向田さんの書かれたもののうちでは、随筆が特に好きだ。なんと言っても、独特の文体が心地よい。今日は『父の詫び状』を読んだ。古本屋で、90円で売られていた、変色した文庫本だった。そこがまた「昭和」の香りをもっているかのようで、心地よかった。普段は新しい版の、行間がたっぷりとってある文庫本が好きなのだけれども、妙なことだ。
「父の詫び状」や「お辞儀」は、中学受験の問題にもよく取り上げられる。わたしは、「お辞儀」の冒頭部分が特に好きだ。短いエピソードなのだが、黒柳徹子さんの人柄や、黒柳さんに対する向田さんの敬愛が伝わってきて、暖かい気持ちになる。
わたしが自分のことを書いても愚痴にしかならないのに、向田さんのエッセイにはユーモアが漂う。郷愁を呼び起こさせる。
向田さんの文体を真似するのではなく、向田さんの生き方、感じ方に倣いたいものだ。

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