
「米軍再編」 久江雅彦著(2005.11,講談社現代新書)。
米軍再編協議の舞台裏を描く。著者は新聞記者。こういう政治の舞台裏物が好きかどうかは人によって分かれると思う。とはいえ,突然降って湧いてきた再編問題,一体政治の方では,官僚の方では,どんな話がされていたのかを知るためには重要な一冊。
まあ,結論から言うと,日本側としてはほとんど吟味できなかったし,交渉力を発揮することもできなかったということに尽きるのですが。
でも,だからといって頼りないと言い切れるかというと疑問が残ります。結局アメリカは日本を同盟が重要だと持ち上げてきた訳ですが,それに見合う対等な扱いをしてきたかというと甚だ疑問が伴います。また,憲法9条が存在する日本としての最大限の協力であったという要素をまるっきり分かっていません。
この点の理解がないと,日本は再編協議に消極的だとなるのでしょう。
米国側の論理は,いつものとおりで,日本は石油と食糧の確保が必要だろうから米国に協力するのは当然だ,双方の利害に合致するのだから米の戦略に応じろ,という訳です。日本側も概ね似たような発想。抑止力は維持したいが,住民の反発は困る,何より選挙で困るという訳です。なんか実態を見ずに,相手に合わせて交渉してしまったという感じです。江戸期の不平等条約の締結の時代からこのかた,どうも外交交渉能力が弱いのではないでしょうか。
米軍の再編論理まで含んだ分析をしないと再編協議はうまく行きません。その意味では日本はあまりにアメリカに頼りすぎていると言えます。オール電化住宅にした上で,電力会社と交渉するようなもので,立場が違いすぎます。今回の再編協議では,中国に対する抑止的な意味合いが強調されました。こういうこと自体,東アジアのバランスを危ういものにします。なぜ米国が中国にこだわるかといえば,当然米国の権益を守るという要素が強いためです。このあたりの事情を的確に把握し,牽制していくことが必要なんですが,アジア外交という切り札が錆び付いている政権では,それもあまり期待できなかったということなんでしょうね。
防衛庁の再編協議への関与のあり方も含め(軍事的権益が絡むと相変わらず独走する性格が変わらない),今後の国のあり方を考えさせてくれる一冊でした。

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