「折たく柴の記」 新井白石著,松村明校注(岩波文庫)。
さて,上巻のつづき。江戸といえば,火事といってもいいぐらい火事の被害は深刻ですね。折角蔵書を充実させていても,火事による延焼で,はかなく焼失。大名の居住場所でも火事が起きちゃうし,また燃えるとなかなか延焼を防ぐのが難しい。
白石は,そこで火事の見舞金を,建物の新築や家財道具の購入に充てるのではなく,鎧を一つ新調します。これなら,火事でも大丈夫だろうと。で,やっぱりその後も火事に見舞われたりするのだけれど,予想どおり大丈夫でした。江戸で火災保険を始めるとしたら,かなり保険料を高額にするか,大火の場合の免責条項を設けないと大変でしょうね。
この時期は,天変地異も多いのです。富士山が噴火します。このときのことについても記載されています。江戸も灰だらけ。市中もかなり動揺したでしょうね。
家宣の先代は,徳川綱吉。ということは,生類憐みの令です。馬に乗ることもできず,引いて歩くしかなくなったという記述も見られます。かなり,多くの者が罪に問われたようです。
中巻では,綱吉の逝去に伴い,いよいよ家宣が将軍職につき,白石が手腕を振るう時がやってきます。しかし,初っ端から苦難続きです。お江戸の懐具合は,火の車。それまでは粗悪な財貨を発行して,国費を捻出するという禁じ手を使って凌いで来たことが分かります。白石は,この方法については反対。じゃあ,どうするんだという批判に対して,サイトの変更によって対応します。つまり,返済時期を先送りできるものは,先送り,分割支払いにしてしまい,収益と支払いを平準化できるようにします。
中巻まで読んできて,なぜ本書を買ったのか思い出しました。本書,結構裁判についての記載が多いのです。お寺の間の紛争なんかが懸念事項として,幕府に裁きを求めにやってきます。中巻,下巻には裁判の話がけっこう出てきて,彼我の違いが分かって結構面白いです。
中巻の見せ場は,朝鮮通信使をめぐるやりとりの部分でしょう。秀吉の出兵によって冷え切っていた日朝関係について,国交の再開に際し,将軍側の返書に7代前の国王の名が入っているので削除してくれという要求が来ます。
これに対し,白石,それはおかしいと異議を申し立てます。そもそも7代前というのは,中国の資料によっても影響がないはずだ,仮にあるとしても朝鮮王の国書にも,家光の光の字を用いているではないか,自らの振る舞いを省みず礼といえるかと迫る訳です。周りは冷や冷やしたでしょうね。
しかし,結局双方が文字を削ることで了承します。彼のタフネゴシエイターぶりは,他の部分でも出てきます。単に相手を侮辱するような言葉を吐くのではなく,そのよって来るところを基として,批判していく。タフな外交というのは,こういうのを言うのです。現代でも参考になるでしょう。
(つづく)

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