NHK・BSでロマン・ポランスキー監督の初期の作品3本が放映された。長編処女作の「水の中のナイフ」から3夜連続放映。
その後に続く彼の作品群の原点が見る事が出来て、また映画作家としてのその特異な才能も堪能できた3作品でした。
「水の中のナイフ」
Noz W Wodzie
1962年/ポーランド (演)レオン・ニェムチック ヨランダ・ウメッカ
☆☆☆★★
倦怠期を迎えている夫婦が、ヨット遊びに湖へ向かう途中でヒッチハイクの青年を拾う。夫婦は彼はヨットへ誘うが、ふとした事が原因で夫ともみあいになり青年は湖に落ちてしまう。死んだと思った彼は実は生きていて、先に泳いで帰った夫のいないヨットの上で妻と青年は肉体交渉を持ってしまうが・・。
彼の処女作であり故国のポーランド作品。ヨットの上での3人の密室劇で、人間関係の危うさを描いた作品だと私は解釈した。若者の存在は、夫の若き頃の姿であり、青年も又疲弊した中年へと変貌するであろう事を予感させて映画は終わる。
「反撥」
Repulsion
1964年/イギリス(演)カトリーヌ・ドヌーブ イアン・ヘンドリー ジョン・フレイザー
☆☆☆★★★
精神衰弱気味のドヌーブは、同居している姉が愛人とともに旅行へ行ってしまい家に一人取り残される。男性恐怖症の彼女は、やがて精神に異常をきたし、殺人を犯した上、ついには発狂してしまう。
ポランスキー渡英後第1作目。この作品は凄かった。ドヌーブの熱演も凄い。エステティシャンとして働く美しいドヌーブが、やがて妄想にとりつかれ、どんどん狂気の世界へと落ち込んで行く過程の描写が見事です。誰かがレビューで、ポランスキーはデビッド・リンチに大きな影響を与えた様な事が書いてありましたが、よく理解できます。リンチ作品の中で見た様な描写がたくさん出てきます。このサスペンス感はやがて「ローズマリーの赤ちゃん」に引き継がれて行くのです。
「袋小路」
Cul-De-Sac
1966年/イギリス(演)ドナルド・プレザンス フランソワーズ・ドルレアック ライオネル・スタンダー
☆☆☆★★★
全財産を投げ打ってウォルター・スコットが住んでいたという11世紀の古城を入手し、若い妻と新婚生活を過しているD・プレザンスのもとに、負傷した二人のギャングが入り込んでくる。まったく意気地のないプレザンスは、ギャングの言いなりだが、妻は反抗的態度をとり続ける。そしてやがて破綻の時を迎えるが・・。
途中で訪ねてくる友人一家の描写も含めて、登場人物達の中で、最も人間性が豊かなのはギャング達だというところに、この作品の一つのテーマがあると私は感じた。この作品もサスペンス性豊かでありながら、決してアメリカ映画の様な通俗サスペンスではない。
3本の作品を通して伝わってくるのは、ポランスキー監督の絶対的な人間不信の感覚だ。登場人物達は、非常に利己的で、悪魔的でもあり、人間がいかにうわべの顔だけで、お互いがつながっているかという事をこれでもかという位に描写してくる。
「戦場のピアニスト」の公開で、多くの人に周知される事となりましたが、ポランスキー監督はユダヤ系のポーランド人で、戦時中ナチスによって強制収容所に入れられた。両親はアウシュビッツで死亡。何とか脱走して逃げおおせた彼は、父方の親戚に育てられる。この経験が彼の諸作品に影響しているのは間違いないと思う。
1969年には妻のシャロン・テートをマンソン・ファミリーに虐殺されている。70年代には13歳の少女と性的関係を持った罪でアメリカを追われてしまった。
彼にはどこまで暗い事件がつきまとうのだろう・・。しかし、その度に秀作を発表する彼の芸術性は本物だ。「戦場のピアニスト」で初のアカデミー監督賞受賞。これからのポランスキーはどういう作品を発表していくのだろう?とふと気になりました。

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