深海のYrr(イール)
Der Schwarm
フランク・シェッツィング著 ハヤカワ文庫
上巻 ISBN 978-4-15-141170-1
中巻 ISBN 978-4-15-041171-8
下巻 ISBN 978-4-15-041172-5 各¥840(税込み)
☆☆☆★★★
高校生の頃、テレビで故カール・セーガン博士の科学番組「コスモス」が放映された。この番組がその後の私に与えた影響は計り知れない。地球、生命、宇宙の神秘に目を見張り、まさに宗教的開眼みたいなショックを受けたものでした。その後、セーガン博士の著作は全て読破。アメリカのSETI(地球外知的文明探査)の存在を知ったのもその頃でした。
しかし、深海に潜む未知の生命体とのコンタクトは、どの様にとれば良いのだろうか・・?
この作品はドイツで大ベストセラーとなった、海洋を舞台とした壮大なエコ・サスペンス(ドイツではそう呼ばれているらしい)小説です。原題の"Schwarm"とは「群れ」という意味。
ノルウェー海で発見された無数のゴカイ。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、ゴカイ達は海底でメタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船をクジラやオルカの群れが襲い、生物学者アナワクが調査を始める。さらに世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。母なる海に何が起きたのか? 自然が人間に対して牙をむきはじめ、ヨーロッパの都市機能が失われる中、ついにアメリカが立ち上がる。しかし、アメリカも無数のカニの襲撃を受け始め・・・。
それぞれが500ページ以上ある3巻もので、かなり読み応えがありました。出だしの部分は、何だか人間描写に魅力が感じられず、小松左京の「日本沈没」みたいに、やたら科学的解説が多くて読みづらく、「失敗したかな・・。」なんて思ってたのですが、いよいよ自然の襲撃がはじまってからの迫力は凄かったです。特にアメリカを中心としたプロジェクト・チームが立ち上がった後は最大の見せ場になっていて、久し振りで徹夜してしまいました。(笑)
ドイツにこんなに面白い娯楽小説があるとは意外でしたが、世の中がグローバル化してきた証の様な作品でもありました。しかし、登場人物にはドイツ人はいないんですよね。すでに映画化が決定している様ですが、恐らくハリウッドでの映画化になるだろうな〜。これは凄いお金かかりそうだもの。映画と言えば、著者はかなりのアメリカ映画好きらしく、あちこちにアメリカ娯楽映画のタイトルが出てくるのが、ちょっとはなにつきました。あ〜あ、ハリウッド映画の力は恐ろしいよ。み〜んな、アメリカナイズさせてしまう。
この作品は、ドイツで数々の文学賞に輝いた様ですが、著者自身も一番嬉しかったのは、「ドイツ地球科学者協会賞」を受賞した事らしい。シェッツィングはこの作品のために4年の調査を行ったとの事。確かに地球科学分野に関する膨大な説明がこの作品には含まれていて、著者曰く”地球科学界のオスカー”を手にした彼はさぞかしご満悦だった事だろうと推察します。
読書の時間がなかなかとれなかった事もあって、読了までに何と1ケ月近くかかってしまいましたが、読んで良かったなと思える作品でした。ドイツ語原書も売れてます!

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