月で成犬の大きさになり、その後2–3か月で性的に成熟する。これはオオカミの2年に比べて早熟である。小型犬は成犬に達するのが早い分、性成熟も早い。
犬の 寿命
犬は10歳になると老犬の域になり、12歳から20歳程度まで生きる。ただし犬種や生育環境によって異なり、基本的に大型犬の方が小型犬よりも短命である。また、いわゆる座敷犬(家屋内に飼われている犬)よりも、屋外で飼われている犬の方が、短命な傾向がある。一般的には、純血種よりも雑種の方が長命である。また、1年に人間で言うならば6歳程度年を取る。
転じて年単位で数年分に匹敵する急速に発達した科学技術(パソコン・携帯電話等)を指して「ドッグイヤー」と呼ぶことがある。
犬の 分布
犬の染色体は78本 (2n) あり、これは38対の常染色体と1対の性染色体からなる。これは同じ犬属のオオカミ類、ジャッカル類、コヨーテ類、ディンゴなどとも共通である。これらの種は交配可能であり、この雑種は生殖能力をもつ。ただし、これらは行動学的に生殖前隔離が起こり、また地理的にも隔離されている。ジャッカル類は主にアフリカとアジアに、コヨーテ類は北米に分布する。
また、オーストラリアとニューギニア島に生息するディンゴは、約4,000年前に、人類によって持ち込まれた犬であり、かつては別種とされていたが、現在はイエ犬とともに、タイリクオオカミの1亜種とされている。
犬の 社会性
犬の特徴としてヒトと同じく社会性を持つ生き物であることが挙げられる。意思疎通をするための感情や表情も豊かで褒める、認める、命令するなどの概念をもっている。ヒトに飼われている犬は、人間の家族を、自身をその一員とする1つの群れと見なしていると考えられとてもよく懐く。上位の群れ構成員に対して忠実に行動する習性のおかげで訓練が容易く、古来よりヒトに飼われてきた。一説によると最古の家畜である。
犬の 知能
品種によっては優れた学習能力を示す。他の犬に対し関心を示し、威嚇する行動を取る品種とそうでないものがある。この好奇心の強弱は、ドーパミン受容体D4遺伝子の多型領域の配列と関係があると言われている。他の犬への関心の示し方、攻撃性は躾によっても抑えることはある程度可能である。