5月の黒澤特集は、「野良犬」以前古い作品がメインでした。まとめて紹介させていただきます。
「姿三四郎」
1943年 (演)藤田進 大河内伝次郎 月形龍之介 轟夕起子 志村喬 高堂国典
☆☆☆★★★
黒澤監督の記念すべきデビュー作。時は戦時中で、ドイツ、イタリアが降伏した年で、日本の戦況が悪化の方向へ向かっていた頃の作品。「姿三四郎」は講道館館長の嘉納治五郎と、講道館の四天王の中の最強の一人であった西郷四郎をモデルにして書かれた小説。三四郎に藤田進、館長の矢野正五郎に大河内伝次郎。明治時代の風俗描写、柔道発足当時の精神の描写などが心に残るが、何と言っても秀逸なのは、ラストの決闘シーン。一流の娯楽映画作家、黒澤明の原点を感じられる作品でした。戦後、ほとんどセリフのない老人役で頻繁に姿を見せていた高堂国典(こうどうこくてん)は、今回和尚の役で重要な役回りだったのですが、お芝居上手いのよね〜。びっくり。
「続・姿三四郎」
1945年 (演)藤田進 大河内伝次郎 月形龍之介 轟夕起子 河野秋武 高堂国典 宮口精二 森雅之
☆☆☆★★
戦後GHQ支配下の検閲のもとで製作された続編。前作より戦いのシーンが多くて、娯楽色の強い作品になっている。アメリカ人ボクサーとの異種格闘技戦など、見せ場ではあるけれど、きわもの的な感じはぬぐえない。後半は前作で打ち負かした月形龍之介の弟達(空手家)との決闘シーンがメイン。ラストはけっこう泣けます。しかし、この作品はフィルムの状態が最悪なのが致命的。セリフが聞き取れん!!(泣)
「虎の尾を踏む男達」
1945年 (演)大河内伝次郎 藤田進 榎本健一 森雅之 志村喬 河野秋武 仁科周芳(岩井半四郎)
☆☆☆★★
この作品は私は今回が初見です。これは実は戦中に製作されたもの。出来上がった頃に終戦になり、GHQの検閲でオクラ入りになっていたものが、戦後の1952年(昭和27年)に公開になった。これは「勧進帳」の映画化作品で、軽くミュージカル仕立てになっているのが面白い。弁慶に大河内伝次郎。(彼は本当に良いな〜)義経に仁科周芳。(仁科明子のお父さん)一行を偽者の山伏と見抜きながら、弁慶の見事さに心を打たれ見逃してくれる関所の役人に藤田進。音声は悪い上に、大河内のセリフまわしが独特なので、何言ってるのかさっぱりな部分が多かったけど、私は役者達の演技を見ているだけで幸せな気持ちになれた。エノケンは狂言まわしです。
「一番美しく」
1944年 (演)矢口陽子 志村喬 入江たか子 河野秋武 菅井一郎
☆☆☆★★
戦時中の作品。戦意高揚映画ではあるものの、女子挺身隊の働く姿をドキュメンタリータッチで描いた作品で、紋切り型の軍国主義映画とはやはり一線を画した作品ではある。若い女の子達がお国のためにとがんばる姿はやはり胸をうつ。主演の矢口陽子は黒澤夫人。この作品で出会い、翌年結婚。
黒澤監督と女の子達の素敵な撮影スナップ。食べるものもない中での撮影。
「素晴らしき日曜日」
1947年 (演)沼崎勲 中北千枝子 渡辺篤 菅井一郎
☆☆☆★★
1946年に東宝の労働争議がおこり、当時のメインのスターは、新しく出来た新東宝へと去ってしまう。そんな中、新人を起用し製作された作品。結婚を約束していながら、お金がないために一緒になれない恋人達の一日を描いた愛すべき小品で、地味ながら、私は当時の東京の風景が見られるだけで大満足でした。この作品は今回が初見です。上野動物園、日比谷公会堂、有楽町のシーンでの旧日劇、焼け跡だらけの東京。
今回、「我が青春に悔いなし」の録画を失敗してしまい、非常に残念です。(涙)以前に見ているのですが、原節子の演技も含めてもう一度見直したかった!三船敏郎が出る前の黒澤映画を支えていた藤田進の主演作品もこれが最後だし。又、機会をあらためて見ようと思ってます
さ〜て、次は「酔いどれ天使」だ〜〜〜。

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