
「教育改革のゆくえ」 藤田英典著(岩波ブックレット,2006.11)。
教育基本法の改正問題が今臨時国会の大きな問題である。で,どちらかというと愛国心教育の側面から教育の問題を考えていたけれど,問題はそれだけではない。
いわゆる格差社会の問題は,だんだんと認識が深まりつつあるけれど,同じ事が教育においても進められようとしている。そういう問題点を考えるのには最適な一冊。
一貫性のない改革が進められていくことの恐ろしさを感じる。最長の景気が続いているという報道があったけれど,我々の実感としてはそのような感覚はない。つまり,大企業のみがその恩恵を与っているという状況にすぎない。
そのことは,本書の見返しに掲げられている就学援助率の増加とそれに比例するように増えている私立中学の受験率を見ても明らかだ。静かな格差社会の進展は,教育現場も例外ではないのである。
ゆとり教育が現れた時には,不思議な感覚を持ったものだ。余暇こそ自分を伸ばすと考えていた自分的には歓迎すべきものと思ったけれど,「彼ら」がそんなことを考えるのは何か一貫性がないような気がしていた。で,やっぱりそれが失敗だったようだ。
本書では,ライフラインとしての教育という言葉が出てくるけれど,本当にそう思う。昨日のリヴァイアサンのレビューでも書いたけれど,教育は一部の者だけが恩恵を受けて出世の機会を獲得できれば足りるというものではない。
戦後の教育事情の悪い中で平等な教育の実現に努めた教師たちの努力(例えば,レビューした中では,
映画「愛と希望の街」,
小説「光の中に」がある。)を無にするような改革は一体何を目指すのか。
能力主義の名のもとで,差別を固定化するような方向性は,本当に危険だと思う(つまり,できない生徒たちへの国家予算を削っていく方向性)。低年齢における能力の差は教育環境の良否に左右されることは明らかだからだ。
また,人格と人格のぶつかり合いという教師の職業の特性を踏まえずに,教師を監督すれば足りるという判断も結局は教師の魅力を乏しいものとし,優秀な人材を呼び込まない負のスパイラルを生じかねない。
改革の正体は,一歩踏み込まないと見えてこない。

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