
「
アメリカ外交50年
」 ジョージ・F・ケナン著(岩波現代文庫,初版1986年)。
元外交官の講演録を集めたもの。1900年から1950年までの外交政策を振り返ると共に,冷戦時代の米ソについても触れる。
冷戦が終わった現在だからこそ,本書を冷静に読むことができる気がします。以前に,
「国家の罠」を読んだ時に外交の重要性を認識しましたが,本書も外交とは何かを考えさせてくれました。
まず,アメリカの外交なんておよそ考えたことがなかったので,前半は思わぬ知識を得ることができました。米西戦争がアメリカを拡張させる最初の戦争だったんですね。
本書を読んで,外交政策については,専門家の知識,経験が必要であることを改めて認識させられました。その国の歴史や背景,位置などを分析して慎重に外交方針を練ることが重要です。そういう意味では,現在の日本の「特に政治家によるそれ」は,ひどい惨状ですね。靖国問題という遺族会と右翼以外に利害関係のない問題を拉致問題なんかと絡めて,感情的な議論を行う。新しい政権を樹立して,もっとスマートな「外交」を確立することが不可欠な気がします。
また,本書は「アメリカの今」についても考えさせてくれます。世界の警察官を自負し,責任を抱え込む姿は,アメリカ本来の外交政策とも矛盾した姿ともいえます。
本書で衝撃的だったのは,朝鮮戦争がアメリカの日本の再軍備化政策を契機として起きたとの指摘。アメリカが日本をアジアの拠点としたことにより,朝鮮半島から手を引くというメッセージに読んだ北朝鮮政府と日本の再軍備化により均衡が崩れると踏んだソ連の黙認という構図。
朝鮮戦争が1950年6月,日本での警察予備隊の設置が朝鮮戦争後なので,見逃しがちなのですが,1948年にアメリカ政府が日本の再軍備化を要請しているのですね。
ケナンは,この政策を東アジアの安定を害する行為として批判的に見ていますが,考えてみれば憲法9条に反する事態を招来したことが東アジアの安定を害したともいえますね。
ということで,期せずして9条の非武装中立を裏面から支える事実を発見できました。
本書では,軍需産業の危険を説き,民主国家が目的を達する上で軍事的行動は資さないことを繰り返し指摘しています。いわく破壊は何も生まない,政治的な方法によるよりも遠回りだと。
話は変わりますが,トム・クランシーのジャック・ライアン シリーズを思い出しました。国際情勢を分析するアナリストの仕事も魅力的な仕事の一つですね。

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