
「予告された殺人の記録」 G・ガルシア=マルケス著,野谷文昭訳(新潮文庫)。
ガルシア・マルケスの小説を読むのは今回が初めて。町をあげての盛大な結婚式の翌日に起きた殺人事件を描く小説。27年後に事件を振り返るという趣向により,謎解きのように事件の概要が次第に明らかになってくる。
よくできた一冊。純粋に読んでいて面白い。
結婚式の花嫁が処女ではなかったということから起きる殺人。うーん,やっぱり時代を感じるなー。そして,法もコミュニティーの感情によって左右されてしまったという感じ。
殺人は小説の主題に上がりやすいけれど,本作は殺人へのためらいというものがよく描けている。人を殺すというのは,単純そうでいて単純ではない。そういうところがよく描けているため,リアルな小説になっている。
名誉感情が殺人を呼んだ,というか強いたという側面もあります。
時間が経過した後に,花婿と花嫁が再会するシーンは,本書において唯一ホッとする場面ですね。人の運命は分からぬもの。加害者も被害者も,花婿も,花嫁も。だれかが悪いというのではなく,それは因果の糸で結ばれていたかのように,ちょっとしたことから転がっていく。
そんな自然な流れについても考えさせてくれる。つまりは,事件というのはそういうものであることが多い。どこまで,その襞(ひだ)に入り込んでいけるかどうか。
ガルシア・マルケスは,本書によって,それを成し遂げた。

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