La Morte A Venezia
1971年/イタリア (監)ルキノ・ビスコンティ
(演)ダーク・ボガード ビョルン・アンドレセン シルバーナ・マンガーノ
☆☆☆☆
トーマス・マンの小説をほぼ忠実に映画化したルキノ・ビスコンティの名作。
原作では小説家の主人公グスタフ・アッシェンバッハを、マンがマーラーをイメージして描いた事から、映画では音楽家に変更している。
主人公の心象風景を表現する様に全篇にわたってマーラーの音楽が流れる。
初老の高名な音楽家アッシェンバッハは、芸術とは理性の上につちかわれるものであり、精神性の高さがより芸術を美しくするという信念のもとに作品を創作してきた。
体調を崩し静養のためにやって来たベニスのリド島で、彼はギリシャ彫刻の様に完璧な美しさを持った少年タジオに出会う。
芸術家にとって「美」とは何なのか。努力と良心をもってつくりあげてきた自らの産物たる「美」が、1人の無垢な美しい少年によって崩壊しそうになるのを恐れ彼は、ミュンヘンへの帰還を決心する。
荷物の事故で、結局リドへ戻るハメになった時の、アッシェンバッハの嬉々とした様子のシーンは本当に良い。恋をする人間の姿が胸をしめつける。大好きなシーンです。
少年に夢中になった彼は、話し掛ける事も出来ず、ただ彼の後をつけまわす。髪を染め、顔には白粉をつけ、口紅をさし、滑稽きわまりないアッシェンバッハ。
当地に蔓延していた疫病にかかり、彼は砂浜にいるタジオの美しい姿を見ながら息をひきとる。頭からは髪染の茶色い色をした汗を流しながら・・。
昔、初めて見た時は「何て残酷な作品」なんだろうと思いました。
年老いる事のみじめさと、美しい若者に恋をする初老の男の滑稽さに、悲劇性すら感じたものでしたが、今ならはっきいりとわかります。彼が恍惚たる幸福のうちに息をひきとった事が。
ビスコンティの演出は物凄く丹念で、この小説を素晴らしい名画にしたてあげている。
主演のダーク・ボガートも良いのですが、タジオ役のビョルン・アンドレセンがいなければ成功しなかったろうな〜と思う。母親役のシルバーナ・マンガーノも美しい。
「トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す」 トーマス・マン (新潮文庫) 420円
私の大切な1冊。トニオを読んだ日は感動のあまりこの本と一緒に寝ました。(涙)
しかしマンの文章の素晴らしさは凄いです。ビスコンティが心酔するのも納得よ!

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