
「憲法9条 研究と議論の最前線」 畠基晃著(青林書院,2006)。
参議院憲法調査会事務局で調査スタッフとして,主に憲法9条関係を担当してきた著者の書いた資料集的な一冊。
目次は,
第1章 戦争違法化の歴史と国連憲章
第2章 憲法第9条の制定・解釈と今日までの歩み
第3章 憲法9条とわが国の防衛体制の体系
第4章 日本国憲法と集団的自衛権・日米安保
第5章 日本国憲法と集団安全保障・国連・国際平和協力
第6章 憲法と国際法
第7章 日本国憲法と国家緊急権
第8章 憲法第9条の今後(各政党の立場)
調査スタッフというのは,膨大な資料を集めるのでしょう。9条改正の肯否を問わず,政府解釈や各種法を政治家用にコンパクトに整理した資料を本にしたという感じです。著者の考えはほとんど明示されませんが,9条問題を考えるにあたって持っていて悪くはないという感じ。特に法的な側面がよく整理されている。
通読に向くかというと,微妙なところもありますが(とはいえ,通読しましたが),例の如くかなり足腰が鍛えられることは請け合います。特に国際法や国連との関係,9条の歴史については,参考になる記述が多かったです。政府解釈もこうやって並べてみると,その全容が分かります。
注文をつけるとすると,巻末にもう少し詳細な索引が欲しかったというところか(多少,脱字が見られるが,出版を急いだのでしょう。)。
2004年に策定された防衛計画の大綱(新大綱)ですが,完全にアメリカ政府の立場と歩調を合わせるためのものだというのがよく分かります。基盤的防衛力構想を放棄して,
「国際安全保障環境の改善のために国際社会が協力して行う活動(国際平和協力活動)について,防衛力をもって主体的・積極的に取り組む必要がある」(218頁)なんていう記述を見ると,なんだそりゃーと唸ってしまいます。防衛力というのは,主体的・積極的に動かしていくものではないでしょう。それは,つまりは軍事力ではないんかい,と突っ込みを入れたくなります。 結局,こういう歪みが極限まで来て改憲が議論されるというところにまで至っている訳です。
国際的な視点は,9条護憲派にとっては重要だろうと思います。特に国連の最近の活動を知り,これに非武装的な貢献として何ができるかを考えることは最重要課題です。軍事的貢献は結果として破壊しか生みません。イラクでは,日本が来るということでイラクを経済的に発展させてくれるのではないかという幻想がイラクの人々に持たれました。これなんかは国際貢献の意味をよく表していると思います。
紛争解決に破壊的手法は相応しくないというのは,政府が国連で訴えてきたことでもあります。復興を長期のスパンで考えるなら,文民の存在は不可欠です。
で,この文民的な援助というのもうまく活用すれば絶大な効果を発揮できます。そういうノウハウを編み出して,国連の紛争介入におけるニッチ(すきま)マーケットを日本が狙うというのも,賢い選択肢だと思うのですけどね。

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