「バス174」 ジョゼ・パジーリャ,フェリッピ・ラセルダ監督(ブラジル,2002年)。
ブラジルで起きたバスジャック事件を,当時の映像を用いて,リアルタイムに追ったドキュメンタリー。 犯人のサンドロはストリート・チルドレンだった過去を有し,母親が幼い時に目の前で殺されるという経験をしている。本作は,こういう過去について丹念に追っている。
事件は,発生当初からテレビで生中継されるなど大きな影響を与えた。テレビ中継の影響もあって,警察も対応に苦慮する。
バスジャック事件,しかも拳銃を持って客に銃を突きつけたりしているのですから,文句なく凶悪犯です。最近のテロ事件以来,こういう事件には強権的に対峙するのが常ですから,今事件が起きたらすぐに射殺されてしまう可能性が高いでしょうね。
本作は実際の事件映像を用いているため,リアルなのは当たり前ですが,けっこう重いです。背景には貧困の問題があるとはいえ,彼のようなアプローチが共感を呼ぶのは困難でしょう。じゃあ,それで終わりなのか。そういったところの現実の重さみたいなものを考えさせてくれるドキュメンタリーに仕上がっています。
最近憲法がらみで,軍事の問題を考えることが多いですが,目先の「バスジャック」という事実だけしか見ずに対策を取るのはやはり不十分だということを思い知らされます。軍事問題でいえば,例えば南北問題(経済力の格差の問題)の要素を考慮に入れずに,対応を考えても本質的な解決にはならないわけです。
善悪の問題を脇に置いた,「現実」というものを見ていくことは,やはり重要です。つまり,事実,現実は,それをどう評価するにせよ厳然として存在する訳です。そこにどれだけ迫ることができるか,そしてそこから何を掴むか。そういう意味では,本作は一つの素材という気がしました。

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