
「陸軍中野学校」 斎藤充功著(2006年,平凡社新書)。
日本陸軍のスパイ養成学校,中野学校についての新書。著者の取材過程を記述しながら,全体像に迫るという構想。新書もいくつか出ているけれど,出版社によって字の大きさや中身の濃さが結構違う。本書もさらっと読めるけれど,ふーんって感じで終わっちゃう。まあ,この分野が好きな人にはいいのかもしれないけれど。
さて,そうはいうものの本書を通していろいろ考えました。まずは,謀略の概念が現代に与えた影響ですね。今でも,何かあるとすぐに謀略だという言説もあれば,社会的な発言や運動をすると謀略扱いで呼ばれることもあれば,これを潰すための謀略が使われることもある。人を連帯させないための試みがすなわち謀略な訳です。
近代の戦争は,総力戦の観念から,この謀略を日々の生活レベルにまで撒き散らした。このことによる負の遺産は,強調しても強調しすぎることはないでしょう。とはいえ,未だに謀略戦略は有効であると考える人たちがいることには驚きます。そして,この謀略に対抗するために謀略を知るべきだとなり・・・と謀略の連鎖が続き,一体何を信じていいのか分からなくなる訳です。
つまりは,情報の独占と権威の独占を狙った行動な訳です。これに対し,市民の側からどう立ち向かっていくべきか,これは永遠のテーマだろうと思います。
陸軍中野学校の歴史を見ていくと,どうしても北朝鮮の姿がだぶります。北を批判するには,日本の戦争を考えないといけないという皮肉を,扇情的に北批判を繰り返す人たちは肝に銘じて欲しいと思います。批判するなと言っているのではなく,歴史的な文脈を踏まえないといけないということです。
日本軍は,謀略戦術として,阿片の密売をし,経済戦略のために偽札を作った。お!どこぞの国とそっくりではないか。なぜそうしたか,やはり資金調達と相手国の経済的混乱を狙った訳です。で,当時はそれが作戦として重要だと考えられた。
日本は,ハルノートによって,資産凍結と石油の禁輸措置を受けて対米戦争を決意する。日本としては対米関係の戦争を望んでいなかった。戦争回避のために,「近衛・ルーズベルト会談」を企画した。しかし,結局実現しなかった。
これも,そっくりです。六か国協議ではなく,直接の会談を求めて拒否された事実なんてそのままです。
日本の歴史を踏まえ,北朝鮮に働きかけるとしたら,どういう方法があるのか。日本はもう一度歴史を振り返り,この問題に対する独自のアプローチの可能性を検討すべき時が来ている気がします。

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