正月に、上田早夕里『華竜の宮』(早川書房)を読んでみた。
プロローグ部分は少し硬く感じられたが、舞台となる25世紀に話が移ると目が離せなくなった。
日本沈没どころか、世界の大半が海に沈む、というスケールの大きな海洋SF。ドンブラコンLに参加するまで「海洋SF」というジャンルに対して明確に関心を持ったことはなかったのだが、そんなわたしでもグイグイ引きこまれた。
自分の仕事に誇りを持ち、決して「うまく立ち回ろう」と汲々とすることのない有能だが不器用で誠実な主人公の魅力もさることながら、「陸上民」をサポートするアシスタント知性体の存在。
希少になった陸地に全人類が住むことができないという人間の都合で、生体改造を施された「海上民」の生態や、独自の文化。
主人公と、海上民の顔役は、粘り強く精力的に活動するが、官僚の諍い、国家連合の思惑が、二人の邪魔をする。
そして、さらなる災厄が、人類を待ち受ける。
議論や交渉の目的が「相手を論破する」ことではなく、互いの立場を理解し合い、尊重しながら、両者が益を得る道を模索することだという、当たり前のようでいて蔑ろにされている本来のあり方を思い出さされた。
最初に「硬い」と述べたプロローグだが、登場人物である学者二人の、このやり取りには、ぐっとくるものがあった。
「見たからといって、研究者になってくれるとは限らないよ」
「学者にならなくてもいい。科学に興味を持ってくれれば、それでいいんだ。疑似科学に引っかからず、迷信で他人を惑わさず、研究者を社会的に支える大人になってくれたら、それだけで万々歳じゃないか」
第10回(2010年度)センス・オブ・ジェンダー賞 大賞 、第32回(2011年) 日本SF大賞受賞受賞作
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大変ご無沙汰しております。
更新しようとしたらパスワードどころか、「どのメールアドレスで登録してたんだっけ?」という状態でした。
もう前の読者さんとか残ってないだろうな〜と思いつつも、ぼちぼち綴っていきます。

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