大空のサムライ
坂井三郎 著 講談社+α文庫
上巻 死闘の果てに悔いなし ISBN 4-06-256513-7 ¥880(本体)
下巻 還らざる零戦隊 ISBN 4-06-256514-5 ¥880(本体)
☆☆☆☆
数年前、私がペーパーバックの担当をしていた時に入荷してきて、日本人、外国人を問わず結構売れているな・・と思った1冊の本。
"SAMURAI" Saburo Sakai
さかいさぶろうって誰?と思って調べたのが私にとっては彼を知るきっかけでした。坂井三郎。零戦のエース。「へ〜、日本軍にこんな人がいたのか・・・。」と、たくさん仕入れてポップを
たてて展開してみたところ、売れる!第二次大戦関係の書籍も集めてコーナーをつくってみたのが懐かしい思い出です。残念ながらこの英語版は絶版。その他、世界各国語で出版され、血も涙もない冷徹な魔物の様に思っていた零戦パイロットの生身の姿が描かれた作品として好評をはくしているそうです。
で、ずっと気になっていたオリジナルを今回読んでみました。
彼は16歳で海軍に入隊。航空隊のテストに合格し、戦闘機の操縦士となる。飛行機操縦のための練習時代からはじまって、最後の硫黄島での戦いまで、あますところなく戦闘機乗りとしての彼の戦いと苦悩が描かれた作品で、この手のジャンルの書籍としては名著と言って良いと感じました。
反戦だとか、好戦だとか、かやの外から口にするのは容易い事だ。ガダルカナルの空戦で大ケガをして、一度内地に戻された時、血だらけの包帯のまま電車にのった彼を、まわりの人が遠巻きにして嫌な顔をするシーンがある。彼自身は「落ち武者の気分とはこういうものか・・。」と述懐しているのだけれども、自らが行動を起さず、現状を理解できていない一般人とはいつの時代でもこういうものなのだな・・と思い、自身のことも省みてイヤな気持ちになった。
米軍機との死闘のシーンも含め、(1機のロッキードの爆撃機に遭遇した時、珍しい!と零戦隊がアブの様にたかるシーンなど凄まじい。)、最も印象に残るのは、ガダルカナル上空で頭と目をやられながら、何とか生還してくるところ。彼は、自身の最期を感じ、いつも打ち落としているグラマン機に打ち落とさせてやろうと決意し、敵機を探すが、見つからない。そんなこんなのうちに無事に生還してしまう。
200回以上の出撃で、全て生還。彼は戦死する事なく終戦を迎え、2000年9月に84歳で逝去。「戦争を知らないこどもたち」が、こんなにしてしまった日本という国を彼はどの様に感じていたのだろう。やはり、こんな国にするために仲間は死んでいったのか・・という暗澹たる気持ちだったのだろうか。

5