
「砂の女」 安部公房著(新潮文庫)。
「重い障害を生きるということ」を読んでいて,本書に言及する部分があった。そういえば読んでいないなーと思って手に取った。
昆虫に魅せられた教師が,砂地の虫を探すためにやってきたが,ふとしたことで砂の中の集落に迷い込み,穴の中での生活を強いられるという話。当初は抽象性の高い不条理な話なのかと思ったけれど,不条理という点は別としてなかなか読ませる作品でした。
ただ,本書はいわく名作に分類されるので,下手をすると若い世代が手に取るかもしれません。でも,こういうのは大人になってから読むべきものだと思います(安部公房も今でいうアラフォーになってから書いた)。じゃないとおそらくその感覚が十分には分からないと思う。
落ち込んだ砂穴には,女が一人で生活している訳で,そこには性的な要素がそもそも含まれている。しかし,男にしてみれば環境に馴染むことは脱出を困難にすることを伴う訳です。それまで,虫にしか関心のなかったパッとしなかった男が,砂地での生活をあがく様がなかなかの見物。というか,男の独白に人生の年輪を感じるのです。
いつまでも報われない砂かき作業を続けなければならない生活っていうのは,まあ雪国の雪かきがいつまでも終わらない(想像するだけで辛そうですが)ようなもので,それはそれでしんどそうです。しかし,それよりも何よりも男の独白なんだなーこの作品の魅力は,と思うのです。
砂マニアのあなたにおすすめ。

0