「ダーク」上下巻 (講談社文庫)
上 ISBN 4-06-275385-5 ¥580 (税込)
下 ISBN 4-06-275386-3 ¥600 (税込)
☆☆☆★★★
2002年、桐野夏生は、ミロシリーズに決着をつけるべく新作を発表。
これが、とんでもない作品で、ぶったまげてしまいました。(笑)そもそもこのシリーズを記事にしようと思い立ったのも、この最終作「ダーク」ゆえ。
第1作目「顔に降りかかる雨」で、愛していながら、警察へひきわたす事になってしまった男の出所を、ミロはひそやかに待ちつづけていた。しかし、その彼は何年も前に獄中自殺をしていた事がわかる。
「私の中の何かが死んだ」と感じたミロは、事実を隠匿していた義父の善三を殺しに行く決意をする。
何かと協力していてくれていたゲイの隣人の友部。善三の内妻の盲目の女性、久恵。幼い頃から知っている善三の親友の老ヤクザ、鄭。周囲に災厄を撒き散らすミロを誰もが命がけで追い始める。
40歳になったら死を選ぶ決意をしたミロは、在日韓国人になりすまし、韓国へと逃亡。偽ブランド品を手がける現地の男と愛人契約を結ぶが、追っての手は間近に迫っていた・・・。
とにかく、「ローズガーデン」までで築き上げてきたこのシリーズの全てを、完膚なきまでに破壊しつくした作品で、作家・桐野夏生のマゾヒズムもここに極まれり!といった感じの作品でした。ホント参りましたよ。(汗)当然、発表後、ファンからのブーイングも少なからずあった様でした。しかし、ブーイングする人達には、桐野夏生っていう作家が理解できていないと思う。
やっぱり、女性って男性よりず〜っと残酷だよ。男性作家だったら、このシリーズにあったロマンや、美学を壊す事は絶対にしないと思う。とにかく、ミロの知人は全員が彼女を裏切るし、ミロ自身も、彼女を支えてきたものを全てぶち壊した挙句に、新しい生き甲斐となる男も手に入れる。40歳になったら死ぬっていう決意もどこへやら。私は、義父の善三の惨めな死に様が辛かった〜。(涙)
圧巻は、レイプされて殺した男の子供を出産する終盤のシーン。殺した男の親族からの復讐をかわす切り札としてミロは出産するが、その子とともに生きていく決心をする。やがてその子に憎まれる運命を楽しみにするミロ。愛した男の出所を心待ちにしながら・・・。って、どういうお話なんだ〜!
さすがは「グロテスク」の作者だと思いました。人間の心の闇と残酷さをこれでもかと描いていく彼女の世界の壮絶さ。爽快感のかけらもない作品です。読み終えて心に大きな黒い塊を感じながらも、忌むべき出生の秘密を持つ子供とともに生きていく決意をする、晴れ晴れとしたミロの表情が目に浮かぶのでした。

7