このシリーズのタイトルは「今日からできる世界創造」ってことになっているわけで、基本的にはまったくの架空世界を生み出すことについておはなししているわけですけども、架空世界、というものは必ずしも全部架空でなくてもいいんじゃないか、今回はそんなおはなし。
例にあげるのは『犬狼伝説』、あるいは『ケルベロスサーガ』などと呼ばれる、押井守原作による架空昭和史のシリーズ。
日本が太平洋戦争に敗北して、連合国の占領下になるところは「だいたい」同じらしいんだけれど、そこから先、日本の行く末は大きく変化していって……そのあたり詳しくは知らないのだけれど、主要な物語の舞台になるのは、一応独立を取り戻した日本の東京、そこで警察とは別個に治安を預かる「首都警」と呼ばれるひとたちのおはなし。
映画にもなっているし、マンガにもなっていて、その辺を見たことがあるひとは結構多いと思うんだけれど、架空世界好きとして目がいってしまうのはやはり『ケルベロス東京市街戦首都警特機隊全記録』という設定本。
『犬狼伝説』が実際の歴史であるという前提で、その歴史解説資料として1冊まとめてしまった本。もちろん焦点が当たっているのは首都警とその活躍。
だから、彼らの組織の成立からその解体までの流れや、関わった事件、その歴史的背景、さらには武器や各種装備の解説、はたまた首都警独特の作戦行動の解説ページなどあって楽しいわけです。
そこに出てくるのは、見知っているはずの昭和の別のかたち。
例えば日本の風景をバックに、ドイツ軍の車両に乗った首都警巡査、車両は一応警察の所属なので桜の代紋がついている(違ったかな、首都警のマークだけだっけ)――。
なまじ中途半端に知っているだけに、そのミスマッチングの面白さはかなりのものです。
この『犬狼伝説』などは、基本的な世界観を現実に起きながら架空の要素を多く持ち込んで、ひとつの異世界を創りあげたいい例だと思います。
原作の押井氏によると、この世界が私たちの知っている歴史と分岐したのは、はるか日露戦争の頃にまで遡るのだとか。そこから徐々に分岐させていかないと、架空の昭和を成立させるのは難しかったのだそうで(先に首都警のビジュアルデザインありきであったせいもあるのでしょうが)、その意味ではまったく架空の世界を作るのとはまた違った難しさ、面白さがあるようです。
現実の世界に、架空のなにかを持ち込んで、新しい世界設定を作ろう、と思っているひとは、この本を見てみるといろいろ楽しめるんではないかと思います。
ついでですが、この架空昭和史をざっと追いかけるのに映画『立食師列伝』はお勧めです。好みの別れる作りの映画ですが、架空歴史のドキュメンタリーとしてなら相当に楽しめるんではないかと。

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