
「リヴァイアサン 第2巻」 ホッブズ著,水田洋訳(岩波文庫)
国家が危機に陥る原因が挙げられています。まずは,絶対的な権力が欠けていること。抑えられないという状況ですね。ワイマール体制なんかを想定すると分かりやすいですかね。次に挙げているのは,善悪の私的判断。各個人が自分で善悪を判断してしまう状況ですね。規範の通用力が弱まった状態ともいえますね。
興味深い指摘は,隣接諸国民の模倣という部分です。これは,発展している国の制度を無批判に模倣しようとする傾向のことを言います。資本主義や民主主義にしても,それが必ずしも国を富裕にすることとは結びつかないのに,そういう期待のもと,あるいはそれ自体が善であるかのように論じられて導入が叫ばれる場合があることを思い出しますね。ホッブズは,こういう部分については基本的に守旧派ですので,そんなことはあるもんではない,と憤る訳です。
資本主義については分かりやすいですが,民主主義すら利用される危険性も,
確かに存在する訳です。
こういう,他国が民主主義を既存の政治権力を崩す目的で利用する場合には,ホッブズの危惧が妥当するでしょう。それによって統合をもたらしていた国家主権がバラバラになってしまい,無秩序化する危険性も確かにある訳です(これは革命一般に伴う危険性です。)。かといって,独裁権力をいつまでも維持しろとはいえないし,と議論はどうどう巡りになりますが,やはりその国の国民が第一に考えていくべき問題であることは疑いをいれないでしょう。
民主国家における軍が人気を得ることの危険性についても,触れられています。
「軍隊というものは,自分たちが人民であると容易に信じさせることができるほど,おおきな力と数をもっている」(253頁)
クーデターの発生なんかを見ると,確かになーと思わされます。
主権者の義務についても述べられています。主権の維持と国制についての教育がそれだと言います。主権の維持という側面では,いわゆる民営化問題が頭に浮かびました。民営化自体が金科玉条のように目的視されていますが,これが無限定に流れると,思い切った制度改革を国が主導になって行うのが困難になりうるという危険性があります。
アメリカでは既に大手企業が政権に巣くうような状態が生じつつありますね。
後者の国制についての教育という側面は,教育改革論議で欠かせないところであるはずですが,こういう議論には至っていません。愛国心だなどとのたまうのであれば,まずは,現在の民主制についての教育が欠かせないというのは自明の理のはずです。
(つづく)

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