先日同じヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」を記事にさせていただきましたが、作品の素晴らしさに圧倒され、その後彼の作品を3本続けて見ました。今回、まとめて3本ご紹介させていただこうと思います。ちょっとしつこい内容ですが、ゴメンネ。
「ルードヴィッヒ 神々の黄昏」
lUDWIG
1972年/イタリア・フランス・西ドイツ
(演)ヘルムート・バーガー ロミー・シュナイダー トレバー・ハワード シルヴァーナ・マンガーノ ゲルト・フレーベ
☆☆☆☆★
ノイシュバンシュタイン城で有名な、バイエルンの国王ルードヴィッヒ二世の生涯を描いたこの作品。4時間という長尺を全く感じさせない、実に堂々たる大作です。19歳で即位した若き美貌のルードヴィッヒは、現実世界に目を背け男色に溺れつつ歎美の世界にとじこもる。精神異常と診断され40代で謎の死をとげる。ルードヴィッヒには、自身が貴族出身であるヴィスコンティ本人が投影されている。その世界は絢爛豪華にして、恐ろしく悲劇的。熟しきった果実は(貴族制度)、腐敗寸前に最高にかぐわしい香りを放つ。そして待っているものは腐敗(死)だ。
音楽家ワーグナーとの関係も、興味深いです。尚、下世話ながらヘルムート・バーガー、超ステキ!です。
「地獄に落ちた勇者ども」
La Caduta Degli Dei
1969年/イタリア・スイス・西ドイツ
(演)ヘルムート・バーガー ダーク・ボガード、イングリッド・チューリン、シャーロット・ランプリング
☆☆☆★★★
以上の2作と「ベニスに死す」の3本は、ヴィスコンティのドイツ3部作と呼ばれています。共通するテーマは「文化の終焉」。ルードヴィッヒでは貴族社会、ベニスでは19世紀ヨーロッパ文化。この作品で終焉を迎えるものは、ドイツの古き文化そのものだ。築き上げてきた文化や富、教養の全てが純然たる暴力により崩壊していく。それほどの恐ろしい暴力こそがナチスだ。
凄まじい狂気の世界。熟成しつくしたヨーロッパ文化という樽の中からは、膿が溢れ出してくる。見るのがかなりつらい作品。ベルイマン組のイングリッド・チューリンの演技が凄いです!
この映画に関する三島由紀夫の作品評が素晴らしいので、興味がありましたら是非。
「三島由紀夫映画論集成」ワイズ出版刊 ¥5,700(本体)ISBN 4898300138
これは変な映画評を読むよりずっとタメになります。高いけど・・。
「家族の肖像」
Gruppo Di Famiglia In Inferno
1974年/イタリア
(演)バート・ランカスター ヘルムート・バーガー ドミニク・サンダ シルヴァーナ・マンガーノ クラウディア・カルディナーレ
☆☆☆☆

右側のイケメンが、ヘルムート・バーガーです。左はB・ランカスター。
「ルードヴィッヒ」撮影後、脳血栓で半身不随になってしまったヴィスコンティは、自身の死期を意識する様にこの作品を撮影した。(本人は1976年死去。)ローマの邸宅で、静かに絵画の研究をしながら余生を過している老教授のバート・ランカスターのもとに、騒々しいイタリア人家族が同居する事になってしまった。彼は、静かな生活を妨害される事に怒りを感じながらも、美しい男娼のヘルムート・バーガーに息子の様な感情を持つ様になっていく。ラスト、死に行くバート・ランカスターの姿は、間違いなくヴィスコンティ自身の姿。社会主義活動に失敗したために、男娼にまで身を落としてしまった若者への同情も、貴族でありながら、共産党員として生きてきた自分自身の姿の投影。ここで滅びゆくものは、旧世代を代表する自分自身、そしてアメリカ文化に侵食されていくヨーロッパ文化の姿だ。
滅び行くものに対して美しさを感じる心は、日本人にも良く理解できる感性でしょう。しかし、日本人の好む滅びの美学が、潔く散る桜の姿や、枯れ果てていくものへの哀愁だとしたら、ヴィスコンティの描く世界は成熟と腐敗そのもの。成熟しつくしたものの醜悪な美しさに、私の様な純正な日本人は心から圧倒されてしまいます。
1963年の「山猫」(これも素晴らしいのじゃ!)以前のヴィスコンティ作品は、イタリア・
ネオ・リイアリズム調に貧しい人達を主人公にした作品が中心だったのですが、これも又の機会に記事にできれば!と思ってます。

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