1948年/日本 (監)黒澤明
(演)志村喬 三船敏郎 山本礼三郎 小暮実千代 中北千枝子 千石規子 笠置シヅ子 久我美子 飯田蝶子
☆☆☆★★★
「仁義なんていうのはヤクザの安全保障条約みたいなもんだ。あてになるか!」
「人殺しなんて大層な事行ってるが、俺の方がよっぽど殺してるよ」
「酔いどれ天使」こと志村喬は、闇市近くにあるドブの様な溜池のそばで開業する医師。医療用アルコールをお茶でわって飲むほどの酒好きの彼は、お世辞やウソがつけずうだつがあがらない医者だった。そんなある日、手にうけた銃弾を抜きとりに現われた若いヤクザの三船敏郎が、結核に犯されている事を知る・・・。
この作品は、戦後の闇市の世相、衛生状態の問題、そして新しい社会での人間の生き方というものをテーマにした黒澤明監督の秀作です。そして、ついに三船敏郎のデビューとなる作品!!彼が現われたことで、黒澤映画は変わったと言っても過言ではない。日本人ばなれした彫りの深い美青年ぶり、ギラギラと発散するエネルギー、荒々しさと繊細さを紙一重で表現する存在感。
対する主演の志村喬も思わぬ新人にお株を奪われた感はあるものの、見事に酔いどれ医者を演じていました。黒澤監督からの演技の方向性のリクエストで、彼は「駅馬車のトマス・ミッチェルの様に演じた」と語っていますが、なるほどね〜って感じです。
三船の存在感に目を奪われがちですが、この作品は黒澤監督が、あれこれと実験的な映像を試みているのも気になる作品です。三船敏郎が見る「棺桶の中の自分」のシーンは、私は大好きなシーン。非常に斬新で、私は未見なのですが、ベルイマンの「野いちご」の中でそっくりなシーンがあるらしく、このシーンの影響ではないかとの事。それと山本礼三郎との決闘のシーンでの、鏡の使用なんかも面白いと思った。アメリカのサスペンス映画っぽくてステキ。
私自身は、非常に堪能しましたが、この当時結核にかかることが、どれほど絶望的な事だったかを理解できてないとわかり辛い部分はあるかもしれないな・・とも思いました。実は私の父親も若い頃結核にかかって、肺が一つしかなく、色々と話は聞かされていたので理解できたんですけどね。だから、最後に久我美子が完治したっていうのは、「人間の理性の勝利」として、象徴的なシーンなんですよね。
とにもかくにも、三船敏郎の鮮烈なるデビュー作!!です。是非、皆さんもご覧になって見て下さいね!

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