「引っ越しちゃうのよ〜。もっと早くこの店、気がつけばよかったわぁ〜」
ミチコさんはそう言った。
でも本当はミチコさんじゃない。
ショートカットでハキハキしたおばさんだった。
今新居を建てているところだそうで、いろいろインテリア関係を探していると言っていた。商品を取り置きして、次回来店時にまたちがう商品を取り置きして・・ということが何回か続いた。
引っ越し前に集中して来てくれたようだった。
気になったのはまずTシャツだった。
毎回変わったTシャツを着ていた。
例えば、立川一門。談志師匠の顔が印象的。
あわせるのは、いつもピタピタのスキーパンツみたいなスパッツ。
来てくれるたびに、ミチコさんはランチを食べていってくれた。
一人でも雑誌を読む訳ではなく、何かを書いていた。
「よかったら・・」と言って、帰り際に手渡してくれたことがあった。ちょっとドキドキして広げてみたら、彼女が座っていたメキシコ製スツールの花柄がアップで絵手紙風に描いてあった。
コレを私にどうしろと・・・。
ある時、やはり何かを描いている風だった。
ミチコさんが帰ったあとテーブルを片付けていると、すみっこにびりびりに引き裂かれた紙が置いてあった。
何かが描いてある。気になって、ジグソーパズルのようにつなげてみた。
見た事のないおばさんの顔が現れた。
「みちこさん」
と書いてあった。
その時が最後の来店になってしまった。
新居が完成して引っ越してしまったのだ。
ミチコさんはどーして「みちこさん」を破いてしまったのか、名前まで書き添えておきながら何がそんなに気に入らなかったのか、もうわからなくなってしまった。
ミチコさんは本当はミチコさんではないけれど、私達にとってはもう
ミチコさん以外名前は考えられなかった。
彼女が描いた「みちこさん」をセロテープで修復したのは私だが、ちょっと後悔した。
だって捨てられないんだもん、なんか怖くて。

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