大塚英志(おおつか・えいじ)・大澤信亮(おおさわ・のぶあき)『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』(角川oneテーマ21)は、新書とは思えないしっかりした論評だった。やられた、また、捨てられない本が増えちゃった、と思った。
単なる「薀蓄」ではなくイデオロギー的視点を有した評論を著し続けている点で、わたしは大塚英志を高く評価している。彼の言うとおり、まんが批評において歴史や史観はなかなか示されない。わたしはまんがの好みであるとかフィーリングに関しては夏目房之介にものすごく近いものを感じる、夏目氏の表現論も評価しているけれど、問題意識という点では大塚氏に軍配が上がると思う。
この本には、共感した部分もたくさんある。ホントホント、国税から賞金が出る賞なんかつくるお金があるなら、基礎研究への支援やアーカイブに使ってよ。
わたしなぞが思いもよらなかったことも、たくさん書いてあった。
『千と千尋の神隠し』がベルリン映画祭でグランプリを獲り、第75回アカデミー賞の長編アニメーション映画部門を受賞した際、日本のアニメは世界に通用した、と思ってしまったクチだった。しかし、じっさいにはアメリカにおける興行収入は一千万ドルで公開された映画関数は714館という、ハリウッド基準から言えばあたりとはいえない数字だったということも、この本で初めて知った。
他のアカデミー賞ノミネート作品と比べた表があって、(2003年3月22日時点のデータ)
「千と千尋」公開館数151、全米興収600万ドル、制作費20億円
「アイスエイジ」公開館数3345、全米興収17600万ドル、制作費5900万ドル
「トレジャー・プラネット」公開館数3227、全米興収3800万ドル、制作費14000万ドル
「リロ&スティッチ」公開館数3222、14600万ドル、制作費8000万ドル
「スピリット」公開館数3362、全米興収7300万ドル、制作費8000万ドル
公開館数なんぞ桁が間違っているのではないかと思いたくなるし、興行収入などでは、いいのと比べると二桁違うわけだ。
ハリウッドは、世界規模で流通を押さえているために、強いのである。アメリカ国内での映画配給は、ハリウッドが牛耳っている。アジアの流通ルートもアメリカの会社が握っていて、日本のアニメをアジアに売るときにはそこを通さねばならないし、「国策」は「対米関係」という問題があってそこに切り込もうとはしない、という現実を、わたしたちは知らねばならないと思う。
結局、自由化という名目で構造を「改革」して、それが結果的に一部の資本家とアメリカの有利になる、というのが日本の「構造改革」のパターンです。(p.277)という部分で、牛肉のことを思い出し、なるほどなるほど、と思ったのだった。

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