「フォッグ・オブ・ウォー」 エロール・モリス監督作品(アメリカ,2003年)。
副題が「マクナマラ元米国務長官の告白」となっているように,マクナマラ氏が過去の自分を振り返って,11の教訓を伝えるというドキュメンタリー。
マクナマラは,第2次世界大戦を経験し,ケネディー,ジョンソンの二人の大統領に仕えた。つまり,キューバ危機とベトナム戦争を経験しているという訳です。ハーバード出の秀才で自信家,専門は統計の分野でフォードで働き,取締役にもなっています。
彼の教訓は,次の11
1,敵の身になって考えよ
2,理性には頼れない。
3,自己を超えた何かのために
4,効率を最大限に高めよ
5,戦争にも目的と手段の「釣り合い」が必要だ
6,データを集めよ
7,目に見えた事実が正しいとは限らない
8,理由づけを再検証せよ
9,人は善をなさんとして悪をなす
10,「決して」とは決して言うな
11,人間の本質は変えられない
こうやってみると,2と9は重なっている感じがしますね。また,4〜6は,彼の専門から導き出された部分ですね。
本作のテーマは,自分の過去を振り返るという部分があります。いわゆる戦争責任論争にも繋がりうるテーマだと思います。彼は,アメリカ人らしく,あまり深刻な内省はしません。ただ,彼は自己の職務の遂行にあたって,あたうる限り慎重かつ冷静であろうとしていたことは窺えます。しかし,その彼にしても失敗があった訳です。
第二次世界大戦における対日本戦でも新しい光が当てられていて,新鮮な驚きがありました。まず,B−29。空爆機として有名ですが,飛行高度が高く地上から迎撃しにくいというのを売りにしていたんですね。
衝撃的なのは,日本に対する空爆。東京大空襲も緻密に計算された,なるべく多くの被害を与える(打撃を与える)作戦だったんですね。また,焼夷弾の選択。非常に残酷なことです。
映画の中盤で,アメリカの空爆による日本の被害が,都市の何パーセントが焼失したかというデータで繋がれている部分があるのですが(同面積のアメリカの都市が続いて表示されるため,アメリカ人にとってもイメージしやすいようになっている。)。こういうデーターって,あまりクローズアップされることがなかったので,ショッキングでした。
日本は,先の戦争を区分分けして分析することができていないので,どうしても議論が変な方向に行っています。ちょうど地方紙に,日本の戦争は整理して考えないと分かりにくいが,それが戦争の清算ができていない理由ではないかとの指摘があったけれど,確かにそうだろうと思う。対中国の侵略戦争と対米の戦争では多少性格が異なる。ところが,これを一緒くたに考えようとするため,歪んだ歴史認識になる。
対中国(韓国を含む)は,領土的な野心を含む侵略戦争であって,この点の戦争責任をしっかり認識すること,その上で空爆による被害を記憶し,その悲惨さを自らの侵略行為に重ね合わせて認識すること。これができれば,例えば,レバノンやイラクでの空爆を見て,我が国の受けた被害を思い出す,とかの事が自然にできるだろう。
ベトナム戦争での枯葉剤の使用や東京大空襲について,そこに法はなかった,として深い内省を加えていないが,この辺がまさに今後の国際社会の課題になるだろう。
ジョセフ・S・ナイ・ジュニアが,国際社会の弱肉強食的な現状を指摘していたけれど,状況はまさにそういう状況にある。少しずつ変化の兆しが見えるとはいえ,この分野で日本は法の支配を実現するために今後も積極的な取り組みをしていくことこそが重要だろうと思う。そういう意味では,最近の無責任な軍事強調路線に,危険性を感じる。
本作は,いろいろな事を考えさせてくれる良質のドキュメンタリーだった。

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