1993年「顔に降りかかる雨」で93年度江戸川乱歩賞を受賞し、女流ハードボイルド作家として一躍名をあげた桐野夏生。今回、この村野ミロシリーズを完読して、桐野夏生という作家のサディスティックなまでに、人間の暗黒部分に迫っていく作品性にうなってしまいました。
この記念すべき話題作は、女性探偵の村野ミロが、親友のノンフィクション・ライターの失踪事件を追うストーリー。彼女に大金を預けていた、カーディーラーの成瀬という男性と共にミロは事件の真相を追う。
彼女は高校時代の同級生だった夫を自殺で失い、心の喪失を抱えながら、新宿2丁目のアパートを自宅兼探偵事務所にして暮している・・という設定。
続く2作目、1994年「天使に見捨てられた夜」では、フェミニズム系の出版社代表の女性から、失踪したAV女優の捜索依頼が入る。失踪した女優の過去を探っていくうちに明らかになっていく真実とは。
「顔に降りかかる雨」(講談社文庫)ISBN 4-06-263291-8 ¥660(税込)
☆☆☆★★
「天使に見捨てられた夜」(講談社文庫)ISBN 4-06-263523-2 ¥680(税込)
☆☆☆★★
欠点だらけの探偵で、女性としての弱さ、人間としての弱さから幾つもの失敗をしながらも、決してあきらめる事なく真実へと迫っていくミロの姿が描かれていて、この2作はオーソドックスにお勧めです。
第3作目、2000年「ローズガーデン」。話題作から6年。ミロシリーズの人気を証明するかの様に、これはミロの世界を描いた短編集。表題の作品は、高校時代のミロと義父の村野善三との、淫らな性的ゲームについて語られる話。ミロの夫となった高校時代の同級生の博夫の精神的苦悩のストーリーでもあり、いきなりミロをとりまく濃密な世界が登場するので、前2作のファンはかなりとまどうと思います。他の作品は、ミロが、隣人のゲイの男性、友部の協力を得ながら解決していく幾つかの事件簿。これらは単純に面白いです。
「ローズガーデン」(講談社文庫)ISBN 4-06-273769-8 ¥540(税込)
☆☆☆★★★
ここで番外篇もご紹介。「ローズガーデン」では、愛した女性の連れ子のミロに淫らな行為を行い、(事実かどうかはわからない)その他の作品でも、度々ミロに助言をしたり、助けの手をさしのべる義父の村野善三の若き日の物語を描く会心作。1995年「水の眠り 灰の夢」。ミロは、義父の開いていた探偵事務所をそのまま引き継ぐ形で探偵をはじめていて、ミロにかなりの影響を与えている人物。
実は、私が一番最初に読んだのはこの作品で、そこからミロシリーズも読み始めたんですよね。
東京オリンピックを間近に控えた東京で、連続爆弾事件が起きる。その事件を追っていた、当時週刊誌の記者だった善三は、ふとした事から女子高生殺人の容疑者にされてしまう。真実を追ううちにたどり着いたおぞましい真実とは・・。この作品もオーソドックスなハードボイルドスタイルで、私は大好きな作品です。
「水の眠り 灰の夢」 (文春文庫) ISBN 4-16-760202-4 ¥660(税込)
☆☆☆★★★
そして続く最終ストーリー「ダーク」については、次回へ続く!

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