「世界の歴史2 古代オリエント」 岸本通夫他著(河出文庫)。
プラトンの「法律」を読んでいた時に古代エジプトの記述が出てきて,やにわに読みたくなった時に買った一冊。コンパクトな文庫版で図,写真が豊富,メソポタミア文明からエジプト文明まで,いわば中近東の古代史を網羅し,アケメネス朝ペルシアまでを描く。
知らずに読んだのですが,この時代の本としては,決定版の位置づけなんですね。
さて,レビューをする側としては,この手の本は消化するのが難しい。仮にも世界史選択でしたが,シュメール,ヒッタイト,スキタイ,アッシリア,フェニキアとカタカナ語(当たり前ですが)が多いので,なかなかバシッと記憶に留めるのが難しい。まあ,歴史は焦らず,さまざまな媒体で繰り返したり,実際に旅行に行ったり,博物館に行くなどして具体的なイメージと結びつけていくことによって認識を深めるしかありません。とはいえ,受験生活が終わった身の上としては,こういう本を読むのは素直に楽しい。
ギリシャ・ローマに圧倒されていましたが,古代オリエントを知ると,ギリシャ・ローマもずいぶん新しいな,まああれだけの歴史を経ればあの程度には進化するだろうなという認識を持ってしまいます。早く,楔形文字を解読し尽くしてその全貌を明らかにして欲しいと切に思います。
本書で認識を新たにしたのは,メソポタミアとエジプトの置かれた環境の違いについて,具体的にいえば,メソポタミアの方が天災に見舞われることが多かったということ。で,そういう環境の違いが文化にも影響していく訳です。
ピラミッド建築が一種の公共事業だったことを知ったのも意義深かったです。何となく苦役を課したというイメージを持ちがちですが,農閑期に給与を支給された上,ピラミッド建築に従事したんですね。本書では,単なる墓ではなく,宗教施設の意味合いもあったと述べますが,そうでしょうね,やっぱり。墓を作るにしては時間がかかりすぎますし,墓づくりだけを目指していたら,ある意味縁起悪い感じもするし。
古代エジプト社会は実は男女平等だったとか,シュメールの豊かな生活(実は彼らはビール党)とか,古代イスラエルの歴史とか,興味深い話がたくさんあります。
で,こういう昔から複雑な歴史をたどってきた場所に,単純思考のアメリカが介入していくことの愚かさを感じざるを得ません。イラク,シリア,イラン,トルコ,エジプト等々,それぞれに歴史を持ち,それぞれに攻撃し,攻撃された歴史を持つ訳です。やっぱり,当事者が主導しない限り問題解決は不可能です。
イラクに自衛隊を送っている日本人としては,少なくともこのあたりの歴史からスタートして,畏敬の気持ちを持つ必要があるでしょう。

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