「野火」 大岡昇平 (新潮文庫)
☆☆☆☆
著者は太平洋戦争中にフィリピンでアメリカ軍の捕虜となり
レイテ島収容所におくられた経験を持つ。
その際の体験をもとに執筆された代表作の「レイテ戦記」
「俘虜記」は有名。
この「野火」は、いわゆる南方戦線で行なわれた日本軍
兵士による人肉食いをテーマにしたフィクション。
極度の飢えに襲われ、友軍の屍体に目を向ける主人公。
異常な状況の中、彼のとった行動とは。
物語の核は戦争の悲惨さを描くところにはない。
人間を人間たらしめているものとは何かという事。
主人公は人食いの罪に落ちそうになる瞬間、何者かに
よって頭を打たれ気を失う。その後急死に一生を得て帰国
した主人公。以下が小説最後の文章。
もし神が私を愛したため、予めその打撃を用意し給うたならば -
中略
もし彼が真に、私1人のために、このフィリピンの山野まで
遣わされたのであるならば -
神に栄あれ。
私はこれこそが小説というものだと思った。


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